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別館片隅

オールジャンルにテキスト書き殴り。中途半端上等。文法超無視。
コメントはご自由に。

skinship(塚リョ)

2007-09-04 00:34:32 | 庭球(リョ塚以外)
ビジネスの場で取引先の相手と握手をするように
もしくは、朝の通学路でクラスメートを見つけて「おはよう」と肩を叩くように
極端に言えばラインダンスを踊る際に隣の人間と腕を組むように


それはひどくさり気なく
何でもないように触れあわせるのだけれど

いつしか唇同士を触れあわせることもそのさり気ないことに含まれていることを
越前はふっとした瞬間、気恥ずかしさを覚えるのだった。




彼と交わす何度目か知れないキスの後
唇を離したその後に、今さっきまで触れていたのだと実感すると、とても恥ずかしい思いに駆られる

手が触れあうのとも、肩が触れあうのとも違う
触れあう、という行為だけ見れば全て等号で結ばれるけれど、唇が触れあうことだけは他と意味が変わってくる

今、目の高さよりも少し上にあるその唇が、
自分の唇に触っていたのだとリアルに想像すると目尻が仄かに朱色を帯びた


そうした羞恥を感じ、僅かばかり越前の睫が伏せられると、手塚は不思議そうな顔をして彼の顔を覗き込む
目の前まで降りてきた彼の唇に悔しそうな視線をやり、そして越前は自らそこへと唇を押し当てた





ああ恥ずかしい









遺物

2007-05-04 17:47:49 | 庭球(リョ塚以外)
火が唐突に点いた。

外は雨の降る。昇降口の軒先。
時刻は夕方も終わりの頃。
リョーマがここにいる筈はなかった。
けれど、注視していたが為によく見覚えていた彼の後ろ姿が、そこにあった。

暗い雨雲を憂鬱そうに一度見上げた後、リョーマは傘も差さずに外へと一歩を踏み出した。
彼の項にかかる襟足の髪が僅かに宙へと翻る。

軒先を脱しようとしていたリョーマの肩を掴んだことに手塚自身が気付いたのは、その行動を起こしてからだった。

眼下で彼が振り返る。
突然肩を掴まれたにも関わらず、リョーマに驚いた素振りは無い。
けれど、相手が手塚だということを見上げて知るや、前髪に隠れた眉が怪訝そうに歪んだ。


それまで後ろ姿だったものに顔が現れたことに起因して、火は唐突に消えた。
意気地の無い、と手塚が自身に舌打てるのはこのことを振り返る時になってからだろう。
現況の手塚はただリョーマの肩に手を掛け、服飾店の軒先で突っ立っているマネキン宜しくただ呆然としていた。

「手塚部長?」

表情に倣って、リョーマの声も訝しい調子を孕む。
手塚は漸くリョーマの肩から手を退いた。
けれど不審そうに見上げてくる彼へと応える言葉が思い浮かばない。
リョーマと向き合い乍ら、その場でただ立ち尽さざるを得なかった。

ぱらら、ぱぱぱらら。然して強くもない雨脚がそんな音を上げながら水たまりで波紋を作る。
その音がやけに耳へとこびり付いた。

何をしようとして、彼を引き止めたのか。それが手塚には思い出せない。
思い出すどころか、そもそもそんなことを考えていたのかすら怪しい。

リョーマは先の一言以来、何も口にしない。
手塚も黙りこくったまま。
だから雨音がいやに響いて聞こえるのだと気付いた。




















という小噺の冒頭くさいものが気付けばデスクトップに落ちておりました
おひさしぶりですどうもこんばんは。

外側だけをなぞったROMANCE(引用元は某爆竹のROMANCE)(塚リョ)

2006-08-23 22:53:45 | 庭球(リョ塚以外)
馬鹿な吸血鬼はのこのこと花嫁(生贄)が横たわる部屋へやってきた。
開かれた窓からひらりと。
来るな、と強く祈っていた自分の願いなど、彼は知らない






