それから30分後、俺は口を開けたまま若島津の後ろを凝視していた。
「若島津、いったい……」
「ごめん、日向さん…」
申し訳なさそうに若島津が謝る。
「小次郎ちゃん、チャオv」
にっこりと笑って手を挙げたのは、若島津の姉、香子だった。
「うふふ、貸しを返してもらいにきたわ」
「はぁっ?」
俺が怪訝な声をあげると、香子さんはゆっくりと言い含めるように繰り返した。
「だから、貸しを返してもらいに来たんだってば。さっ、早く小次郎ちゃんちに連れていってよ」
俺はそう言われながらも訳が分からず、若島津と香子さんの顔を交互に見た。若島津が申し訳なさそうに目を逸らす。
「えっ?まさか香子さんも俺んちに泊まるのか?」
若島津の表情から察してまさかと思いながら口にすると、香子さんはさも当然という様に言ってのけた。
「当たり前でしょう。ほかにどこに行けって言うのよ。これから一週間よろしくね。あたしイタリアは初めてだから、面白いところの案内も頼むわねv」
「ええっ!なんで案内まで……」
狼狽えた俺が思わず声をあげると、香子さんはスッと目を細めた。
「言ったでしょ、貸しを返してもらいにきたって。これでも一番簡単そうなのを選んだのよ。それとも何?例えば交際を断るのに、小次郎ちゃんを勝手にあたしの恋人ってことにして、使ってもいいっていうの?」
それで良いのなら、あたしにとってもその方が便利なんだけど。
少し意地の悪い顔でそう言う香子さんの隣で、若島津が焦ったように首を横に振っている。
分かっているさ。俺だってそれだけはごめんだ。俺は深く深くため息をついて、とうとう降参した。
「わかしました…案内させていただきます……」
「ありがとう、よろしくね小次郎ちゃんv」
勝ち誇った彼女は、にっこりと美しい顔で笑ったのだった。
結局のところ俺は練習もあるので、一週間丸々付き合った訳ではなかったが、自由になる時間はほぼ香子さんの為に使うはめになった。
そんな訳で若島津とイチャイチャすることができず(一度実力行使しようとして、半端ない力で蹴り飛ばされた)俺はごちそうを目の前にしながら待てを強いられているような状態だったが、かといって香子さんを恨むわけにもいかず、悶々としながら一週間を過ごしたのだった。
最終日、俺は若島津と一緒に、香子さんを空港まで見送りにいった。
「一週間ありがとう。おかげで楽しいイタリア旅行だったわ。健はもう一日だけ小次郎君の所に置いといてあげる。いい、これに懲りたらあたしに貸しを作るような真似はもうしないのよ。隙を作ってつけ込まれたら、傷付く人間が沢山いることを忘れないで」
にっこりと笑ってはいるが、その瞳が真剣なのを見て、俺は深く頷いた。
「もうしません。次ぎやったらそれこそガツンと香子さんに叱られちまう」
「そうよ。今度は小次郎君の名前使いまくるからね」
今度は本当に笑った香子さんは、時計を見ると荷物を持って立ち上がった。
「そろそろ時間だから行くわ。二人の時間を邪魔してごめんなさいね。でも…」
悪戯っぽそうに瞳が煌めく。
「今までの分を取り戻そうとして、明日健が飛行機に乗れないような事になるのはやめてね」
「香子さん!
