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3丁目の夕日/教職課程講座

明日のための演習メモ

第Ⅰ部 総論

2007-07-27 21:31:02 | Weblog
(1)義務教育の目的・理念

 変革の時代であり、混迷の時代であり、国際競争の時代である。
 このような時代だからこそ、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成を担う義務教育の役割は重い。
 国は、その責務として、義務教育の根幹(機会均等、水準確保、無償制)を保障し、国家・社会の存立基盤がいささかも揺らぐことのないようにしなければならない。

○  憲法第26条は、すべての国民に教育を受ける権利を保障し、また、その権利を実現するために、義務教育の制度が設けられている。
 義務教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と、国家・社会の形成者の育成の二点であり、このことはいかに時代が変わろうとも普遍的なものである。


○  子どもたち一人一人が、人格の完成を目指し、個人として自立し、それぞれの個性を伸ばし、その可能性を開花させること、そして、どのような道に進んでも、自らの人生を幸せに送ることができる基礎を培うことは、義務教育の重要な役割である。
 自らの頭で考え、行動していくことのできる自立した個人として、変化の激しい社会を、心豊かに、たくましく生き抜いていく基盤となる力を、国民一人一人に育成することが不可欠である。


○  同時に、義務教育は、民主的、平和的な国家・社会の形成者として必要な国民としての資質を育成することをその責務としている。
 文化・政治・経済・科学・技術などあらゆる面において、これからの社会の在り方は、それを担う人材によって決定される。
 我が国が、変動の激しいこれからの時代において、今後とも国際的な競争力を持つ活力ある国家として、また、世界に貢献する品格ある文化国家として発展するためには、国民一人一人が、そのような国家・社会の形成者として、それぞれの分野で存分に活躍することのできる基盤を、義務教育を通じて培う必要がある。


○  こうした義務教育の目的に照らせば、学校は、知・徳・体のバランスのとれた質の高い教育を全国どこでも提供し、安心し信頼して子どもを託すことのできる場でなければならない。
 国民が質の高い教育をひとしく受けることができるよう、憲法に定められた機会均等、水準確保、無償制という義務教育の根幹は、国がその責務として保障する必要がある。
 特に、現代社会では、すべての国民に地域格差なく一定水準以上の教育を保障する義務教育制度の充実は、格差の拡大や階層化の進行を防ぐセーフティ・ネットとして、社会の存立にとって不可欠なものとなっている。


○  変革の時代であり、混迷の時代であり、また、国際競争の時代でもある今日、人材育成の基盤である義務教育の根幹は、これまでのどの時代よりも強靭なものであることが求められる。
 教育を巡る様々な課題を克服し、国家戦略として世界最高水準の義務教育の実現に取り組むことは、我々の社会全体に課せられた次世代への責任である。

(2)新しい義務教育の姿

 学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。公立学校に対する不満も少なくない。
 我々の願いは、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことである。
 そのために、質の高い教師が教える学校、生き生きと活気あふれる学校を実現したい。
 学校の教育力、すなわち「学校力」を強化し、「教師力」を強化し、それを通じて、子どもたちの「人間力」を豊かに育てることが改革の目標である。

○  学ぶ意欲や生活習慣の未確立、後を絶たない問題行動など義務教育をめぐる状況には深刻なものがある。学力低下への懸念、塾通い等、特に公立学校に対する不満は少なくない。それらは時代や社会の変化に起因するものもあるが、学校教育、教育行政が十分対応できなかったことも否めない。
 義務教育は子どもが成長発達していく上で不可欠な学力、体力、道徳性を養う責任を担っている。義務教育の失敗は、国家・社会の存立基盤を揺るがすことになる。


○  小・中学校等の義務教育学校は、保護者や地域の期待に応え、子どもの社会的自立を支え、一人一人の多様な力と能力を最大限伸ばす場とならなければならない。


○  我々は、これからの新しい義務教育の姿として、子どもたちがよく学びよく遊び、心身ともに健やかに育つことを目指し、高い資質能力を備えた教師が自信を持って指導に当たり、そして、保護者や地域も加わって、学校が生き生きと活気ある活動を展開する、そのような姿の学校を実現することが改革の目標であると考える。
 学校の教育力(「学校力」)を強化し、教師の力量(「教師力」)を強化し、それを通じて、子どもたちの「人間力」の豊かな育成を図ることが国家的改革の目標である。


○  学校は、目指す教育の目標をこれまで以上に明確に示し、それに即して、子どもたちに必要な学力、体力、道徳性をしっかりと養い、教育の質を保証することが求められる。指導力不足など問題のある教師が教壇に立つことがないようにし、優れた教師を称え、信頼され尊敬される教師が指導に当たる学校にならなければならない。


○  同時に、これからの学校は、保護者や地域住民の意向を十分反映する、信頼される学校でなければならない。また、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)や学校評議員の積極的活用を通じて、保護者や地域住民の学校運営への参画を促進することも求められる。教育を提供する側からの発想ではなく、教育を受ける側である保護者や子どもの求める質の高い教育の場となる必要がある。教育現場の意識改革がその鍵を握っている。


○  義務教育の改革を通じて、子どもたちが、知力、体力を身に付け、徳を備えた人間として成長し、それぞれの志や希望を実現して幸せをつかむとともに、我が国が活力と誇りに満ちた、世界から尊敬される国として発展することが可能になるものと確信する。

(3)義務教育の構造改革

 今こそ、義務教育の構造改革が必要である。
 義務教育システムについて、目標設定とその実現のための基盤整備を国の責任で行った上で、市区町村・学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果の検証を国の責任で行い、義務教育の質を保証する構造に改革すべきである。

○  新しい義務教育の実現に向けて、現在の教育システム全体を真摯に検証することが必要である。我が国の義務教育の良さや強みは維持する一方、これまでの政策について、実証的な立場から検証し、反省すべき点は反省し、改めるべき点は改めるという姿勢に立って、義務教育の構造改革に取り組むことが求められる。


○  義務教育の構造改革の基本方向として、国が明確な戦略に基づき目標を設定してそのための確実な財源など基盤整備を行った上で、教育の実施面ではできる限り市区町村や学校の権限と責任を拡大する分権改革を進めるとともに、教育の結果について国が責任を持って検証する構造への転換を目指すべきである。
 いわば国の責任によるインプット(目標設定とその実現のための基盤整備)を土台にして、プロセス(実施過程)は市区町村や学校が担い、アウトカム(教育の結果)を国の責任で検証し、質を保証する教育システムへの転換である。


○  こうした義務教育の構造改革により、国の責任でナショナル・スタンダードを確保し、その上に、市区町村と学校の主体性と創意工夫により、ローカル・オプティマム(それぞれの地域において最適な状態)を実現する必要がある。
 国の責任と分権改革は、車の両輪である。両者が相まって、時代を切り拓く新しい義務教育を実現する必要がある。

