「人間の絆」 モーム著
この本の中にこんな話がある。
昔、東方のある国の王が、「人間の歴史」を知りたいと思った。
王は学者に命じて、書物を集めさせた。学者は五百巻の書物を選んで宮廷に運び込んだ。だが政務に忙しい王には、とてものことにその五百巻の書物を読む時間がない。そこで王は学者に命じてその五百巻を要約した書物をつくらせた。
二十年ののちに学者は五十巻の書物を宮廷に持参した。王は、そのときには時間の余裕ができていた。けれども、二十年の歳月は王の気力を減殺していた。五十巻もの書物を読むのにうんざりした王は、再びそれを要約し、圧縮するようにと学者に命じた。
それから二十年後、白髪になった学者が一巻の書物を持って宮殿にきた。たった一巻である。しかし、そのときその一巻の書物すら王は読むことはできない。なぜなら王は死の床にあったからである。そこで学者は、死にゆく王の耳にこう語った。
「人は生まれ、苦しみ、そして死にます。王よ、これが人間の歴史です。」
それを聞いて王は莞爾と笑って死んでいった。 という話です。
モームはこの東洋の逸話をきいて悲観はしなかった。逆に楽になったといっている。「人生の意味など、そんなものは、なにもない。そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ。彼が、生まれてこようと、こなかろうと、生きていようと、死んでしまおうと、そんなことは、一切なんの影響もない。生も無意味、死もまた無意味。」そう悟った。今こそ責任の最後の重荷が、取り除かれたような気がした。そしてはじめて、完全な自由を感じたのだった。
そうモームは語っている。なかなかおもしろい。
この本の中にこんな話がある。
昔、東方のある国の王が、「人間の歴史」を知りたいと思った。
王は学者に命じて、書物を集めさせた。学者は五百巻の書物を選んで宮廷に運び込んだ。だが政務に忙しい王には、とてものことにその五百巻の書物を読む時間がない。そこで王は学者に命じてその五百巻を要約した書物をつくらせた。
二十年ののちに学者は五十巻の書物を宮廷に持参した。王は、そのときには時間の余裕ができていた。けれども、二十年の歳月は王の気力を減殺していた。五十巻もの書物を読むのにうんざりした王は、再びそれを要約し、圧縮するようにと学者に命じた。
それから二十年後、白髪になった学者が一巻の書物を持って宮殿にきた。たった一巻である。しかし、そのときその一巻の書物すら王は読むことはできない。なぜなら王は死の床にあったからである。そこで学者は、死にゆく王の耳にこう語った。
「人は生まれ、苦しみ、そして死にます。王よ、これが人間の歴史です。」
それを聞いて王は莞爾と笑って死んでいった。 という話です。
モームはこの東洋の逸話をきいて悲観はしなかった。逆に楽になったといっている。「人生の意味など、そんなものは、なにもない。そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ。彼が、生まれてこようと、こなかろうと、生きていようと、死んでしまおうと、そんなことは、一切なんの影響もない。生も無意味、死もまた無意味。」そう悟った。今こそ責任の最後の重荷が、取り除かれたような気がした。そしてはじめて、完全な自由を感じたのだった。
そうモームは語っている。なかなかおもしろい。