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背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

冬は、スポ根 【11】

2009年04月05日 06時19分04秒 | 【図書館危機】以降


【10】へ

白組のチームメイトが駆け寄るのを押しのけ、堂上が敵陣に突っ込む。
血相を変えて、うずくまった郁の下に駆けつけた。
「笠原、どうしたっ」
郁は、堂上が来るのを見て慌てた。し、試合中なのに、と思いながらも、内心嬉しさがぐぐぐっとこみ上げてつい、
「教官。あ、足を……やっちゃったみたいです」
言ってしまった。
堂上が有無を言わさず郁のジャージの裾をひんむく。
形のいいふくらはぎまでむきだしになったところで、はたと気がついた。
自分たちを見下ろす複数の視線に。慌ててくるぶしまで裾を下ろしてやる。
そこで小牧と目が合う。小牧は笑いたいのを無理矢理堪えているような上戸寸前の顔で、
「あの、言っとくけど、今一応試合中だからね。タイムも取ってないんだけど。分かってる? 堂上」
と言う。
堂上は焦った。
「わ、分かってるに決まってるだろ、そんなの」
嘘だった。ばればれだ。一瞬戦況が完全に頭から抜けた。
小牧は「分かりやすいなあ赤組監督は」と肩を震わせた。
「捻挫か」
審判にタイムを要求して、玄田が訊く。
「多分……」
郁は顔に出すまいとしながらも、ちょっとでも動かすと痛みが走って歯を食いしばるしかない。
「医務室だな、こりゃ。おい、堂上、お前連れてけ」
あっさりと言った玄田にたまげたのは郁だった。
「ええええ。だ、大丈夫ですよ監督。一人で行けます」
立ち上がってみせる。けれども重心を片方にずらしたままでしか、立っていられない。
小牧は首を振った。
「無理しないほうがいいよ。足つけてないじゃない」
「送る」
堂上は無表情でそう言って、郁を横抱きにひょいと抱き上げた。
うわあっと思わず声を上げてしまう郁。ここここ、これは、
「お姫様だっこ~~!? うそお」
タイムアウト中の会場に、郁の声は高らかと響いた。
固唾を呑んで状況を見守っていたギャラリーが、どおっと一斉に笑った。
「馬鹿もん! そんなでかい声でこっぱずかしいことを喚くな!」
さすがに堂上も赤くなる。
けれども郁を抱き上げる手はぶれない。全く。
「だだだ、だって、教官、は、はずかしいです、かなりこの格好は!」
手足をばたつかせる郁の顔に近いところに、堂上の顔が迫る。
怖いほど、真剣な目。
「怪我しているのに恥ずかしいもくそもあるか。行くぞ」
「で、でもっ、試合中ですよ。監督が抜けちゃっていいんですか」
「こっちの手当てのほうが緊急を要するだろう」
お前の方が大事だ、とは口が裂けても言うものか。
堂上はなんとかしかつめらしい顔を維持したまま、「しっかりつかまってろ」と
言ってすたすたと歩き出す。郁はつ、つかまってろって言ったって、みんな見てますともじっと肩に手を置くので精一杯。
「よっ! 色男!」
「笠原、しっかり!」
と、観客から惜しみない拍手が送られた。
「丹念に手当てしてもらえよー。大事にな」
二人の背中に声をかける玄田。その背後に人影が忍び寄る。
「……体よく、堂上を追っ払いましたね。隊長」
玄田はその声に当たりがついたのか、不敵な笑みとともに肩越しに振り返った。
緒形。
視線がぶつかる。
「ふふふ、ばれたか」
悪代官ばりに、肩を揺すって笑う玄田。
「ばればれですよ。ったく、堂上が戻るまで、タイム延長してもらうかな」
「そんなわけにはいかーん。そっちのチョロQがおらん内に、離れた点差を詰めさせてもらうぞ」
外した堂上が聞いたら、目を剥いて怒りそうな台詞を玄田は吐いた。
郁の怪我に少しだけ罪悪感を覚えていた手塚も、つい「きったね」と本音を漏らす。それも玄田は一蹴した。
「勝負の世界は非情なのだ。それはお前たちも身に染みて分かっているだろう。
さあ、審判試合再開だ! 白組メイクドラマ、アンド、メイクミラクルをとくと見せてやるわ!」
えいえいおー!
拳を天に突き上げて、玄田は吼えた。