(4)国、都道府県、市区町村の役割の明確化と協力関係の強化

 義務教育の中心的な担い手は、学校である。
 国、都道府県、市区町村の協力で、学校を支えなければならない。
 国は義務教育の根幹保障の責任を、また、都道府県は域内の広域調整の責任を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、より大きな権限と責任を担うシステムに改革する必要がある。

○  現実の教育の在り方を考えるとき、子どもたちの最も身近なところで教育活動を担っているのは学校であり、市区町村である。
 義務教育の構造改革に当たっては、こうした学校や市区町村が、それぞれの地域の状況を踏まえた最適な教育を行うことができるよう、できる限りその権限と責任を拡大する改革を進めることが必要である。
 併せて、教育委員会と学校との関係をより良いものにすることにより、自立して質の高い教育を提供する学校を実現することが必要である。
 義務教育について、今後求められる分権改革の重点は、都道府県から市区町村への分権、教育委員会から学校への権限移譲である。


○  同時に、義務教育は、国家・社会の存立基盤であり、国全体で共同して支えることが不可欠である。
 全国的に一定水準の教育を保障する最終的な責任は、国が担うべきものである。国は、その責務として、各学校、市区町村が創意あふれる教育に取り組むために必要な基盤整備を行う必要がある。


○  国、都道府県、市区町村の役割を明確にし、三者の協力関係を強化した上で、学校の存分な取組を支援する仕組みが必要である。
 すなわち、国が義務教育の根幹を保障する観点から、また、都道府県が域内の広域調整の観点から、それぞれの役割を十全に果たした上で、市区町村、学校が、義務教育の実施主体として、これまで以上に多くの権限と責任を持つシステムへの転換を図る必要がある。

(5)義務教育の基盤整備の重要性

 義務教育を支える基盤整備は確固たるものでなければならない。
 そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。
 とりわけ重要なのは教職員である。
 教育の成否は、資質能力を備えた教職員を確実に確保できるか否かにかかっている。
 教職員の養成、配置、給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。

○  義務教育の構造改革を行い、質の保証・向上を図る上で、それを支える教育基盤の整備は極めて重要である。教職員の養成・配置、学校施設、設備、教材などの教育基盤は確固たるものである必要がある。そのため財源措置を含め、国・都道府県・市区町村がそれぞれの役割と責任を果たすことが必要である。


○  とりわけ重要なのは教職員である。
 教育は、教師と子どもたちとの人格的ふれあいを通じて行われる営みである。
 人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教職員にかかっていると言っても過言ではない。
 どの国においても、教職員の質と量を確保するための戦略は大きな課題である。
 資質能力を備えた教職員を安定的に確保できるか否か、教職員が安心して職務に従事できる環境があるか否か、教職員を尊敬する社会であるか否かは、教育の成否の鍵を握る問題である。


○  義務教育こそ、外交や防衛とともに国が担うべき最重要政策であり、そのために必要な教育費の総額は確実に確保されなければならない。
 特に、機会均等や水準の維持向上などの義務教育の根幹を保障するためには、優れた教職員の必要数を全国どこでも確保できることが不可欠である。
 教職員の人件費は義務教育費全体の四分の三を占める最大の要素であり、教職員の養成、配置や給与負担の在り方は、教育基盤の中で最も重要なものである。

(6)義務教育の費用負担の在り方

 義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。
 教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費も、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。
 公立学校施設の整備についても、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持って推進すべきである。

○  義務教育の経費の大半を占める教職員の確保と適正配置のため、昭和15年に義務教育費国庫負担法が成立しており、国と地方の共同により教職員給与費を負担している(終戦後の昭和25~27年度にシャウプ勧告により一時的に廃止されたが、全国知事会からの要請もあり昭和28年度に復活)。これにより、教職員給与費として都道府県が実際に支出した額の二分の一を国が負担することを通じて、教職員人件費の総額確保が果たされている。
 また、負担金の交付に当たって、地方の裁量を拡大する仕組み(総額裁量制)も導入されている。


○  平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策と、教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方の検討が、中央教育審議会に求められた。


○  地方六団体は、義務教育費国庫負担金の全額を廃止し税源移譲の対象とすることを前提として、まず中学校分8,500億円に係る負担金を移譲対象補助金とすることを求めている。一方、平成17年度には1,044の市区町村(全国の市区町村の47パーセント)の議会から義務教育費国庫負担制度の堅持を求める意見書が提出されている(10月25日現在)。これは平成16年度から通算すると全国の市区町村の65パーセントに達する。
 中央教育審議会は、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する方針の下で、地方の意見を真摯に受け止め、費用負担についての地方案を活かす方策について審議を行った。


○  地方六団体から推薦された委員(以下「地方六団体委員」という。)は、国が義務標準法や学習指導要領を定めた上で、税源移譲による一般財源化を行って、地方の自由度を拡大し、自らの責任と判断で義務教育を運営する方法が地方分権の観点からも最も適切であるとの意見を述べた。
 しかし、多くの意見は、地方公共団体間の財政力格差や教育格差が生じることを懸念するものであった。税源移譲を行った場合、47の都道府県のうち40の道府県で義務教育費国庫負担金による配分額よりも税源移譲額が下回ることが推計されている。


○  一方、義務教育の質の向上のためには、最も確実性・予見可能性の高い方法を選択すべきであり、そのためには義務教育に使途が特定された財源保障の制度、すなわち国庫負担制度が不可欠であるとの意見が多く出された。


○  義務教育の主たる経費である教職員の給与を保障する方法としては、全額を国庫負担する制度、現行の国庫負担制度のように国と地方が負担割合を法定し、それにより給与費の全額が保障される制度、全額一般財源化により、地方が全額を負担する制度、などが考えられる。


○  義務教育の機会均等と水準の維持向上を図ることは国の存立に関わるもっとも重要な基本政策である。義務教育の成果は、一地方にとどまらず、国全体に関わるものであり、義務教育の経費はこの観点から考えられなければならない。また、教育の質の向上のためには、教職員が安心して職務に従事できる基盤の保障と強化が重要である。


○  義務教育の構造改革を推進すると同時に、義務教育制度の根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持するためには、国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で、現行の負担率二分の一の国庫負担制度は、教職員給与費の優れた保障方法であり、今後も維持されるべきである。その上で、地方の裁量を拡大するための総額裁量制の一層の改善を求めたい。


○  中学校に係る国庫負担金を対象から外すという考え方については、同じ義務教育である小学校と中学校の教職員の取扱いを分けることになり、合理性がなく、適当ではない。


