ほわみ・わーるど

超短編小説会にて短編小説を2013年より書き始めました。
これからも続けていきたいです。

沢井さわさん

2016-04-02 18:56:50 | 創作
沢井さんは一年の休職ののちもどってきていた。

病名はわからないけどなんか精神的なもののような感じで、ずいぶん痩せてきていた。歳は42歳ぐらいだろうと私は思っていた。

 沢井さんが休んでいるときは、私も沢井さんの分の仕事を半分くらい分担しなくてならなかったので、沢井さんがもどってきてくれた時はほっとした。

 彼女も生活があるから、働かなくてはいけないはずだと私は思っていた。

彼女はつらそうなときもあったけど、頑張って仕事をやっているように見えた。

よく仕事の進捗状況などチーフに注意されているのは、聞いていた。

彼女を見ていると、なんか自分の身内のようにも思えてきていた。

彼女も少し明るくなっているような気もしていた。

 週明けに職場に行くと、彼女は来ていなかった。

自分の席に着き、机の上の仕事を片付け始めると、チーフが沢井さんが土曜日に急死したという。

自殺ですか?と聞き返すと、

心不全だったと言う。

 金曜の夜の研修会に自主出席後、自宅に帰り、夜中の2時に急死したとのことだ。ひとりで誰も知らないうちに。

葬儀も密葬で行われるとのこと。

 この一年、私も彼女を頑張らせようとしていたから、私にも責任があるような気がして悲しかった。

 数日後に彼女が急死したという手紙を出す作業を受け持った。一枚一枚丁寧に折ろうという気持ちになった。

 こうして関係者に手紙を出すことで悲しみがシェアされていくような気がして、心がずいぶう軽くなるのを感じた。

「ねえ、沢井さんていくつだったの?」と通りかかった生き字引的な同僚に聞くと

「48、だったんだよ」と教えてくれた。

「へぇ、けっこう歳行ってたんだね。小柄だからもっと若いと思っていた」

 彼女の机の上にはきれいな白いユリの花が飾られ、しばらくかぐわしい香りをはなっていた。