若島津が風呂から出てリビングに行くと、無駄に緊張してなぜか正座をしている日向と、その前で面白くなさそうな顔で麦茶を飲んでいる姉の姿があった。
「…日向さん、なんで正座…?」
「さぁ? なんでかしらね、小次郎ちゃん?」
若島津の問いに、香子が答えてチラリと日向を見る。
「………」
ダラダラと日向の額から汗が流れる。その様子から何か姉に言われたのだと、若島津は察しが付いた。
「…何を言ったんだよ?」
姉を見下ろす若島津の瞳に険が宿る。しかし香子はそんな若島津をものともせずに、フッと鼻で笑った。
「さっきお風呂で何してたのって、聞いただけよ」
ウッと若島津が詰まった。そうやって反応するのは良くないと分かってはいる。しかしばれているとはいえ、身内に指摘されると心穏やかではいられないのが人情だ。
そんな弟を香子はため息をつきながら見上げた。
「いいわね、仲良しで」
どこか棒読みのその台詞に、若島津の背中にも冷たい汗がつたう。
「ねねね姉さん! 冷蔵庫にビールあっただろ? 麦茶なんて飲んでないで、そっちにすれば?」
無理矢理話題を変えようと、若島津は冷蔵庫に向かおうとした。
「いいのよ、麦茶で。禁酒してるんだから」
「え? なんで?」
若島津は驚いた。香子は若島津家一の酒豪で、誰も彼女に勝てる者はいない。本人も飲める機会があったらそれを逃す様なことはしない位にアルコールが好きだったはずだ」
「…飲んじゃいけないからよ」
フイと香子は若島津から目を逸らした。
「義兄さんと何かあったの?」
姉が自分のところにきた理由を思い出して、若島津は恐る恐る聞いてみた。まさか飲み過ぎて何かをやらかしたのではと思ったのだ。
「ケンカしたって言ったでしょ」
「何が原因で?」
若島津は姉の横に座ると、その顔を覗き込んだ。自分とよく似た顔に覗き込まれて、香子はどこか居心地が悪そうに視線を逸らした。
「……て言うんだもん」
「え?」
「だから、今度の総合大会に出るなって言うんだもん」
総合大会というのは、全国の若堂流の対抗試合のようなもので、道場ごとに団体戦と個人戦に出場する。香子は個人戦九連覇というとてつもない記録を持っていた。
「十連覇がかかってるって、義兄さん知ってるだろ?」
結婚する前からそれを目標に、香子がきつい練習していたのを知ってる若島津は、義兄が出場を反対するなど信じられなかった。
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すいません、根性切れです~~
続きはまた後日に~
しかし今回日向さんは全く存在がないですね……