今夜はとびきりに月が美しい。
月光も燦々と美しく。手塚は室内で深く息を吸って、肺に月の光を蓄えた。
夜はいい。
月光はやさしい。
太陽はこわい。

自分用に誂えられた花嫁へと振り返る。
彼の産毛を光らせるのは優しい月の光だけに許される。その光る様もとても美しくてつい見蕩れる。
彼は囲いの無いベッドの上に安置されている。そしてそこで静かに寝息を立てている。
月に照らされながら。
宛ら、月夜の花嫁。
うっとりとした気持ちに侵されながら、手塚は彼の元へと近付いていく。
毛足の長い複雑な模様が施された絨毯に爪先から踵まで沈む。

彼を花嫁に望んだのは己。
ある日の晩に見てそう決めた。
今回の花嫁は彼しかいないと。彼も見初めた自分のことを知っている。
ただの人間だと勘違いして、とても綺麗な人だと褒めてくれ、ひたりと顔に手で触れた。
あの時の、彼の表情を忘れない。体温の無い肌に触れて、手塚の正体に気付き、驚愕した彼の顔を。
「吸血鬼…」と漏らした彼の声はもう冷たかった。
この国に住む人間ならば、誰しも手塚の存在を知っている。
毎年、領地のどこかで生け贄を住民に要求し、その人間の生き血を吸って生き長らえている手塚のことを。
そして手塚も知っている。彼等が自分のことを疎ましく思っていることを。
けれど、誰も手塚には逆らえないことも知っている。彼らは怖いのだ。吸血鬼が。
だから大人しく生け贄を渡してくる。
手塚が気に入らないのは、彼等が自分の『花嫁』を『生け贄』と呼ぶこと。
毎年、愛しき者の血しか手塚は摂らない。
今年は、つり目で猫毛の、彼。
どれ程、彼が戦慄で硬直していても、手塚は既に今年の花嫁を彼にすると決めていたから、彼の顔色など気に留めない。

もう腕を伸ばせば、彼の頬に触れられる。
しかし、その距離で手塚は歩みを止め、ふと自分が降り立った窓辺を振り返った。
窓の外には、早くも彼を迎えに来た天使達の姿。
これから彼の血と自分の血とが交わる神聖な行為が始まるというのに、なんと不粋な。
どうせ、彼等の目は月夜が無いと見られない。
それならば月を消してしまえば良い。素晴らしくも柔らかい光を注いでくれる月には悪いが、ほんのわずかな間だけ、我慢してもらおう。
手塚はさっと手を翻した。途端に、黒い雲が空を埋め尽くし、月と月の光が掻き消えた。
光が無くとも天使達と違って手塚の目は見える。
今も尚、彼は横たわっている。月光に照らされていた部分には夜の闇が及んでいる。
ああしかしそれでも美しいことに変わりは無い。
宛ら……そう、闇夜の花嫁。
天使達の盗み見る目も無くなり、手塚は再度、彼の方を向き直った。
そして月を消した時同様に、手を宙で翻す。
そうすれば、彼の寝台に白い野薔薇が蔓を伸ばし、周囲を一斉に覆う。
手塚はまた手をひらりと舞わせる。
そうすれば、今度は窓辺一面に白百合が群生する。
薔薇と百合の佳芳が充満した部屋。手塚は止めていた歩みを進ませ、彼が眠る寝台の前で跪き、指を組み合わせた。
ゆったりと瞼を伏せて祈りの時間に入る。

こんなにも麗しい花嫁を娶れる運命に感謝を。
そして死ぬる運命の彼に哀悼を。
全身の血をこれから吸い上げられた彼は、干涸びて死ぬ。そしていつしかその体は腐敗を始め、埋葬されて跡形もなく消えていくだろう。
その儚さと切なさ、そして愛おしさに思わず嘆息が手塚の口を突く。幾度も。

どれほど、そのまま祈っていたことか。
伏せた時と同じような緩慢さで手塚は瞼を持ち上げる。
組んでいた指も揃えて解く。
そして視線を上げ、眠る彼の首に歯を立てようとしたところで、

