チエゾウの知恵袋

mixiの日記の方へ移行しました。
(2010.4.5)

愛のひだりがわ

2006-10-24 22:26:59 | 読書メモ
音楽と映像が自然とココロに流れてくる
本が好きになる傾向があります。

例えば、このブログに頻繁に登場する小川洋子の作品。
彼女の作品を読み進めていくと、必ず白のシャツに黒いスカート、
黒の革ストラップの靴を履いた女の子を想像してしまいます。

そして、バックに流れるのは鬼束ちひろの音楽。
『偶然の祝福』という本で鬼束の「We Can Go」(2枚目のアルバムに収録)が
ぱっと流れてきて以来、

小川作品=鬼束ミュージック

の定義が私の中で確立しつつあります。
多分、両者とも言葉をそっと両手で掬い上げるように
作品を産み出しているからだと思います。

鬼束の曲が自ずと流れてきてしまう本に、また巡りあってしまいました。
愛のひだりがわ

岩波書店

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勝手にこの本のテーマ曲を「Castel Imitation」
(3枚目のアルバムに収録)に決定させていただきます
歌詞だけ見ればちょっと重い歌詞ですが(メロディーは明るいです)

私の怒りを吸い上げるヴィーナス
わずかな覚醒を看取る日々さえ
愛して 激しさで見失う正義のナーヴァス
生きて 生きて 生きて 生きて 生きて 生きて


の部分がエンドレスで。
ロールプレイングゲームの曲にも使われたことがあるそうで、
どことなく近未来を読み手に匂わす、この本と繋がる部分があります。

物語は父親が失踪し、母親に先立たれた小学生の女の子の話です。
とにかく、この女の子がかわいそうなんです。。。

小さい頃に犬に噛まれ左手がいうことを効かなくなり、
母親が死んだ後は、母親と住み込みで働いていた
小料理屋の主人から遺産を巻き上げられ、
挙句の果てには学校で、いじめに遭っているのです。
しかし、このお嬢さん、いろんなミラクルを隠しもっているのです。
そのミラクルと、心優しき人たちの支えの中で父親を探す旅に出かけ。。。
というお話です。
いうなれば、現代版のシンデレラでしょうか。
シンデレラと違うところは、自分の力で幸せを掴むところでしょうか。

自分の喜怒哀楽だけじゃなく、
周囲の人の心のひだに触れ、それが共感できる
お年頃の入り口に立った時に読んでいたら、
感動は今の比じゃなかったと思います。
特にラストは、大人になることは純粋な気持ちにオサラバすることということに
既に気付いてしまっているので、余韻を楽しむことができず残念です。

しかし、子どもの頃の正義感や潔白さは「ああこうだったな」と
懐かしむことができ、タイトルのように主人公の「ひだりがわ」を
守ろうとする人や犬の気持ちは本当に暖かくいいものです。



幸福な食卓

2006-10-23 00:36:35 | 読書メモ
2冊目の瀬尾作品です。

幸福な食卓

講談社

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この本も、前回に引き続き「再生」のオハナシ。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」

という衝撃の台詞から物語はスタートします。
一見、穏やかな佐和子の家庭は、お父さんが“脱チチ宣言”をする前から
不協和音が漂っているのです。。。
母親が家を出て、兄の直ちゃんは要領が良く天才肌なのに、
大学にはいかず「シンプル」な生き方を求めている。

一冊を通して、同時に家族それぞれの歯車が上手い具合に
回りはじめたなと安心していたところで、
悲しい出来事が佐和子の身にふりかかります。
それは、文中で

全てが気持ち悪いくらいうまくいっている

全てが二十四日に向けて順風満帆に進んでいて、
     それがなんだか不自然で、私は妙な心地がした


と、佐和子が抱いていた嫌な予感が的中してしまうことを
意味するのですが、あまりにも唐突すぎて
違う意味でびっくりしちゃいました。

予期しない出来事は、誰の身にも起こりうることです。
だから人は「後悔しないように生きていこう」「伝えられる言葉はその時に言おう」と
胸に誓うのでしょうけど、佐和子には幸せになって欲しかったな~。