「さあ、第二セット、白組笠原選手、負傷退場というアクシデントに見舞われました。なぜか赤組堂上監督に付き添われて、目下医務室にて手当ての最中です。こちらから見た限りでは、捻挫のような雰囲気ではありましたが」
「たぶん、腱はイッっていないと思います。はい」
「手当ての後、戦線に復帰できるかどうか怪しいところではありますが、まずは試合が再開される模様です」
中断していた氷川の実況も続行。
それを見計らって、ゲスト席の柴崎がすっと腰を浮かした。
椅子を引き、そこを離れようとする。
氷川も解説の山本もコートに気を取られ、柴崎の動きに気がつかない。
ただ一人、手塚を除いては。
彼はコート上、声を張り上げた。
「柴崎!」
どきっ。
大声で名前を呼ばれ、行きかけた柴崎の足が止まる。
階下の手塚を肩越しに見下ろす。
「な、何よ」
手塚は汗まみれの額を腕でぐいとひと拭いしてから、声のトーンを落として言った。
「お前は行くな。そこでちゃんと見てろ」
「……」
柴崎の瞳がわずかに揺らいだ。まさか自分の動きを見透かされているとは思わなかった。
医務室を覗かなくてはと思っていたのだ。
郁のことが心配だった。堂上が付き添ったからには間違いはないはずだが、それでも怪我の状態によっては、病院に運ばなければならないということになるかもしれない。
野暮だとは思いつつ、少しだけ、ドアの隙間から見るだけ、と席を立ったのだった。
なのに、手塚が止めた。
見透かされているのが何だか悔しかった。いまや会場中の視線が自分に向けられている。実況と解説の二人も、じっと柴崎を伺っている。
彼女の靴のつま先が迷う。行くか、やめるか。
その迷いさえ正確に読んで、手塚がすうと息を吸い込んだ。
「いいから座れ、柴崎」
朗々と響く声が、再度発せられる。
そこで試合再開のホイッスル。
手塚がサービスエリアに入る。もう何も言わず、目だけで柴崎に告げる。
――お前はそこにいろ。しっかり見てろ。
と。
「……」
柴崎は言われたとおり、すとんとまた椅子に腰を下ろした。口をわずかに引き結んで脚を組む。
氷川と山本がちらとそんな彼女に目をくれたが、特に触れることなく「さあ、サーブは再び手塚選手から。出るか?スパイクサーブ。はたまた天井サーブ」とマイクに向かって喋り始めた。


なによ、行くなとか座れとか、偉そうにひとに言って。命令口調で。
手塚のくせに。
柴崎はおかんむりだった。傍目にはむっつりと膨れているようにさえみえた。
でも、心の中にはなんだか照れくささと嬉しさが入り混じったような、甘い想いが湧き上がってきていた。
公衆の面前で呼び止められたことで、なんだかどきどきしていた。
でもそれを認めてしまうと何だかえらく乙女ちっくで厄介なことになりそうだったので、必死に頭にきたという体裁を整えておくしかなかった。
ボールをトスし、サーブに入る手塚の姿がやけに格好よく見えて、やばかった。
手塚のくせに、生意気よ。
何度も胸のうちでそう呟いて、ときめきを受け流そうと柴崎は必死だった。



「戦況は!? 試合はどうなってる!?」
15分後。
郁をおんぶして再度体育館に戻って来た堂上。はあはあと肩で息をして、玉のような汗をこめかみに流してスライド式のドアを開けた。
背中に張りつく郁が「もう大丈夫ですから、下ろしてください~」と何度も懇願しても「だめだ」の一点張り。
負ぶったまま、戸口で熱気で溢れ返るコートを見やる。
幸い、郁は軽い捻挫ということで大きな怪我ではなかった。がっちりテーピングを巻いて、アイシングを施せばいいということだった。
ただし、これ以上の試合への参加は無理。戦線には郁は戻れない。
気落ちしつつも、堂上にお姫様だっこされて、おんぶされて、丁重に扱ってもらえたのが嬉しくて、足の痛みもまるで自分のものではないような、どこか夢見心地だった。
堂上の体温が混じった、汗の匂いさえ、好ましい。
郁を背中にしょったまま、堂上は必死でスコアボードを探す。
そして、目を剥いた。
「!!」
ぴぴぴぴーっ! そこで審判のホイッスルが長々と吹かれ、どおっと観客席が湧いた。

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1 コメント

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作中では冬ですが (あだち)
2009-04-05 06:43:18
もう春なんで、をとめな二人を描いてみました(笑)
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