ふらふらおさんぽ日記

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in Londonなう

”come and see” 「炎628」by Elem Klimov

2013-01-15 19:56:59 | 芸術
先日、Farringtonにある22-26というバーでElem Klimovの”come and see”をスクリーニングしていたので友人と一緒に見に行った。

日本題は『炎628』。舞台は白ロシア(Byelorussian SSR)で、1943年の第二次世界大戦中に白ロシアの628村がナチスのドイツ軍によって焼かれ、大量虐殺が行われたことが描かれている戦争映画だ。
映画は1985年に作られたのだけど、カメラワークも素晴らしくて、全く古さを感じさせない、美しくて激しくて衝撃的で、ただ目が離せずにそこから動けない146分だった。
もうはっきり言ってあの衝撃を言葉で表すのは不可能な気がするけれど、がんばって文章にしてみよう。
かなり残虐なシーンも多いと思うのだけど、それよりも主人公の少年や彼を取り巻く人たちが精神的にダメージを受けていくのが目に見えてわかるのがとても痛々しかった。
主役のFlyoraという少年は、映画の冒頭ではへらへら笑う無垢な普通の子(戦時中なので普通ではないシーンは多々あるとして)だったのに、
もう映画後半では顔の表情がどんどん険しくなって、皺の入りようも尋常じゃなく、40歳くらいの貫禄が出ていた。
私は戦争映画というのはそんなに見たことがないが、ハリウッドやそれ以外などで戦争を扱った映画で大衆的に見られるもの、涙を誘うものにとても違和感を感じてきた。
なんで戦争映画なのにこんなに感動して泣いてしまうのか、ちょっと良い気持ちになってしまうのは何故か。そういうことじゃないはずなのにと思っていた。
そしてcome and seeを見てやっとわかったのだが、私はいつも物語に出てくる登場人物たちのリレーションシップ(男女であれ家族であれ)にごまかされて感動してしまい、戦争というものには結局目がいかなかったのだ。
Come and seeでもFlyoraとGlasha、Glashaのパルチザンの隊長に対する思いなど、ちょっとしたリレーションシップはでてくる。でも途中からそんなものはどうでもよくなるのである。彼らにそんな余裕はないのである。
また、映画は残虐で衝撃的だが、実際に人が撃たれる血がどろどろの瞬間とかレイプされるシーンとかがあるわけではない。
そういったことは想像できるけれど、映画の中では直接的には見せていない。あくまで映画において叙情的なのだ。

YouTubeで監督のインタビューがあったので見てみた。彼はもうあの作品を作った後、映画を作るのをやめてしまったらしい。あれだけやれば、そりゃそうだ。もう何も排出したくないだろう。インタビューで興味深かったのは、come and seeの最初のタイトル案がKill Hitlerだったこと。確かに映画の中でもHitler人形を作ったりと、Hitlerに対しての憎しみはにじみ出ていた。ただ、Kill HitlerというタイトルにHitlerただ一人への憎悪を込めたわけではないとのこと。私はKill hitlerからcome and seeへのタイトルの変換はとても素晴らしいと思う。タイトル一つでこんなに映画の印象が違うのだ。日本題で「炎628」になってしまったのがとても残念だ。そしてインタビューでは主役の少年についても述べられていた。少年はcome and seeが初めての出演らしく、Kimovはやはり映画の内容が内容なので彼の精神面などとても心配だったらしく、催眠療法などを使いながらケアしたそうだ。実際に村の住人が一掃に虐殺される場面で彼はほとんど正気を失いそうになったらしい。その少年も今ではおじさんだが、俳優業はずっと続けているようだ。

監督インタビュー
http://www.youtube.com/watch?v=VN9_r1NEnGM

映画
http://www.imdb.com/title/tt0091251/