○  教材購入費や図書購入費など教育環境整備に不可欠な経費についても、国と地方の協力により、その総額が確実に確保されるよう努める必要がある。


○  さらに、重要な教育基盤である公立学校施設の整備は、大きな地域間格差が生じてはならないものであり、地方の自由度を拡大した上で国として目的を特定した財源を保障する必要がある。特に、子どもの生命の安全を守るため、耐震化は国が責任を持って推進すべきである。


○  地方六団体が目指す教育の地方分権についての提案は、本答申を貫く一つの理念として十分尊重されている。学校や市区町村が、特色ある教育活動、柔軟な学級編制などを行い、それぞれの地域の伝統や独自の文化を生かし、個性ある多様な人材を育てることが重要である。それは、学校とその設置者である市区町村の裁量権限と自由度の拡大を進めることにより実現されるものであり、義務教育費国庫負担金や公立学校施設整備費負担金等を通じ国がその財源を担保することが重要であると考える。

新しい時代の義務教育を創造する(答申)

2007-07-26 19:55:05 | Weblog
はじめに
○  中央教育審議会は、平成15年5月の「今後の初等中等教育改革の推進方策について」、平成16年3月の「地方分権時代における教育委員会の在り方について」、平成16年10月の「今後の教員養成・免許制度の在り方について」の3つの諮問を受け、義務教育の在り方について審議を進めてきた。


○  また、国庫補助負担金、税源移譲を含む税源配分、地方交付税の在り方を一体的に見直すこととしている「三位一体の改革」において、義務教育費国庫負担金をはじめとする義務教育に係る費用負担の在り方が議論となった。
 中央教育審議会では、平成16年5月に初等中等教育分科会教育行財政部会・教育条件整備に関する作業部会が「義務教育費に係る経費負担の在り方について(中間報告)」において考え方をとりまとめている。


○  その後、平成16年11月の政府・与党合意「三位一体の改革について」において、平成18年度までの三位一体の改革に関して合意がなされており、その中で、「義務教育制度については、その根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する。その方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策を検討し、また教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方について幅広く検討する」こととされ、「こうした問題については、平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得る」とされた。
 これを受け、中央教育審議会では、義務教育の在り方について集中的な審議を行うため、平成17年2月、総会直属の部会として義務教育特別部会を設置した。


○  義務教育特別部会は、平成17年2月28日の第1回以来、これまで8ヶ月の間に41回の会議を開催した。
 その審議経過については、まず、5月23日の総会に、子どもの現状、学力の問題、教育内容、義務教育制度、教師像、学校像、教育委員会の在り方、国と地方の関係、教育費総額とその内容などを中心とする「審議経過報告(その1)」が報告された。
 続いて、合宿集中審議等を経て、7月19日の総会に、義務教育に関する費用負担の在り方を中心とする「審議経過報告(その2)」が報告された。
 また、今回の審議に当たっては、幅広く各界各層の意見を徴するため、有識者、関係団体、関係省庁等からの意見聴取や、地方公聴会(一日中教審)の開催(水戸市及び高知市)、文部科学省ホームページにおける意見募集、「義務教育に関する意識調査」の実施などに積極的に取り組んだ。御協力いただいた方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げたい。
 これらを踏まえ、8月以降、義務教育特別部会及び総会において、更に審議を深め、このほど本答申をとりまとめたものである。


○  本答申は第部総論と第部各論から成っている。総論においては、我々の目指す義務教育の改革の基本的な方向性を述べ、各論においては、この改革の実現のための具体的な改革策を述べるとともに、審議の過程において出された様々な意見についても盛り込んでいる。したがって、第部、第部全体を通して我々の考えを御理解いただきたい。


○  答申をとりまとめるに当たっては、できるだけ簡潔で分かりやすいものを目指した。このため、委員から出された数多くの意見や提言をすべて盛り込むことはしていない。これらの意見、提言については、審議経過報告や議事録もご覧いただき、本答申に至る背景を御理解いただきたい。


○  なお、義務教育の在り方に関する審議事項は極めて広範にわたることから、学習指導要領の見直しを含む教育内容の改善や教育評価については教育課程部会で、教員養成・免許制度の改革については教員養成部会で、また、教職員配置の改善に関しては別途設置された調査研究協力者会議で、それぞれ専門的な検討が行われてきた。本答申では、それらの検討の成果をも踏まえつつ、基本的な方向について提言を行っている。教育内容、教育評価、教員養成・免許制度に関しては、引き続き、関係部会等で審議を深めることとしている。


○  義務教育は、国民一人一人の幸せな人生の実現の根幹であるとともに、国や社会の発展の基礎である。
 中央教育審議会としては、我が国の将来を見据え、新しい時代の義務教育の在り方について総合的な展望を描くことを目指し、限られた時間の中で全力を尽くして議論を行い、答申をとりまとめた。
 政府においては、義務教育の在り方について中央教育審議会において結論を得るとされた政府・与党合意のとおり、本答申の内容を責任を持って確実に実現していただきたい。
 国民の皆様には、本答申の内容が確実に実現されるかどうかをしっかりと見守っていただきたい。

(4)管理職の一層の適材確保

2007-07-25 18:20:27 | Weblog
 組織的な学校運営を進める上でも、校長やこれを支える教頭といった管理職に人を得ることが肝要であることは言うまでもないところである。
 管理職の適材確保については、これまでも、その選考の在り方について、知識等に偏重しないで、より人物、識見を重視する方向で、例えば面接を取り入れたり、筆記試験の比重を少なくするなどの取組が行われてきたところである。また、その研修においてマネジメント研修や社会体験を取り入れるなど、管理職としての能力の向上を図る取組も進められてきたところである。さらに、中央教育審議会の提言を踏まえ、平成12年の学校教育法施行規則の改正により、校長、教頭の資格要件を緩和する制度改正が行われた。これにより、各教育委員会において、民間人をはじめ幅広い人材の登用が図られているところであるが、これについては、今後、その成果を地域全体に広げていくことが課題となっていると言える。
 これらを踏まえ、管理職の一層の適材確保について検討する必要があると考える。

管理職の一層の適材確保
 管理職の適材確保については、その登用後の研修も重要であるが、登用前の管理職の育成が重要である。とりわけ、前述のキャリアの複線化を図るとすれば、管理職を志向する者について必要な資質能力を育成することが大切となるであろう。


