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背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

冬は、スポ根 【9】

2009年03月28日 06時53分09秒 | 【図書館危機】以降


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敵軍の意表を突く上司アタック。
それ以後も進藤と緒形というアラフォー・コンビでそのアタックを炸裂させた。が、いかんせん玄田の投入効果は大きく。小牧のフェイントに翻弄されたダメージも払しょくできないのも追い打ちとなって。追い上げもきかず。
第一セットは結局白組が赤組を下し、ホイッスルとなった。
ぴぴぴぴいーっ!
「やったー!」
「ああ……」
明暗がはっきりと分かれた郁と手塚。
対照的な二人の様子をギャラリーから見つめながら、柴崎は「さて、どうしたものかしらね」と思案顔で頬杖をついた。



「わはははは! 見たか赤組、見たか堂上!しょせんドロンパはオバQの敵ではないのだ。いつの時代も正義は勝つのだ! 主人公がえらいに決まってるのだ!」
チェンジコートの合間。ベンチで水分を補給しながら、がははがははと高笑いを連発する玄田。
これを聞いた堂上のこめかみに青筋が浮かび上がる。ひくひくと頬を痙攣させ隣のベンチに食って掛かる。
「ちょっと待って下さい、なんでそっちがオバQなんですか。主人公の座を確保なんですか」
「そんなの決まっとるだろ。わしらは白組だ、オバQだって白だからな」
羨ましいか! あっかんべーと子供のように舌を見せる。普段ならそんな子供っぽい挑発に乗る堂上ではなかったが、第一セットを奪われた今やられると無性に腹が立つ。歯をくいしばって掴みかかるのをこらえた。
堂上は必死で冷静になろうと努めた。アイスクリーム、北極、ブリザード、冷凍ミカンと思いつく冷たいもの片っぱしから頭の中挙げていく。その甲斐あって少しは落ち着くことができた。
それから、
「あ、隊長。折口さんが取材に」
普段の口調で、二階席を指さして見せる。
「な、なん……っ」
慌てたのは玄田だった。堂上の指先を視線で追って、あたふたとふんぞり返っていたパイプ椅子から腰を浮かせる。「まさか、あいつが今日来るわけ」
「ないでしょう。嘘です」
玄田の後ろの方のセリフに堂上が声をかぶせた。
途端に鬼の形相に変わる。獰猛に牙を剥き、
「どうじょおおおおおお、貴様ア~~~」
吊るされたいか! 今、ここで。ギャラリーの真ん前で、吊るすか。
ものすごい剣幕で食ってかかろうとした。
「た、隊長、落ち着いてください」
「キャプテン、ここで乱闘だとレッドカードで退場もんですよ!」
郁や小牧、その他白組のメンバーが総出で玄田を押さえ込む。そうでなければ、さしもの堂上とはいえ、血祭りに上げられていたことだろう。
しかし白組が猛獣を取り押さえることは織り込み済み。堂上は顔を真っ赤にして「離せ離せ」と喚いている玄田を尻目に、自軍の面子を振り返った。
どの顔も疲労が色濃い。意気消沈している。
特に如実なのが、手塚だった。椅子に深々と腰をかけ、スポーツタオルで頭をすっぽりと覆っていた。
堂上はまっすぐに彼に向かった。対峙する。
手塚は視界に自分よりも一回り小さいシューズのつま先が入ってくるのを確認して、ゆっくりと顔を上げた。
「辛気臭い顔するな。葬式じゃないんだぞ」
そう声をかけるも、手塚の顔は厳しいままだ。
「すみません。俺が足を引っ張っているせいで」
沈痛な面持ちで呟く。
堂上は鼻でちいさく笑った。
「自惚れるな。勝敗は時の運だ。お前のせいとか誰のせいとかそういう問題じゃない」
「だって、」
「だって? その台詞をお前が言うのか」
堂上に指摘され、手塚は赤くなった。
タオルで口を拭う。
堂上は他の先発メンバーも目顔で呼び寄せた。手塚に屈み込み、「いいか、第二セットで巻き返しを図る。大丈夫、こっちにはまだ奥の手がある」と芝居っけたっぷりに口のはたを持ち上げた。
「奥の手?」
緒形が片方の眉を跳ね上げる。それにつられるように、頬の傷もかすかに動く。
ええ、と自信たっぷりの笑顔を見せ、堂上が手塚の肩にぽんと手をかけた。
「こいつがそうです。ウチの組の奥の手、いよいよ解禁といきます」
どの顔もぽかんとキツネに摘まれたように口を半開きにさせている。
中でも一番呆気に取られているのは当の本人だった。
やっとのことで堂上の言葉の意味を噛み砕いて、顔つきを変えた。
「え? ――俺、ですか?」
俺が奥の手? そう言って人差し指を自分に向ける。
疑心に満ちた手塚の戸惑いを振り払うように堂上は晴れやかに笑った。
「そうだ。お前だ。いいか、これから秘策を伝授する」
ひそひそひそひそ。
六つの頭が寄り添い、堂上監督から次なるミッションが明かされた。


