ほわみ・わーるど

超短編小説会にて短編小説を2013年より書き始めました。
これからも続けていきたいです。

幸せをくれたカズコさんの左手

2015-11-16 23:19:26 | 創作
イベントが終わっての打ち上げの用意だということでで、カズコさんが左手で包丁を持ってキャベツを切り出した。
左手で包丁を持つ人は初めてだ。カズコさんは器用にキャベツを千切りにしていく。

美代は思わずカズコさんの動きにつられて、そこに居たのだが、これから焼きそばとお好み焼きを焼くのだと聞いて目を丸くする。
美代はこのイベントにこのメンバーで参加するのは初めてだった。

先ほどまでの元気のいい女性が、今はすっかり大阪のおばさんになりきって、
秋も深まったというのに汗を拭きつつお好み焼きを焼いていく。
焼きそばが少し入っているのはモダン焼きというそうだ、ほかの大阪出身者が言っている。

美代も焼きそばの袋を開けたり、卵を割ったり、卵10個の中に大量のキャベツ、小麦粉を混ぜる作業に加わっていく。
女性数人で炊き出しのようなことをするのはなぜか懐かしく、体が動いてしまう。

10センチくらいの円形に焼かれたモダン焼きの試食は、この上なくおいしい。
こんなおいしいお好み焼きを食べるのは初めてだ。
二口試食させてもらったところで、帰ることにした。

5時に帰るつもりが、もう5時半だ。楽しくて時間が早く過ぎたようだ。

「私試食もしたしもう帰るね」と美代が言うと、
みなびっくりして、焼きそばとお好み焼きを持たせてくれた。
とてもいい匂いが自宅まで続いて、
美代はとても幸せになっていた。

家に帰ると食事を終えたはずの、これから夜勤の息子にほとんど食べられてしまうのだったが。

危ない状態

2015-11-07 15:54:10 | 創作
 ひとり暮らしの中年女である利律子は、洋服が買いたくなった。
あまり古ぼけた格好ではみじめになるからだ。

下着やらスカート、ベスト、ジーンズやらネットで選んで注文をする。
あと猫のえさや、景品付きのお茶、次々ほしくなる料理レシピの本。

高価なものは避けているとはいうものの、
次々と律儀に送られてくるそれらを見ていると、は買物依存性になっているのではないかと不安になってくる。
あとで支払いにキュウキュウになっていくのはあきらかだ。

買物依存性から抜け出すためには、
もっと楽しいことを探さないといけない。
買物より楽しいものって何だろう。

(私にはきっと何かが欠けているのだ)
その何かがなんであるかわからない限り、この危ない状況より抜け出せないだろう。
利律子はため息をついた。