(ア)管理職の育成と登用
 ○  管理職の人材育成と適材確保の観点から、管理職となる候補者に研修などを行い、そのなかで資質能力を育成しながらこれを見極めて登用を行うよう、例えば管理職候補者登録制などの仕組みについて検討する必要があると考える。その場合、管理職候補者を前述の主幹や教務主任などとしてOJTを行うことも考えられる。
 ○  管理職としてふさわしい人材を育成するため、独立行政法人教員研修センターや各教育委員会の研修センターの一層の活用が必要である。それとともに、教職員については、日々の業務を通じて管理職としての資質能力を身に付けることや、これに関する研修の機会が必ずしも十分にあるとは言えないことから、大学院における研修などの充実も含め、大学院と連携した育成の在り方について検討することも考えられるのではないか。
 ○  管理職の登用については、教員の年齢構成や今後の退職者数の推移を踏まえ、計画的な人事を行い、在職期間の長期化を図るなど、それぞれの理念や能力を発揮できるようにすることも重要な視点であると考える。



(イ)幅広い人材登用
 ○  教頭について、校長と同様、民間人などを登用できるよう、学校教育法施行規則の改正により、その資格要件を緩和することについて検討する必要があると考える。さらに、前述の事務長や主幹についても民間人などを登用することが考えられるのではないか。
 ○  キャリアの複線化のなかで、教頭は校長になれなかった人というのではなく、教頭としてまっとうする人、さらに前述のスーパー・ティーチャーなどとしてまっとうする人など、教職員のキャリアの在り方も様々な形があってよいのではないかと考える。



(ウ)組織全体の総合力の向上
 ○  学校運営の責任者は校長であるが、校長一人がすべてを担うのではなく、学校組織全体の総合力を高めることが重要である。そのためには、すべての職員が自らの職責を自覚しながら能力や個性を発揮し、組織全体として有機的な運営態勢となることが求められることから、例えば、教育活動面で特に力量のある校長のもとに民間人等の教頭を配することなどが有効であると考えられる。
 ○  さらに、組織的な学校運営を行うには、すべての教職員がマネジメントの発想やリーガル・マインドを持ちながら教育活動を含め業務を遂行することが大切であり、そのような研修等について工夫することも必要であろう。それとともに、学校の組織運営全体について整理しておくことで、人事異動などがあっても、全体の組織運営の流れは維持されるものと考えられる。





教育委員会の学校支援
 組織的な学校運営を進めるには、前述の管理職の適材確保、あるいは組織体制の整備などと同時に、教育委員会が学校を支援する機能を強化することが不可欠である。これについては、地方教育行政部会で同様の検討が行われているが、本作業部会としても、以下の点について言及があったところである。


 ○  学校への支援の強化や教育委員会とのパイプ役となるよう、校長職、教頭職に相当する学校支援の専門職を教育委員会に置くことができるような仕組みについて検討する必要があるのではないかと考える。その場合、これを含め計画的な人事を行うことにより、管理職の在職期間の長期化を図ることも考えられる。
 ○  特に危機管理などにおいて学校を支援する機能を充実し、例えば事件、事故などの場合、法務相談をはじめ学校を支援し、学校に過度の責任を負わせないようにすることが求められる。
 ○  教育委員会の行政評価の中で、教育委員会の学校への支援が十分に行われているかチェックすることも重要な視点であると考える。
 ○  学校の権限の強化に伴い、学校が適切にその権限を行使しているか、管理職のマネジメントがうまく機能しているかなどについて、学校現場自らや住民が評価することが重要になるであろう。
 ○  学校の評価に関連して、学校現場からのフィードバックを可能にするシステムについても検討する必要があると考える。

(3)教職員の評価と処遇

2007-07-24 18:19:48 | Weblog
 教職員が意欲を持って業務を遂行し、自らの役割を果たすことができるよう、一人一人の教職員の能力や業績を適正に評価するとともに、これを適切に人事や処遇に反映することが極めて重要であると考えられる。
 このため、教職員の評価の改善充実とその処遇などへの反映について検討する必要があると考える。また、教職員は専門的な能力が求められるものであり、その資質向上について研修などが行われているところであるが、評価と育成を連動するものとして、その専門性を適切に評価し、これに基づく体系的な人材育成を行うようにすることが大切である。さらに、優れた実績や高い指導力のある教職員について、これを評価することも重要であると考える。
 一方で、教職員の人事管理について、適材適所の配置や教職員の資質向上の観点から、例えば教員の公募制やFA制などの様々な工夫が講じられているところであり、今後更にこうした取組を進めることが求められるところである。
 評価の改善などを進めるに当たっては、これら人事管理全般の見直しの一環として行う必要があり、人事管理に関するシステムすべてを人材育成の観点から見直し、上記の新たな評価システムづくりと併せて、総合的にこれらを推進していくことが大切であると考えられる。

教職員の評価の改善とその処遇への反映
 公立学校の教職員の評価については、公務員法制上の勤務評定制度はあるが、一律の評価や処遇となっているなど、評価や処遇に差を設けることに消極的であり、必ずしも十分に行われていないとの指摘があるところである。しかし、近年、学校教育の信頼確保などの観点から、教職員の評価の改善充実が課題となっている。それとともに、評価結果について適切な処遇への反映を図ることも検討する必要がある。
 なお、平成18年度から実施される予定の公務員制度改革においても、公務員について、能力や実績などに応じた評価や処遇が求められているところであり、その動向を踏まえる必要がある。
 評価の改善充実に当たっては、人材育成と業務改善の向上の2つの視点を重視することが大切であると考える。とりわけ、学校においては集団としての活動が大きな位置を占めることから、チームとしての活動を適切に評価できるよう検討する必要がある。また、学校の評価と教職員の評価は密接に関連するものであり、これらを連動させながら取組を進める必要がある。これらにより、学校の組織的な取組と個々人の取組が連鎖して組織力の向上と教職員の資質向上につながるのである。


(ア)評価の改善充実
 ○  現在、すべての都道府県、指定都市の教育委員会において、教職員の新たな評価システムの構築が進められているところであるが、今後、これら取組の一層の推進が求められる。
 ○  評価は、公正で透明性の高いものとすることが重要であると考える。具体的には、例えば評価要素や項目ごとに求められる職務行動(コンピテンシー)を基準として明確にすることで、評価の客観性を高めると同時に、職員がどのような職務行動が求められているか理解するようにして自己改善に資するものとし、かつ、評価者とのコミュニケーションを促進するような仕組みについて検討する必要があるのではないかと考える。
 ○  目標管理手法は業務改善の一方法であり、単なる評価のためだけの目標管理とならないようにし、学校全体の目標を共有した上で、これに基づいて個々の職員が自己の目標を設定することが大切である。これにより、学校が目標達成のためのチームとなり得るものである。
 ○  学校組織の中でどれだけの役割を果たしたか、あるいはその貢献度などについても評価されるよう工夫することが必要であると考えられる。これにより、教職員の参画意欲を高め、学校組織全体の総合力の向上につながるものと言える。
 ○  新たな評価システムについては、その趣旨内容を教職員が十分に理解するよう努め、また、そのシステムが有効に機能し適正な評価が行われるよう、特に評価者の十分な研修などが重要となるであろう。
 ○  評価システム自体についても、教育委員会による自己評価や第三者評価などによりきちんと評価し必要な改善を図ることが大切である。
 ○  これら教職員の評価に加え、例えば優れた実践のある学校の表彰など、組織単位で評価する仕組みについても併せて検討する必要があると考えられる。