「さあ、いよいよ第二セット突入です。解説の山本さん、第一セットを終えて、如何ですか?」
実況がマイクを向ける。
山本は、「そうですねー。なんといいますか、いろんな意味で見ごたえのあったセットでしたね」と切り返す。
「誠に仰る通りですね(笑)」
「特に両チームの監督が選手を押しのけて大活躍しているのが、ああ、特殊部隊らしいな、と。絶対に他のバレーの大会では見られない光景でしょうね。【代打、俺】は」
苦笑に近い、低い笑い声がギャラリーにさざなみのように広がっていく。
そこで手塚がサービスエリアに立った。
呼吸を落ち着けて手にしている白球を見据える。
神経を集中させているのが、ブースからも見て取れた。
「さあ、第二セット、サーバーは手塚選手から。前半はあまりいいところがなかった(こほん、失礼)手塚選手、起死回生なるか?」
うるさい。
心の中、実況を一喝して手塚は邪念を追い払う。
集中集中集中集中……
できるものなら、般若心経でも唱えたい心境だった。でも生憎その心得まではない。
目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。と、そこで審判からコール。
笛の合図が出た。
かっと手塚は両眼を見開き、「手塚、行きまああああスっ!!」とどこぞのガンダム乗りのような掛け声を発した。
手塚のサーブの威力は、コートに入ったらでかい。
まあ、大概は白線の外のホームランボールなのだが。
でも一応白組は、低く腰を落としてレシーブ態勢に入る。手塚はぽおんとサーブトスを上げるかと見せ掛け、す、と身体を水の中に沈めるように身を折った。
えっ?
郁も小牧も虚を衝かれる。
手塚はそのまま、野球のアンダースローのように下手投げの要領で肘を引き、「そおれいいいっ!」とげんこつでボールの尻を思い切り叩いた。
「ああっ!」
「あれは、」
一同、絶句。
手塚が放ったもの。――それは、高い高い、天まで届いてしまうような、大きな弧を描く天井サーブだった!
いつ落ちてくるか、どこに落ちてくるのか、上がった高度がでかすぎて、とっさに掴むことができない。
白組はおたついた。レシーブの態勢が崩れた。
そこへ、アタックライン手前、セッターの間近にボールがすとんと落下してくる。
誰も拾いにいけない。一歩も動けないところを見計らったかのごとく、ぽとん、とコート上に球が降った。
ポイント。赤組。
「よしっ」
まっさきに堂上が握りこぶしを作る。手塚にそれを高く掲げた。
手塚がぱっと晴れやかな表情になった。
「秘技、愛のつるべ落とし! 見たか白組!」
今度はネット越し堂上があざ笑う番だった。
「うぬう」
玄田が口を大きくゆがめる。
堂上、そのネーミングセンスはどうよ? と同じチームでも首をかしげたくなる進藤だったが、ともあれ第二セット、先取点は赤組だった。

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1 コメント

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でもね、 (あだ)
2009-03-28 12:17:20
天井サーブって、打つの難しいんですよ。ホントは…
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