いつの間にか寝台の上で起き上がっていた彼の視線とかち合う。

ぱち、と手塚が予定調和に無い行動へ驚いているその時、彼の唇は「ごめんね」と動いた。


手塚の胸に、リョーマの振り上げたナイフが食い込む。




奴を殺してこい、と国王から受けていた密命を忠実に実行しただけ。
純銀のナイフはその為に持たされた。
リョーマの中では、全てが予定調和だった。







闇夜の空気を振動させて、手塚の喉から悲鳴が上がった。
悶絶する手塚を見ないようにして、リョーマは更に深く押し込んだ。
瞳孔の開ききった手塚の目がリョーマを見定め、彼はにんまりと笑ってみせると、悲鳴を迸らせ乍ら、ナイフを突き立てるリョーマの腕を掴んだ。
その感触に、びくりとリョーマの身が強張る。逆に殺される。そんな焦燥がリョーマの中を駆けた。
この状況から噛み付かれれば、彼は生き血を得、回復するだろう。彼が今、望んでいるのは血。
そして今、血を体内に巡らせているのはリョーマだけ。
このままでは。
殺される。

けれど、手塚の手は、リョーマの腕を助け、深く、深く、自身へとナイフを食い込ませていった。

「さあ、深く」
断末魔が上がる。
月を覆っていた黒雲が霧散する。
窓辺の白百合と寝台の野薔薇が一斉に枯れて散る。

リョーマの手を握っていた手塚の手が、どろりと腐って融解した。
そしてそのまま、腐敗は腕を駆け上がり、体を溶かし、顔を融かした。
眼窩が露になり、鼻筋がへこむ。唇は干涸び、また融けて。
最後には跡形もなく消え、彼は闇に逝き、闇に解けた。






結局、部屋に残ったのはリョーマと、彼の身に突き立てた銀のナイフ。
ああ。あんなにも麗しい人を殺めてしまった。
仕方なかった。仕方なかったのだ。
彼を殺さねば、この先、永遠に犠牲が出続ける。
けれど殺したくはなかった。
だから今宵、この生け贄を捧げる部屋へ来るなとリョーマは強く望んでいた。
彼が来なければ、彼を殺さずにすむ。
彼を殺さなければ、この恋物語は腐りもせず、跡形もなく消えていくこともなかっただろう。

枯れ果てた野薔薇を一つ摘んで、その場に跪き、リョーマは祈りと祈りの歌を捧げた。



ever lasiting lie (塚リョ)

2006-07-10 01:09:35 | 庭球(リョ塚以外)
枕がふたつ揃えて置かれた蒲団は、”その為”だけに誂えられていて、部屋に通された忍足はその下品さに思わず顔を顰めた。

「言うとくけど、俺は坊を抱かんよ?」
生憎と、あんな話を聞かされた後に能々と抱いてやれる程、忍足の神経は強かにできていない。
むしろ、そんな裏話があるなら、なるべくたった一晩だけでも奇麗な体で過ごさせてやりたい。
こんな死んだ街では忍足の考えの方が戯れだ偽善だと捉えられるだろうけれど、忍足はそれで良かった。
少年は部屋の壁にのっそりと背を預けた。
「別に構わないよ。金さえ払ってくれれば店もオレも何も言わないから」
「…その坊を放って石油掘りに行ったちゅう男の話やけど」
忍足がその話を振れば、無理に服を着崩している少年はふっと遠くを見るように目を細めた。
「バカな男なんだよ。石油なんて簡単に掘り当てられるものじゃないのにさ」

「大丈夫。明日を信じて待っていってくれ」
遠い記憶の中で、絶対の自信を忍ばせながらあの日の彼は言った。
その言葉を信じられる要素なんて何も無いのに。

ばかなひと。


少年はまた遠くを見た。
「…それでも、坊はちゃんと待ってるんやろ?」
「まあね。オレも、バカだからさ」
少年は自嘲的な笑みを頬に乗せた。
「ただ明日を信じて待つだけなの、オレに出来ることは」
今夜もまたまじないの様に呟いてしまう。
信じられる要素なんてどこにもない、優しい、あの嘘の言葉を。