(イ)処遇などへの反映
 ○  評価結果の適切な処遇などへの反映について検討する必要があると考える。現行でも特別昇給や普通昇給延伸、勤勉率などに結びつけているところもあり、前述の評価の改善とあわせて検討することが大切である。
 ○  具体的には、一般的に能力評価は任用、業績評価は給与上の措置に反映することが考えられるが、能力評価と業績評価のバランスが大切であり、教育においては、その特質にかんがみれば、余りに成果主義に傾きすぎるのはなじまないと考えられる。
 ○  これに関連して、国立学校準拠制の廃止や総額裁量制の導入により地方公共団体の裁量が大幅に拡大したことを踏まえ、給与体系の見直しについて検討することも必要ではないか。その場合、例えば前述の主幹や後述のスーパーティーチャーなどについて新たな級を設けるなど給与体系上の位置付けを明確にすることも検討する必要があると考えられる。その際、必要な財源の確保にも留意する必要があると考える。



(ウ)評価に基づく体系的な人材育成
 ○  能力開発を重視した評価においては、面接などを通じた本人へのフィードバック、評価者による指導なども大切であり、評価を人材育成につなげることが求められると考える。
 ○  人材育成システムの中に評価を明確に位置付けるとともに、評価結果を人材育成の視点から人事配置や研修などにも活用することが適当であると考える。





優秀な教職員の評価と処遇
 優れた実践や高い指導力のある教職員については、一部の教育委員会において、優秀な教員の表彰などの取組を進めており、その処遇への反映を図っているところもある。
 しかし、優れた教員を任用面で遇するには、これまでは管理職への登用しかなかったが、教職員と管理職の能力は必ずしも一致するものではなく管理職には向いていない場合もある。このため、管理職への登用だけでなく、教職員として専門性を高め、これに管理職に相当する位置付けを与え、現場でキャリアをまっとうする道を開くことも検討する必要があると考える。すなわち、教職員のキャリアの複線化を図ることも重要であるのではないか。
 また、教育指導の専門職として高い能力のある教員を適切に位置付けることにより、前述のチームなどにおいて他の教職員の指導的な役割を担わせるようにすることが考えられるところである。
 なお、いわゆる指導力不足教員に対する取組についても、各教育委員会においてその人事管理システムが構築され、適切な対応が図られているところであるが、更にこうした取組を進めることも大切であると考える。


 ○  高い指導力のある優れた教員を位置付けるものとして、例えば、広島県のエキスパート教員などのような認定の仕組みや、さらには宮崎県などで検討されているような、処遇などにおいて相応の位置付けを与えられるスーパーティーチャーなどのような職種を設けることについて、更に検討する必要があると考える。
 ○  これらの優れた教員については、基本的には学校に配置され、教育活動等にその力を発揮してもらいながら、併せて他の教員の指導助言にも当たることになると考えられるが、例えば、他校の研究会や教職員研修などにおいて活用するなど、その成果を普及し、地域全体の水準向上のための指導的役割を担うようにすることも考えられるのではないか。その際、位置付けや職務などについて、教育委員会事務局に置かれ、学校への指導に当たる指導主事との整理を明確にするとともに、研修を体系的に行うなど、それぞれが十分に機能を果たすよう配意する必要がある。
 ○  キャリアの複線化を図る場合には、例えば、30代くらいまでを持ち味を探す時期、30代から40代をその持ち味を磨く時期として、その上で40代半ばくらいにいずれの道を目指すのか選択することとし、その後、管理職を目指す場合には主幹などとなり、あるいは後述の管理職候補者登録制などにより、その資質を育成することも考えられるのではないか。また、系列間移動の道も開いておくことも必要となると考えられる。
 ○  その際、教員の年齢構成などを踏まえ、管理職や上述の指導的な役割を担う教員など全体の構成のバランスを十分に考慮しながら採用や人事を行うことが重要である。
 ○  優秀教員の表彰に関する取組を更に推進するとともに、表彰に伴う措置として特別な研修機会を与えるなどのほか、特別昇給などの処遇への適切な反映を図るとともに、他の学校の研究授業や教職員研修に活用するなど、その成果の普及も併せて考慮する必要がある。

(2)学校の組織体制の再編整備

2007-07-23 18:19:09 | Weblog
 学校においては、その責任者は校長であることは言うまでもないが、個々具体の業務については、校務分掌などの校内組織が定められ、教職員が分担してこれを処理することとされている。しかし、校長、教頭以外は横一線に並んでいる、いわゆる「なべぶた」組織といわれ、かつ、横一線に並んでいる教職員については、「一人一役」の考え方のもと、担当が細かく分けられ、かえって分かりにくいものとなっている。このため、実際には、分掌とは関係なくその場で気が付いた者が処理することがあるなど、組織が実態と必ずしも合っておらず、責任をあいまいにしていることもある。
 また、先に述べたように、学校においては集団としての力を生かすことが大切であると考えられることから、各教職員の適切な役割分担と連携によりチームとしての機能を発揮し、学校全体の組織力の向上につながるようにする視点も重要であると言えるのではないか。
 これらを踏まえ、組織的な学校運営を実現するため、簡潔で機能的な校内組織の在り方について検討する必要がある。その際、今行われている業務をきちんと分析し、その上で事務改善を図るという発想が求められよう。
 一方で、現在の学校運営は実質的には校長と教頭で行われていると言っても過言ではない。しかし、学校の権限の拡大などにより、学校における最終的な責任者は校長であるとしても、すべてを校長、教頭が担うことは難しいと考えられることから、これら学校運営を支える機能の充実について検討する必要がある。さらには、学校運営を支える機能の一つとして、事務処理体制について、学校自らが適切に権限を行使できるようにするとともに、教育活動の充実に資するものとなるよう検討する必要がある。

校務分掌など校内組織の整備
 各学校において校務分掌などの校内組織が定められているが、前述のように、「一人一役」の考え方により校務が細かく分けられ、担当する職員が入り組んでおり、組織が複雑で分かりにくく、かえって責任の所在が不明確になっているものもある。極端な例では、備品ごとにこれを管理する担当者が決められ、学校全体の備品の管理について、誰が責任を持ちどのように管理されるのか分からない場合も見られる。
 職員がいろいろな経験をすることは意義のあることであるが、事務が細分化され、かつ担当者がしばしば変わるのでは、そのノウハウの蓄積もなく責任感も育ちにくく、組織的な学校運営にとってはかえって逆効果であるとも言える。
 また、各種の委員会等が置かれ、これに伴う会議や打合せが頻繁に行われることにより、かえって学校運営を非効率なものとしている場合もある。
 このため、組織的で効率的な学校運営が行われるよう、スクラップ・アンド・ビルドの考え方を踏まえ、校務分掌の整理合理化や会議のスリム化といった校内組織の見直しを行う必要があると考える。その際、地域、保護者との連携の一層の推進や情報公開、情報発信の重要性の高まりなどを踏まえ、渉外の業務の明確な位置付けにも留意することが大切であると考えられる。


