背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

よこしまMermaid

2021年06月18日 18時55分29秒 | CJ二次創作
数十分もそうして抱き合って見上げていただろうか。
星々が光の尾をなびかせながら海に沈み,あたりにまた静寂が訪れる。夜空を彩った60年にいちどの天体ショーはひっそりと幕引きとなった。
「……終わったわね」
長い吐息とともにアルフィンが言った。俺の腕に抱かれて表情は見えなかった。
熱にかすれたような、声だった。
「そうだな」
俺は頷いた。
ずっと見せたかった光景を見せられた、その満足感に浸っていた。
俺は彼女を腕に抱きしめ、離さなかった。
海風が優しく頬と髪をなぶる。
沈黙が流れた。そして、
「素敵だった。……一生忘れないわ。あたし今夜のこと。
きっと何年経っても思い出す」
密やかな、でもしっかりした声が俺の腕の中からした。
「うん」
だといい。君の中に今夜の星空が刻まれたならいい。
そんな風に思っていると、アルフィンがためらいがちに俺を見上げた。
「どうするの、これから」
「……」
夜も更けた。
半年前から用意していたプレゼントはしっかりアルフィンに手渡せた。
だから俺は言葉を差し出せないでいた。
アルフィンはじっと待った。俺は迷った末、言うべき台詞を口にした。
「もう遅い、寝もうか」
模範的な、チームリーダーとしての言葉。でも男としては及第点には遠く及ばない。
その自覚はあった。
「……」
アルフィンが口をつぐむ気配がした。そして、
「……俺の部屋に行こうって言ってはくれないの」
「そんな気障な台詞を吐く男がまだいるのか」
「はぐらかさないで。だったらあたしは朝までこのままあなたとここに居たい」
「……アルフィン」
「ジョウと一緒がいい。今日は一人で寝たくない。
わがまま、聞いて。まだあたしの誕生日でしょ」
とすねる。
確かに時刻は23:57。日にちはまたいでいない。1月12日のままだ。
俺は苦った。
「でも」
「でももストも聞きたくない。いいよって言って。お願いジョウ」
アルフィンは俺の胸に顔を埋めて、口早に言う。
「お姫様みたいに大切にしてくれるのは嬉しいけれど、大切なだけじゃ物足りないの。
ジョウは紳士よ。でもそれだけじゃだめなの。あたしはあなたの男の人の顔が見たいのよ」
アルフィンは俺の痛いところをまっすぐに突く。
ずっとのらりくらりと逃げてきたところ。俺のずるい部分を。
いっそ。
いいよって言えたらどれだけ楽だろうか。
俺の中、理性が揺らぐ。
でも、これだけまっすぐぶつかってきてくれるアルフィンに、これ以上気持ちを隠すのはフェアじゃない事もわかっている。
「俺も、」
観念して俺は言う。
「俺も君の女の顔が見たい。正直に言えば」
アルフィンはそこで俺の腕から抜け出て、半身を起こした。
さらりと俺の頬に彼女の金髪がかかる。
月を背負ってアルフィンが俺を見下ろす。さっきの流星と同じ美しい光を湛えた瞳で。
食い入るよう息を詰めて見ていた。
俺は言った。
「でも、今夜はそんなよこしまな気持ちで君に流星をプレゼントしたわけじゃない。
今夜は,綺麗な星空だけを抱いて眠りについてほしいんだ」
「……気障!」
いきなりそう言ってアルフィンがデッキチェアから立ち上がる。
その反動でチェアが大きく傾き、俺はひんやりと水にぬれたプーサイドに転げ落ちた。
「うわっ!」
かろうじて受け身を取る。鍛錬のたまもの。
アルフィンは俺の前に仁王立ちで柳眉をきりりと逆立てる。
「ジョウの気障! だいっきらい、なんでそんな、~~そんなロマンテイックなのよう。
たまにはよこしまになってよ。不意を見て襲ってくれてもいいじゃない」
お、襲う?
俺は自分の耳を疑った。
さっき、流星群を見ながら涙を流した可憐な乙女が言うにことかいてそれか!
「なんてこと言うんだ。仮にも君は王女様だろう」
「もと、王女です」
「へりくつ言うな」
「ふん。王女様扱いして女扱いしてくれないのは、どこのどいつよ!」