それにしても、瀬尾さんは現役の先生ということで
教室内の生徒の心情描写が上手いと思います。
高校生になった佐和子が、学級委員になってしまい
苦労をするところは、自然と感情移入してしまいました。

☆をつけるならば、ってところで。




図書館の神様

2006-10-15 20:26:53 | 読書メモ
今日は、いいお天気でしたね~
お天気に誘われ、代々木公園で開催されていた
「スリランカフェスティバル」に行ってきました。
都内にあんなにたくさんのスリランカ人がいるなんてびっくりです。
また、一緒に行った方(日本人)がシンハラ語でスリランカの方と
ペラペラしゃべっていて驚きの連続でした。
ロッティーは旨かった!
カレーも食べたかったけど、すごい人の列でこちらは断念しました

今日の本は、以前「アップします」と宣言しておきながら
なぜかアップし損ねていた瀬尾まいこさんの本です。

図書館の神様

マガジンハウス

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名前の通り「清く」生きようとするあまり、
その正義感で拭い去れない心の傷を抱えてしまった清(きよ)さんの物語。
実はこの作品2回読みました。

初めての瀬尾作品なので、他の作品については分かりませんが

ちょっと人と人との距離の取り方が淡泊かな~

という印象を1回目の読書後に感じました。
浅見さんとの不倫関係にしても、

あんなにあっさりしているものなのかな~

って。
だから、あまりぐっとくる台詞や場面がなく、
感想を自分の中でまとめられなかったのです。

しかし、「なんか引っかかるな~」と思ってもう一度読んでみることに。
こういう経験は初めてです。2回目で見えてくるものがありました。

気になっていた淡泊な登場人物との距離の取り方は、
清が「もう二度と傷つかないように」と思って張っている予防線なのかなと。
「気楽な関係でいいから」と割り切っていた、浅見さんとの関係も
清の「苦しい、辛い」という本音がちらちらするところが
何カ所かありちょっとホッとしました。

先生業にしても、最初は惰性でやっていた部分が
あったように思います。しかし、文芸部の顧問として
垣内君と出会ったことで、すべてが上手く回り始めたんじゃないかと感じました。
だから、タイトルの「図書館の神様」というのは
ずばり垣内君なんじゃないでしょうか。

垣内君自身もクールで、ちょっと過去の出来事に
引きずられているトコロがありますが、文学の楽しさを清に伝え
先生としての、また、人としての自信を清に与えたのは
やっぱり垣内君です。

こんなカラクリが見えてきたら、垣内君が最後の主張大会で言った

僕は一年間、ずっと夢中だった。
毎日、図書館で僕はずっとどきどきしてた。


が、私たちのココロに迫る素敵な台詞になるんだと思いました。

そして、卒業を迎えた垣内君との淡泊な別れ方も、
逆に効果的なんでしょうね。
それぞれの場所で新たな一歩を踏み出そうとする2人の決意が見て取れます。

いろいろな文豪が登場するので、また文豪作品を読み返したくなりました。
特に、山本周五郎。
学生時代は「さぶ」はもちろん、「赤ひげ診療譚」など読みました。
今読み返すと、その頃とはまた違った感想を抱くのでしょうね。

ホテル・アイリス

2006-10-08 10:42:02 | 読書メモ
ホテル・アイリス

学習研究社

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ものすごく官能的な小説でした。
「薬指の標本」なんかも、靴の表現がすごく官能的ですが
それを遙かに超えています。またまた小川さんの意外性を見い出せた作品です。
17歳の少女と老人男性との歪んだ愛が描かれています。
通勤電車の中で読んでいる時に、SMの描写が出てきたりして