(ア)校務分掌の整理合理化
 ○  校務分掌などについて整理合理化を行い、これを簡潔なものとする必要がある。その際、教育活動の領域とこれを支える領域に分けて、その有機的な連携を図ることも考えられる。
 ○  新たな課題に対応できるよう柔軟に組織を見直し、例えば、委員会といった新しい組織を作るときは、スクラップ・アンド・ビルドの考え方により、既存の組織に加えるだけではなく、組織の統廃合を行うことが大切である。併せて、非効率な業務や慣行の見直しを行うことも大切であると考える。
 ○  校長が代わるときなど随時校内組織を見直すことも適当であると考える。



(イ)会議のスリム化
 ○  組織が複雑化し、例えば委員会や部会などが多くなれば、それだけ会議が増えて時間を取られることになる。組織を整理し、会議をできる限り少なくする必要がある。
 ○  職員会議については、中央教育審議会の答申を踏まえ、学校教育法施行規則について、その位置付けを明確にする規定整備が行われ、より一層適正な運営が図られたところである。さらに、企画調整会議などを有効活用し、職員全体が集まる必要がある場合に限定するなど、そのスリム化を図ることも重要である。



(ウ)渉外・広報の位置付け
 ○  校内組織の見直しに際しては、学校の説明責任や地域住民などの参画などによる対外的な業務の重要性の高まりに合わせ、渉外の業務を明確に位置付ける必要があるのではないか。
 ○  また、情報発信の機能も充実する必要があり、広報などの位置付けも重要である。





学校運営を支える機能の充実
 学校組織については、校長、教頭以外は横に並んでいる、いわゆる「なべぶた」組織であると言われている。これは、一人一人が責任を持って業務に当たる上では一定の役割を果たすかもしれないが、組織的な学校運営をかえって難しくしている面もあるのではないか。このような組織では、前述の「一人一役」の考え方とあいまって、その場の対応に終始したり、責任の所在を不明確にするおそれもあると考えられる。
 前述のように、学校の権限の拡大などに伴い、このような「なべぶた」組織では対応しきれないと考えられることから、組織的な学校運営を支える機能が重要であると言える。先に述べたように、学校においては集団としての力を生かすことが求められることから、組織的な学校運営においては、校長、教頭のもとでそれぞれのグループをまとめたり調整を行う中間的な指導層の役割も大切である。同時に、新たな課題への対応も含め、様々な専門職や外部の力の活用が求められているところであり、これらを有機的に連携させ、学校全体の総合力を向上させるよう調整を図る機能も大切である。
 主任制については、中央教育審議会の提言も踏まえながら、一層の定着が図られてきたところであり、全体としては概ね定着してきていると考えられる。特に教育指導面などにおいてその機能を果たしているという認識がある一方で、例えば校長の方針などを組織全体に伝達するには一人一人に説明することになるなど、校務運営面では必ずしも十分に機能していないという指摘もある。これに対し、東京都では担当する校務をつかさどる主幹を置いているが、これについては、担当する校務の責任ある処理が期待できるとともに、管理職と各職員のいわばパイプ役となってその意思疎通や理解に寄与するなどの効果が見られるという指摘もある。
 これらを踏まえ、学校運営を支える機能の充実について検討する必要があると考えるものである。
 さらに、学校組織においては、職員の横並びが指摘される一方で、横の連携が必ずしも十分に行われず、例えば、授業を他の教員に見せたがらない、指導方法について相談することを好まない、あるいは先輩が後輩を指導することが余りないなど、OJT(On the Job Training)が十分に行われず、一人の職員の研修の成果が他の職員になかなか共有されないこともある。組織的な学校運営を支える在り方の一つとして、組織力の向上に資するよう職員間の連携を更に図ることも大切であると考える。


(ア)学校運営を支える体制の整備
 ○  校長や教頭を支えるものとして、例えば教頭や教務主任などを副校長や副教頭として位置付け、これに一定の権限を委ねるような仕組みについて検討する必要があると考える。
 ○  また、例えば教育課程管理などにおいて主任が機能するよう更にその定着を図り、あるいは、必要に応じ、管理職を補佐して担当する校務をつかさどるなど、一定の権限を持つ主幹などの職を置くことができるようにする仕組みについて、更に検討する必要があると考える。
 ○  その場合、これらを一律に行うのではなく、それぞれの実情に応じて工夫することが大切である。
 ○  教頭の役割を再確認し、その機能をより確固としたものとすることも大切であると考える。また、教頭の複数配置の一層の活用について検討することも考えられる。



(イ)職員間の連携
 ○  職員間の連携をより一層緊密なものとし、特色ある学校づくりなどに学校全体として取り組むことが大切である。
 ○  そのためには、個々人の知識や経験を学校全体で共有することが重要であり、例えば、研修の成果を他の職員も共有できるよう校内研修を行うなど、「知の共有化」が図られる体制を作ることが必要である。





事務処理体制の整備
 学校の権限の拡大などにより、学校が自ら責任を持ってその事務、業務を執行することが必要となる。そのなかで、事務職員は、より効果的、効率的な事務処理を図り、事務執行や渉外などにおいて学校経営の専門スタッフとして中心的な役割を担うことが期待される。しかし、特に小・中学校については、事務職員の配置が1人のところが多く、十分な組織体制が取れず、教育行政サービスに差が生じたり、安定性に欠ける場合もある。また、上司、先輩の指導助言も得られないなど、職員自身の資質や意欲の向上を図りにくいという問題がある。また、高等学校等も含め、事務組織の職務権限が必ずしも明確でなかったり、一層の権限の委任が効果的であると考えられるものもある。
 このようなことを踏まえ、人的措置を含め事務処理体制を整備し、前述の教育活動を支える領域として明確に位置付けることが必要ではないか。これにより、効率的で安定的な事務処理が図られるとともに、指導時間の確保など教員が教育活動により専念できる環境づくりにもなり、教育活動の領域にも好影響を与えると考えられる。
 また、教育委員会事務局と学校との間において、学校事務に関し適切な役割分担と協力が大切である。