こんなに大きくなりました。(塚リョ

2006-01-27 02:51:39 | 庭球(リョ塚以外)
「あら、リョーマ珍しいわね」
コーヒーメーカーからマグへコーヒーを注ぐリョーマの後ろ姿に倫子が声をかける。
「コーヒーは苦いから、って全然飲まなかったのに」
「誰かさんのおかげで慣れちゃった」
母へ愛想良くそう答えて、リョーマはこたつに待たせていた手塚の隣に座る。
正方形の一辺に二人の人間が座るのは何とも窮屈なものだったが、手塚をぎゅうぎゅうと脇に押して無理矢理座った。
そして、コーヒーの入ったマグをぐいと傾ける。

「生臭いのも苦いのもどんとこいだよ」




「……すいません」
何とはなしに、倫子へ向けて手塚は詫びた。

僕の見る世界。君には違って見えているかもしれない。(塚リョ)

2005-10-14 00:39:33 | 庭球(リョ塚以外)
ただでさえ大きな目をぐるぐると回し、そして次の時には盛大に不審そうに細めてからリョーマは口を開いた。真向かいの手塚めがけて。
「部長の目に、オレはどう映ってるわけ?」
どうしてそんな問いを急にしてくるのだろうか、とつい余所事に考えが及んだことで咄嗟に相槌のひとつも返せずにいれば、リョーマはじとりと睨み乍ら「オレのこと見過ぎじゃない?」そう言った。
「オレの顔ってそんなに珍しいものじゃないと思うんスけど」
「…なかなか落ちてない類だと俺は思うが」
「恋人に対してのろけてもあんまり意味ないッスよ」
やっと口をついた返事をそう躱される。
「見続けるのに飽きないってことは、何か理由があるんでしょ?」
さあ吐け、全部吐いちまえ。そうにじり寄ってこられて、どうやら眺め過ぎていた行為がリョーマの目には異常の沙汰に見えていたらしいとやっと手塚は知れた。
無言プラス薮睨みの波状攻撃を仕掛けつつ、手塚の更なる返事を待つ目前のリョーマを手塚はそれまで以上にじっくりと眺めた後、唐突にリョーマの肩の上辺りの何もない空気を掴んだ。
「この辺りに、花が飛んで見える」
「花ァ?」
そしてそれまで以上にリョーマは顔を”理解不能”とばかりに顰めた。

<、>で物事は決まらない。(忍跡)

2005-10-11 22:34:22 | 庭球(リョ塚以外)
「くそっ、あの野郎」
どすん、とベンチに勢い良く腰を下ろした跡部は憎々しそうな声と顔を晒しつつも、悠然と足を組んだ。その隣に元から座っていた忍足は唐突な隣人に視線を上げた。
見目麗しい顔のパーツがすっかり憤怒のせいで勿体なくも歪んでいる。けれど、その怒った顔でさえ、小奇麗な顔してんな、と思える程、忍足はこの男に惚れ込んでいる。
「どないしたん?随分、おかんむりやないの」
「どうもこうもあるか。あの馬鹿、俺様が朝にメールしてやったのにまだ返事を寄越しやがらねえ」
「あの馬鹿……?…ああ、」
手塚か、と続けた忍足の声が嫌に冷えきっていたことを自分の好意を無駄にばかりする手塚へ怒りを向けていた跡部は気付き損なった。
「どんだけ追っかけても捕まらんと違うの?あいつは」
「この俺様が、跡部景吾が、口説いてやってんだぜ?」
「手塚にはあのオチビちゃんがおるさかいなあ…。無駄骨ちゃうの、やっぱ」
「あのチビ程度に負ける気概か、っつの。俺様が」
「…なあ、跡部ー」
どこか間延びした忍足の声に、跡部はやっと忍足の方を振り向いた。
「ああん?」
「それで言うたら俺はお前をこの世で一番思とるわ」
「は?」
「そろそろちゃんと俺の方、向いたらどうなん?」
抑揚の無い忍足の声は不気味に響いたけれど、それ如きでおののくように跡部の構造は出来ていない。
顰めた眉間を更に顰めて、跡部は足を組み替えた。

月経(塚リョ)

2005-09-14 00:59:24 | 庭球(リョ塚以外)
まるで、女の月のモノみたいに越前は手塚を誘った。
きっちり月イチ。日付けは定まっていないけれど、毎月に必ず一度。

誘われて、拒むわけもない。
唆してくる彼は非常に積極的で、こちらからくっ付けてやった体に腕を回し、蠱惑的に肩甲骨の浮き上がりを指で撫ぜてくる。その様は彼の第一声としてよく用いられる「ねえ」を幾度も繰り返すものと同義。

ねえ。ねえ、ねえ。ねえ、まだ?