「襲うとか、俺の事なんだと思ってるんだ。動物じゃないんだぞ」
「動物なみの動体視力もってるくせによく言うわ」
もうほんと嫌い。そう言ってアルフィンが俺につかみかかる。
さっき大好きと言った口で、すぐこれだ。あの甘い雰囲気を返してくれ。
俺は頭に来て彼女をいなしながら言った。
「あのなあ俺に女扱いされたかったら、君の女の部分を見せてみろよ」
虚を突かれたのか、アルフィンが一瞬きょとんとなる。
そして、次の瞬間。
プールサイドぎりぎりに立つ俺の腕を把って、いきなり自分からプールに飛び込んだ。
「!」
全くの不意打ち。対処不可能。
俺はアルフィンに引っ張られるまま、どばんと夜のプールに落っこちた。
しぶきが上がる。
アルフィンが水面に顔を出して歓声を上げた。
「冷たい!」
あは、最高~、と濡れた頭を振る。
俺も全身びしょ濡れになって、浮上した。息を継いでから、
「おまえはー。なんでこんな、」
ことをするんだよ。と最後までアルフィンは言わせなかった。
水の中俺の肩に抱きつき,俺の口をいきなり塞いだ。
自分の柔らかな唇で。
「……!」
「……ん」
俺は慌ててアルフィンの身体を引き離そうとして、ーーー全然できない。脳髄がフリーズして全く動かなかった。
アルフィンが身につけていた白のワンピースは、すっかり濡れそぼり、身体に張り付いてしまっていた。
生地が透ける。
布地越しに肌の色が水面に浮かび上がる。
なんて、扇情的な。目のやり場が……。
「……」
ようやく俺を解放し,アルフィンが俺の額におでこをくっつけた。
プールの中央で、抱き合う。しばし、呼吸を整える。
「下着、……つけてないのか」
俺はアルフィンの背に手を回し、気づいたことを口にする。
アルフィンはこくりと頷く。
「上だけじゃなく……もしかして」
「……」
触ってもいいよ。
俺だけに聞こえる声で,アルフィンは言った。
「朝からつけてないよ。いつ、気づくかと思ってた」
「……」
「女の部分を見せてないんじゃないの。あなたが気づかないように、見ないようにしているだけなのよ」
わかる? ジョウ。
そう言って,アルフィンは俺の唇をちょんとついばんだ。
「触って確かめていいの。その権利があるのはジョウだけよ」
あなただけなのに。アルフィンの声が甘く俺の脳髄を溶かす。
「ーー」
ああ、神様。俺は空を仰いだ。
観念。ギブアップ。もうだめだ。目を閉じて俺は低くうなり声を上げた。
動物の本能が牙を剥く。アルフィンに仕掛けられて。
食いしばった歯の奥から俺は声を絞り出した。
「……俺の部屋に行こう、アルフィン。いま、すぐに」
アルフィンは声を上げて笑った。してやったりの笑み。
「そんな気障な台詞を吐く男が実際にまだいたのねー」
「うるさい」
俺はアルフィンの口をいったん塞いでしゃべれなくしておいて、次にプールからなんとかかんとか引きずり上げた。
二人とも全身濡れ鼠。でも大丈夫だ。
俺の予約したスイートルームまでは専用のエレヴェータで行くことが出来る。誰にも会わないし、誰にも邪魔されない。
直行便。
俺に肩を抱き寄せられながら、アルフィンが笑った。
「ジョウ、大好き」
さっきはこめかみにキスを落としてやりすごした。
でも今は違う。
「俺のほうが好きだ。知らなかったろ」
そう言ってエレベータの前でキスをした。長く塞いだ後、離すとアルフィンが濡れ髪を掻き上げて笑う。
「知ってたわ」
ああ言えばこう言う。
でも、前髪からしずくをきらきらとしたたらせて微笑むアルフィンはまるで人魚姫みたいに綺麗だった。
すると、チン、とエレベータが到着を知らせた。ドアが左右に開く。
俺たちははしゃいでその箱に乗り込んだ。
ドアが閉まる直前、遠くの漆黒の空に忘れ物みたいにひとつ流れ星が光る筋を描いて消えるのが見えた。

END

「言葉はいらない」のラストできれいに終わっていれば……というかたはごめんなさい><
絶対に続きがあると、書いていても思いましたもん。。。。
⇒pixiv安達 薫


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