「姉さん!」
二人分の悲鳴を背に受けながら、香子さんはコロコロと笑いながら去っていった。どっと脱力感が襲ってくる。
「なんか…疲れたな…」
「ええ……」
二人してぐったりとした面持ちで頷きあう。
俺は久しぶりに正面から若島津を見ながら、今し方去っていった香子さんを思い浮かべた。彼女は若島津によく似ている。顔は勿論だが気質まで。俺の好きな若島津と同じDNAをもつ彼女。
「憎めないよなぁ……」
思わずこぼした俺のつぶやきに、若島津が首を傾げる。
「なんでもない。行こうぜ、時間がなくなっちまう」
俺は立ち上がると若島津を促して空港を後にした。
やっと訪れた愛しい人との時間を噛み締めながら。
**********************************
やっとやっと『DNA』終了です。
8月が終わるまでに終えられて良かった~
日向さんの一人称は思ったよりも書きにくくてなかなか筆が進まなかったっす…
それではここまでお付き合いありがとうございましたv
また少ししたら新しいのを書こうと思いますので、よろしくお願いします
「若島津、いったい……」
「ごめん、日向さん…」
申し訳なさそうに若島津が謝る。
「小次郎ちゃん、チャオv」
にっこりと笑って手を挙げたのは、若島津の姉、香子だった。
「うふふ、貸しを返してもらいにきたわ」
「はぁっ?」
俺が怪訝な声をあげると、香子さんはゆっくりと言い含めるように繰り返した。
「だから、貸しを返してもらいに来たんだってば。さっ、早く小次郎ちゃんちに連れていってよ」
俺はそう言われながらも訳が分からず、若島津と香子さんの顔を交互に見た。若島津が申し訳なさそうに目を逸らす。
「えっ?まさか香子さんも俺んちに泊まるのか?」
若島津の表情から察してまさかと思いながら口にすると、香子さんはさも当然という様に言ってのけた。
「当たり前でしょう。ほかにどこに行けって言うのよ。これから一週間よろしくね。あたしイタリアは初めてだから、面白いところの案内も頼むわねv」
「ええっ!なんで案内まで……」
狼狽えた俺が思わず声をあげると、香子さんはスッと目を細めた。
「言ったでしょ、貸しを返してもらいにきたって。これでも一番簡単そうなのを選んだのよ。それとも何?例えば交際を断るのに、小次郎ちゃんを勝手にあたしの恋人ってことにして、使ってもいいっていうの?」
それで良いのなら、あたしにとってもその方が便利なんだけど。
少し意地の悪い顔でそう言う香子さんの隣で、若島津が焦ったように首を横に振っている。
分かっているさ。俺だってそれだけはごめんだ。俺は深く深くため息をついて、とうとう降参した。
「わかしました…案内させていただきます……」
「ありがとう、よろしくね小次郎ちゃんv」
勝ち誇った彼女は、にっこりと美しい顔で笑ったのだった。
結局のところ俺は練習もあるので、一週間丸々付き合った訳ではなかったが、自由になる時間はほぼ香子さんの為に使うはめになった。
そんな訳で若島津とイチャイチャすることができず(一度実力行使しようとして、半端ない力で蹴り飛ばされた)俺はごちそうを目の前にしながら待てを強いられているような状態だったが、かといって香子さんを恨むわけにもいかず、悶々としながら一週間を過ごしたのだった。
最終日、俺は若島津と一緒に、香子さんを空港まで見送りにいった。
「一週間ありがとう。おかげで楽しいイタリア旅行だったわ。健はもう一日だけ小次郎君の所に置いといてあげる。いい、これに懲りたらあたしに貸しを作るような真似はもうしないのよ。隙を作ってつけ込まれたら、傷付く人間が沢山いることを忘れないで」
にっこりと笑ってはいるが、その瞳が真剣なのを見て、俺は深く頷いた。
「もうしません。次ぎやったらそれこそガツンと香子さんに叱られちまう」
「そうよ。今度は小次郎君の名前使いまくるからね」
今度は本当に笑った香子さんは、時計を見ると荷物を持って立ち上がった。
「そろそろ時間だから行くわ。二人の時間を邪魔してごめんなさいね。でも…」
悪戯っぽそうに瞳が煌めく。
「今までの分を取り戻そうとして、明日健が飛行機に乗れないような事になるのはやめてね」
「香子さん!
「姉さん!」
二人分の悲鳴を背に受けながら、香子さんはコロコロと笑いながら去っていった。どっと脱力感が襲ってくる。
「なんか…疲れたな…」
「ええ……」
二人してぐったりとした面持ちで頷きあう。
俺は久しぶりに正面から若島津を見ながら、今し方去っていった香子さんを思い浮かべた。彼女は若島津によく似ている。顔は勿論だが気質まで。俺の好きな若島津と同じDNAをもつ彼女。
「憎めないよなぁ……」
思わずこぼした俺のつぶやきに、若島津が首を傾げる。
「なんでもない。行こうぜ、時間がなくなっちまう」
俺は立ち上がると若島津を促して空港を後にした。
やっと訪れた愛しい人との時間を噛み締めながら。
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やっとやっと『DNA』終了です。
8月が終わるまでに終えられて良かった~
日向さんの一人称は思ったよりも書きにくくてなかなか筆が進まなかったっす…
それではここまでお付き合いありがとうございましたv
また少ししたら新しいのを書こうと思いますので、よろしくお願いします