そんな空耳が聞こえて、手塚は僅かに体を離し、彼の顎先を指で引っ掛けてゆったりと唇を吸い上げる。そして越前も手塚の背を撫で掻き回し乍らそれにじっとりと舌先で応える。
喰う、襲いかかる、というよりも、丹念に含味し合う。二人の様はそんな風だった。
口唇を滑らせ合い、舌先を絡めては離し、口蓋を撫で、歯列を摩り。動作としては既に一連のものなのだけれど、そんな慣用的なことを二人は緩慢に、けれど永続的に続ける。その最中、キスの隙間を縫って手塚の手は越前の裾からひっそりと侵入を始める。

先にキスを中断したのは越前の方からだった。

腕は手塚の背に回したまま、設けた体同士の隙間を越前の忍び笑いが埋める。酷く愉悦的にそれを零しつつ、越前は手も離し、身を後方に倒して床へ仰向けに転がった。再び手塚へと伸ばされた腕は彼の喉元の辺りにしなりと這わされた。

頬に、唇に、目元に。紅を差し、はたいたかの如く彼の姿を変えさせる。
喉元に絡められた腕を取り、己も体を倒して、手塚はまた越前と体を重ねた。





まるで、女の月のモノのように、手塚は越前に狂惑した。
きっちり月イチ。日付けは定まっていないけれど、毎月に必ず一度。


忍リョに見せかけて塚リョで忍は忍跡。ベースにはエバーラスティングライ(バンプ)

2005-06-01 01:38:07 | 庭球(リョ塚以外)
格子の最も手前にいた猫毛の少年に、忍足は声をかけた。随分と積極的に客引きの素振りをしていたものだから、盛んやね、と揶おうとして。
彼は大きな目を艶っぽく(飽く迄そう見せようと努力して)細めた。
「稼がなきゃ出られないの」
「そん為なら、カラダのひとつふたつどうでもええっちゅうの?」
「だって、バカな男が石油を掘り当てようとして遠くに行っちゃったから」
「ほお。そうか。……その男、坊の”コレ”か」
そう言って忍足は親指を立てて見せるが、少年は、親父くさいよそれ、と笑い飛ばした。
「オレ、すごい値段でここに売られたんだよ。そのすごい値段と同じだけの金がないと返してもらえないの」
「なんや、坊が言うその男っちゅうんは、その”すごい値段の金”も耳揃えて出せへんの?そんな甲斐性ない男のどこがええねん」
「だって、ほんとにものすごい値段なんだから」
そう言って、少年は格子越しに忍足を招き寄せ、そっと耳打ちした。自分が売り飛ばされた”すごい値段”をこっそりと。たった一言で済んだそれに、忍足は瞠目せざるを得なかった。とてもでは無いが、人一人の値段としては過剰に破格だった。目玉が外へと飛び出るかと思った。
「そりゃまあ…なんつうか、その男ちゃうけど、ほんま、石油でも掘り当てな無理な話かもしれんなあ」
「でしょ?オレの為に必死になってくれてんの。嬉しいけどさ」
やっぱ寂しいじゃない。好きな人が遠くにいると。
そう続けて、見目にもしゅん、と少年は肩を落としてみせる。そんな彼の様子を見乍ら、今更に忍足はここで足を止めてしまったことを悔やんだ。
ここまで聞いてしまっては、今晩、目の前のコレを買ってやるしかないではないか。
彼の魂胆もそこだったのだろう。悄然と俯いた口元が、格子向こうの忍足が吐き出した溜息と共ににやりと薄笑いを浮かべた。