 ○  事務処理体制が必ずしも十分でない小・中学校については、事務処理の効率化、標準化や職員の資質向上のため、事務の共同実施を推進する必要があると考える。具体的には、拠点校に共同実施組織を置き、各校の事務職員が定期的に集まって共同処理を行う方式などが考えられる。
 ○  その場合、共同実施組織に事務長を置くことができるようにするなど、その制度化についても更に検討する必要があると考える。これにより、学校への権限委譲を更に進め、状況に応じ共同実施組織に予算を示達するなど、一層の効果が期待できるのではないか。
 ○  高等学校等においては、事務長や事務室の職務権限の明確化、一層の機能強化について検討する必要があると考える。
 ○  また、事務局と学校の事務職員の人事交流なども考えられる。
 ○  マネジメント研修も含め研修などにより、事務職員の事務能力のみならず教育活動への理解や学校運営に参画する意欲の向上を図るとともに、管理職や教員の事務に対する理解を進め、相互に刺激し合うようなことも大切ではないか。
 ○  これらに関連して、事務処理も含め学校運営面のIT化を進める必要があると考える。

(1)学校運営をめぐる現状と課題

2007-07-22 18:18:23 | Weblog
 学校運営については、従来から、日常的な具体の学校運営は学校に委ねられていたものの、教育委員会の関与が強く、その細かな指示を受けて行われていた。このように学校の権限が限られ、教育委員会の指示のもとに学校が運営されるのであれば、学校自体の組織運営能力は必ずしも求められるものではない。そのなかで、とりわけ学校本来の目的である教育活動の実施は、教職員の個々具体の活動に収れんされる側面が強く、他の組織よりも組織的な運営を難しくしていると考えられる。学校に組織マネジメントの発想が余りないとの指摘があるが、このような状況にあってはむしろ当然の指摘とも言えるものであり、その結果として、組織や業務がうまく整理されておらず、学校の運営は積み上げ方式となっている(したがって業務を「捨てる」ということがなかなかない)のではないか。
 しかし、主体的な特色ある学校づくりが求められ、そのための学校の権限の拡大が図られているなかでは、学校が自らその権限を責任を持って適切に行使していかなければならない。それを実現するには、個々の教職員の活動をより有機的に結び付け、組織的な学校運営を行う体制を整えることが必要である。さらに、学校については、その組織が分かりにくく責任の所在が不明確であるとの指摘があるが、より多くの権限を移譲するのであれば、より透明性の高い組織運営を行うことも大切である。このことは、開かれた、信頼される学校づくりを進める上でも求められるものである。

 また、他の組織と異なる学校の特質として、例えば一人の児童生徒の指導について多くの教職員がかかわっているなど、教育活動の成果について一人一人の業務に分けてこれをとらえることが難しく、集団としての活動としてとらえる必要があるという点が挙げられる。学校の組織運営体制について検討する場合、このような特質に留意し、個々の教職員が自らの職責を自覚しながら能力や個性を発揮するとともに、チームとしての力を生かしつつ学校組織全体の総合力を高めるよう、組織全体として有機的な運営が行われる態勢を作ることが必要である。その際、従来の学校においては、例えば特徴的な教育実践や研修の成果など、個々人の知識や経験が学校全体で共有化されにくく、その結果として教職員の思考の幅が狭くなりがちであったとの指摘もある。学校組織の集団としての総合力を高めるには、こうした「知の共有化」が図られるようにすることも視野に入れる必要がある。

 これらのことを踏まえ、学校が組織的に機能し、新たな課題にも機動的に対応できるよう、学校の組織体制の再編整備について検討する必要があると考える。その際、地域に開かれた学校づくりの観点から、学校が自ら地域との連携を進められる体制に留意することも大切であると考える。
 また、個々具体の学校運営を担うのは教職員であることから、学校組織がその機能を十分に果たし、機動的な学校運営が行われるには、一人一人の教職員が、組織的な連携のもと、自らの役割をきちんと果たすことが不可欠である。そのためには、教職員の資質能力を高めつつ、教職員が意欲を持って学校運営に参画するようにすることが重要であることから、教職員の評価と処遇の在り方について検討する必要があると考える。
 さらに、自主的、自律的な学校運営が行われるには、その責任者である校長やこれを補佐する教頭などの管理職に適任者を得ることが重要である。これからの管理職は、教育者としても学校という組織の責任者としてもその資質能力を他の教職員以上に高め、「卓越性に基づくリーダーシップ」を発揮することが求められるであろう。このため、管理職のより一層の適材確保について検討する必要があると考える。

 なお、学校の組織体制を検討するに当たっては、学校種や各学校の規模あるいはそれぞれの子どもや地域の状況など様々であり、必ずしもこれを一律のものとすることは適当でないと考える。したがって、具体的な取組を進める際には、各教育委員会や学校においてそれぞれの実情に応じたものとなるよう工夫することが必要である。
 また、制度改正に係る事項について検討する場合においても、国の法令、あるいは地方公共団体の条例や教育委員会規則など様々なものが考えられるところであるが、その制度化に当たっては、各学校や教育委員会においてそれぞれの実情に応じた取組を工夫できるよう、弾力的な仕組みとすることが求められるものと考える。

学校の組織運営の在り方について(作業部会の審議のまとめ)

2007-07-21 18:17:43 | Weblog
 これからの学校は、それぞれの実情に応じて自ら工夫し、特色ある教育活動を展開することが求められる。このため、主体的な学校づくりが行われるよう、学校の裁量を広げその権限を強化する取組が進められているところである。それとともに、学校の自主性、自律性を確立するためには、校長のリーダーシップのもと、教職員が一致協力し、組織的、機動的な学校運営が行われなければならない。このような観点から、学校の組織運営の在り方について検討する必要があると考える。
 学校が真に自主的、自律的に運営されるためには、裁量権限の拡大と同時に、これに見合った学校の運営体制を整えることが必要である。すなわち、学校の権限拡大を進めるのであれば、学校が自らの判断と責任においてその権限を活用できるよう、組織的な学校運営が行われなければならない。このため、いわば権限移譲の受け皿となる運営体制の整備が必要であると考える。例えば、学校裁量経費が措置されれば、学校自らが説明責任を果たしながらこれを適切に執行しなければならず、これを可能とする学校運営が求められるのである。それがないまま権限移譲が進めば、その権限の責任ある行使が行われず、かえって混乱と不信を招くだけであろう。
 これまで、ややもすると学校の運営体制が未整備のまま権限移譲が進められ、かえってその権限を持て余し、管理職も含め教職員の理解が必ずしも十分ではなく、所期の効果が上がらないことがあったのではなかろうか。
 また、学校については、地域に根ざした特色ある教育を行うため、保護者や地域住民の信頼を得ながら、これらと一体となって学校づくりを進めることが求められる。そのためには、地域との十分な連携を図りながら学校運営が行われるよう、これに応じた組織運営体制を整えることが必要となる。