「隣のリーマンに、変態と思われていないかしら

って、ドキドキヒヤヒヤした一冊でした。
しかし、読み終わると、老人と少女にとっては別に
歪んだ愛でも何でもなかったのかもって思えてきます。

誰も訪ねてくることのない家に、ひっそりと住むロシア語の翻訳家の老人と、
母親と切り盛りするホテル・アイリスのために
学校も辞め、友達もおらず、生活圏が限られている少女との出会いは
必然的なものだったと言えます。
そして、そんな2人は「縛る」ことでしか愛の形を見い出せなかったのでしょう。
この小説のキーワードは、「縛る」だと思います。
母親の少女に対する独占欲、口のきけない老人の甥に対する嫉妬、
事故で亡くなった(本当は老人が殺した?)元妻のスカーフ・・・などなど
1冊の中に、さまざまな「縛る」が交錯しています。
その具体的な表現が、2人のSMプレイだったのかな?という気がします。

他にも、甥は殺されてしまったのでは?という疑問や
マリーが登場する創作ノートは、老人の妄想ノートだったのかしら?
といういくつかの疑問が残る、読後不思議な感触の残る小説でした。


第三の時効

2006-10-05 00:13:15 | 読書メモ
大学時代の友人・べ~ちゃんのブログで面白いものを発見
私の脳年齢を測定してみました

【あなたの脳は20歳です】

実年齢より若い脳です。脳を活性化できるいい環境にいるようですね。
十分、自分の能力を発揮できるでしょう。今のような環境を維持してください。
他の人より好奇心が旺盛なので、自分の好きなことをやって行けば、
さらに脳は活性化され、思ってもいなかった能力を発見できるでしょう。
自分の脳の個性は自分でしか評価できないものです。
自分の脳の得意なことを発見するために、これからも色々なことに
チャレンジしましょう。

残念ながら、ここのところ残業続きで
俗世と隔離された日々を送っていますが・・・。
とても脳を活性化できるいい環境とは言い難いのですが、何か?
ちなみに脳のタイプは、こんなカンジなんだそう。
    ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

【バランス型・記憶優位型】
右脳と左脳がほぼ同じようなレベルでバランスが取れています。
記憶力もいいようです。論理的であり、なおかつ大胆な判断もできる脳です。
仕事全体を見渡して、指導的なことに向いている脳です。
平均を見極める能力がありますから、広く理解される仕事ができるはずです。
過去の実績などを考慮し、人への評価も非常に公平にできます。

記憶力、からっきし落ちてるんですけどね~。
その場しのぎの、行き当たりばったりなコメントができなくなりました。
適職は、 1位:コンサル系
     2位:総務系
     3位:財務系
なのだそう。。。って、今の仕事、擦りもしてないじゃん!!

余談が長くなりましたが、今日はコレ。
第三の時効

横山秀夫

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横山小説お得意の、アリバイ、時効、密室がテーマのオムニバス小説です。
何度もブログに書いていますが、横山さんの小説を読んでいると
本当に辣腕な記者だったことが窺えます。
実際に、警察担当の記者さんに聞いたところ、横山さんは
警察組織がよ~く分かっているとのことです。
私にはこのリアルさを体感することができなくて、残念ですが 
この「第三の時効」では、刑事さんたちの覇権争いが
すごいことが分かります。どの業界でも結局は一緒なんですね  
こんなディテールがしっかりしているから、登場人物の
心の動きがいきいきしているのだと思います。

タイトル作の「第三の時効」は、どんでん返しの連続です。
衝撃の結末が待っています
二つの時効が成立したところから、物語は加速し、
真犯人が事件から15年経ってやっと暴かれるのです。
楠見班長以外の刑事が、“三番目の時効“があることを
知らなかったため、この話のからくりが成立するのです。
楠見班長の執念が実を結びます。

他にも、事件現場から野性的な勘で真相を掴もうとする村瀬班長が
主人公の回、朽木班長(特徴が思い出せない・・・。でもこういう人って
組織の中に必ずいますよね)が主人公の回とあります。

どの話も、班ごとに覇権争いをしながら事件を解決していく話です。
例外的なものは、「モノクロームの反転」でしょうか。
反発しあいながらも三つの班のチカラにより解決するのです。
これも、すごく面白い話でした。
競争ばっかりではなく、刑事の人情味が垣間見られる
「囚人のジレンマ」もほろりときます。