背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

未来(手塚×柴崎)

2021年06月24日 04時40分42秒 | 【別冊図書館戦争Ⅱ】以降
「手塚三正のマスク、素敵ですね」
安達が声をかけてきた。
この娘は部内でも有名な笠原のシンパだが、基本人懐っこい性格らしく、手塚にも臆することなく雑談をしかけてくることがある。
あまり下士官にそういうことを振られない質なので、慣れないが、不快ではない。
安達の人柄のせいだろうか。
今日は濃紺のストレッチ素材のマスクを身に着けていた。たしかに、あまり他の人間がつけているのを見ない色だ。
「ああ、そうか。ありがとう」
礼を言うと、
「手作りですよね、手塚三正はいつも。……もしかして、奥様の?」
目ざといな。
手塚は顎のあたりに手を添えて、マスクにちょっとだけ触れた。
着け直す振り。
「ああ」
「素敵、柴崎三正って裁縫もなさるんですか」
安達は顔の前で手を合わせた。すごーい、と。
結婚しても職場では手塚、柴崎と呼び分けられることが多い。
堂上家のように手塚、手塚妻と呼ばれるのも悪くはないが、麻子はあまりそれをよしとしないだろう。そんな気がしている。
「いや。もともとはやらなかったみたいなんだが。今のコロナのステイホームのときに、始めたんだ。
今じゃ夢中になってミシンの前にばかりいる」
けがの功名と、こういう場合も使うんだろうか。
麻子ははじめ手縫いをしていたが、すぐにミシンを購入した。
できるだけ、肌に優しい素材で、汗がこもらないように、呼吸しやすいように。
戦闘職種の俺のことを第一に考えて、一枚一枚作ってくれる。
もともと器用な上、時間はたっぷりあったから、腕前はすぐに上達した。今では笠原やほかの同期たちを家に招いて、作り方をレクチャーしてやるほど。
「旦那様のため、マスクをお作りになる柴崎三正、素敵です。憧れです、手塚ご夫妻」
安達の口調に熱が籠る。
まずい。へんなスイッチが入る前に退散しなくては。
手塚は、じゃあ午後の訓練指導の準備があるから。と話を切り上げた。安達はさっと敬礼を作り、
「奥様にもよろしくお伝えください。どうぞお身体を大切に、と」
「ありがとう。伝えとく」
手塚も敬礼を返しその場を後にした。


今柴崎は仕事から離れ、家にいる。
出産休暇に入って数日経った。予定日は、来月半ば。
ミシンでは、マスク以外に赤ん坊の物を作ることが増えた。型紙をダウンロードして、あれこれ切ったり縫ったり。
初夏のころに産まれる赤ん坊の名前を、目下手塚たち夫婦は相談中。
夏らしい名前がいいな、というのは共有している。
「光っていうあんたの漢字を入れたい」
麻子はそう言う。
あんたの名前は、夏の太陽そのものだもの、と。微笑む。
手塚はそんな彼女を心からいとおしく思う。膨らんだお腹に手を当てる。温かいぬくもりに心が解ける。
光が射すこの世界へおいで。待っているから。
たとえ今がコロナ禍で先行きが不透明だとしても、きっと光は射す。道は明るく照らされる。
未来は訪れる。
歩きながらそんなことを考えて、手塚はふと足を止める。
未来って名前はどうだろう。
子供の性別を教えてくれない麻子。生まれてきてからのお楽しみよ、と言って。
結婚してからも、相変わらずいけずだ。
でも、未来なら、男女どちらでもいい名前だよな。しかも、希望もあるし夏にふさわしい。
うん。今夜帰ったら提案してみよう。
手塚は一つ頷き、訓練場へと向かった。知らず、足取りが軽かった。





男女、どっちの性別の赤ちゃんか考えて……。
なんとなく、このカップルでは男の子かなと思いました。未来くん、良いと思うのですが……。
コロナの時期じゃなければ書かなかったお話ですね。これも怪我の功名?
お読みくださりありがとうございました。
⇒pixiv安達 薫

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