今日は少し趣向を変えて。回路そのものの話ではありません。
新型コロナウィルスによる社会的影響(所謂コロナ禍)が始まって久しいですが、小中高校ではもう通常授業が始まって、少し短い夏休みが始まったらしいとも聞きます。一方でどういうわけか大学はまだほとんどが通常授業を再開しておらず、いまだに遠隔授業が行われています。私の大学も例外ではなく、研究室には行けるようになりましたが、申請制になっています。見方を変えれば、これはすなわち自分が自分に投資する時間が増えたということでもあります。
私の所属する研究室は主に通信工学に関する研究を行っていて、私自身は通信のハードウェアに関する研究をしています。しかし私の周りでは、ハードウェアについて学んだり研究したりすることを嫌う人が非常に多いです。というのも「理解しにくいから」「電磁気学や電気・電子回路が難しいから」「これからはディジタルの時代だから」という理由だそうです。逆に僕はアナログ電子回路や通信技術を学びたくて大学に来た人間なので、喜んでハードウェアの研究をすることにしました。
前述のとおり、通信系ハードウェアの研究を行う際に必要不可欠なのが「アナログ電子回路」「電磁気学」「電気回路」「電磁波工学」「通信工学」の5つです(場合によってディジタル電子回路も含めうる)。このなかでも特に電気回路とアナログ電子回路は「理論を現実に適用して利用する」という点において電子工学という学問の本質を表してる分野であると考えます。電磁気学などの基礎理論を基にして、これらをしっかりと、そして楽しく有意義に学べば、電磁気学や電磁波工学で難解な数式は、一気に現実世界のものとなって目の前に現れ、私たちの生活を豊かにします。一方で現実は理論のようにうまくいかないことが多く、数式だけでは表現できないことも多くあります。アナログ回路でいえば、現実のオペアンプと理想オペアンプの違いや、トランジスタが実際は熱を持つために、それによってhパラメータが変動するので適当な熱結合が必要なことなどがそれに当たります。この辺りの「理論と現実の違い」が生む教科書的な説明が恐らくハードウェアや電気・電子回路が難しいと感じる由縁になっているのでしょうが、これを学ぶことこそが工学の本質ではないのでしょうか?
このことを切実に問うているのが「アナログエンジニア」というブログです。
このブログは岡山努先生(以下先生)が書かれていました。残念ながら2012年に亡くなられています。先生は東京大学を卒業されてから長年アナログエンジニアとして勤務された経験があり、その知識と経験、教養の深さは、わずかなブログの文章からでも十分に読み取れるほどのもので、私が個人的に最も尊敬する技術者の一人です。
先生は多くの著書を出版されており、アナログ回路技術者を目指す身としていつか読みたいと思っていましたが、多くの著書が廃盤となっていて入手ができず、ほとんど諦めていました。しかし最近研究室に行くようになって、実験室所蔵の本棚の整理を任されたときに、多くの先生の本が所蔵されていることに気づきました。私は喜んでこれらの本を持って帰りました。まだあまり読めてはいませんが、演習問題の内容が、普通の教科書のそれとは全然違います。先生の書く著書は「いかにして理論上の知識を現実問題に引っ張り出すか」に主眼を置いており、それゆえに演習問題も単なる座学ではなかなか理解できないパラメータまで含まれています。また学び終わったらブログに書きたいと思います。
外出できないストレスが溜まる昨今ですが、自分に投資する時間を得たと思えば随分といい時間です(研究は忙しいですが...)。先生の本にたくさん出合えたことも何かの縁と思って、時間が取れる今こそ読み込みたいと思っています。ハードウェアの面白さは、ひとえに先生の本の難しさにその本質があると思うのです。