 もとより、国民の期待に応える学校とは、特色のある優れた教育を行う学校であり、そのためには資質能力のある教職員がいて、それぞれの力を十分に発揮することが何よりも大切である。このため、学校の権限が拡大し自主的、自律的な学校運営が行われるなかで、教職員が生き生きと業務を遂行することができる環境づくりとして、学校の組織運営体制が整えられる必要があると考える。このことを踏まえ、学校の組織を簡潔で機動的なものとし、そのフットワークをよくすることが、本作業部会の意図するところである。

 中央教育審議会としても、学校の自主性、自律性の確立やそのための学校の裁量の拡大について提言を行ってきたところである。
 とりわけ、平成10年の「今後の地方教育行政の在り方について」の答申においては、第3章を「学校の自主性・自律性の確立について」として一章を当てている。そのなかで、学校の自主性・自律性を確立するためには、それに対応した学校の運営体制と責任の明確化が必要であることから、校長をはじめとする教職員一人一人が、その持てる力を最大限に発揮し、組織的、一体的に教育課題に取り組める体制を作る必要があるとして、そのような観点から、学校運営組織の見直しについて提言を行ったものである。具体的には、校長・教頭の適材確保と教職員の資質向上、学校運営組織の見直し、学校の事務・業務の効率化などについて、その方策を提言した。
 これを受けて、政府においては、校長・教頭の資格要件の緩和や職員会議の位置付けの明確化に関し制度改正が行われたほか、各教育委員会において様々な取組が進められてきたところである。
 さらに、平成12年の教育改革国民会議報告では、学校運営を改善するには、現行体制のまま校長の権限を強くしても大きな効果は期待できないとの認識のもと、校長が独自性とリーダーシップを発揮できるよう、学校に組織マネジメントの発想を導入することを提言している。これを受けて、学校組織マネジメントの研修の実施などの取組が進められているところである。
 政府や地方公共団体において、今後とも、これらの取組を一層推進していくことが求められるところである。それとともに、これら提言を踏まえた上で、学校の権限が拡大されていくなかで今回改めて、組織的な学校運営を実現するための組織運営体制の在り方について検討するものである。その際、有機的な連携によりチームワークとして機能を発揮するなど学校の特質も考慮する必要があると考える。また、学校全体で目的を共有し学校が組織として力を発揮できるよう、目的意識の共有化や組織体制の整備、評価などの在り方で学校に応用できるものを取り入れるなど、必要に応じ学校運営に組織マネジメントの考え方も取り入れることも必要であると考えられる。

 なお、学校の組織運営を財政的に支えるものとして義務教育費国庫負担制度がある。この制度においては、総額裁量制の導入など、必要な財源を確実に保障しつつ、地方の自由度を拡大する改革が実施されている。学校の組織運営の改善を進めるに当たっては、このような枠組みにより、国において必要な財源を確保しつつ、各教育委員会や学校においてそれぞれの学校や地域の実情に合った取組が行われるようにすることも求められていると考える。

第4章 その他の検討課題について

2007-07-20 18:16:22 | Weblog
学校の管理運営の在り方については,ここまで述べてきた方策以外にも,例えば以下に示すような様々なものが考えられる。これらについては,必要に応じ,今後の審議において更に具体的に検討することとしたい。

1 多様な主体による学校の設置について

○ 学校は公の性質を有するものであり,その設置と運営は,国家,社会として責任をもって取り組むべき,極めて公共性の高いものであるとともに,子どもたちの就学の機会を確保するため,継続性・安定性が不可欠である。このような公共性,継続性・安定性を担保しつつ,民間の主体が参入するための制度として学校法人制度が設けられているものであり,学校の設置主体としては,国,地方公共団体及び学校法人が基本である。


○ 一方で,株式会社やNPO法人(ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての非営利活動の健全な発展を促進し,公益の増進に寄与することを目的として,特定非営利活動促進法に基づき法人格を付与された団体をいう。)のまま学校を設置したいという構造改革特別区域に関する提案に対応し,平成15年度から,地方公共団体が教育上又は研究上「特別なニーズ」があると認める場合には,株式会社に学校の設置が構造改革特別区域において認められることとなった。また,同様に,地方公共団体が,不登校児童生徒等を対象とした教育について「特別なニーズ」があると認める場合には,そうした教育を行うNPO法人であって一定の実績等を有するものに学校の設置が認められることとなった。
なお,いずれの場合においても,学校としての公共性,継続性・安定性を確保するため,学校の経営に必要な財産を有することなどの要件や情報公開が設置者に課されており,また,特区認定を受けた地方公共団体には,学校の評価の実施や学校が破綻した場合のセーフティ・ネットの構築など必要な体制を整備することが求められている。


○ このことを踏まえて,平成15年10月に行われた構造改革特別区域計画の申請においては,株式会社による学校設置について,計3件の申請があり,いずれも認定されたところである。その内訳は,中学校及び高等学校の設置に係るものが1件,大学の設置に係るものが2件,そのうち専門職大学院の設置に係るものが1件であり,それぞれの学校設置に向けた所要の手続が進められることとなっている。


○ なお,このような多様な主体による学校の設置を,新しい学校の管理運営の在り方の一つとして今後全国で認めていくかどうかについては,構造改革特別区域における取組の状況を踏まえつつ,引き続き検討することが必要である。



2 外部資源の活用の在り方について

(1) 外部資源の活用の意義

○ 学校が,多様な要請に応えつつ,特色ある教育を推進していくためには,教育の様々な分野において,学校の外部にある資源の活用を積極的に進めることが有効と考えられる。特に,「総合的な学習の時間」や,外国語教育,情報教育などの分野において,専門的な知識・技能,経験等を有する社会教育関係団体やNPO,民間企業,ボランティア団体等の協力を得つつ教育活動を展開することには大きな成果が期待されている。さらには,こうした取組を通じて,学校と学校外の社会の連携・協力が強化され,開かれた学校づくりが促進されることも期待されるところである。


○ 学校の外部にある人材や資源を学校教育に積極的に活用する試みは,例えば,優れた知識・経験等を有する地域の人材に特別非常勤講師として学校教育に参画してもらう,博物館等でその資料を活用した授業を行うなど,現状でも様々な形で広く行われている。特に,高等学校については,大学・高等専門学校等における学修の成果や一定の技能審査の合格に係る学修を高等学校の単位として認定する仕組みや,定時制・通信制の課程におけるいわゆる技能連携制度など,学校の外部にある資源を活用した取組がすでに多く実施されている。
また,学校の施設等の物的管理については,PFI方式(国や地方公共団体の事業コストの削減,より質の高い公共サービスの提供を目的として,公共施設などの建設,維持管理,運営などを,民間の資金,経営能力,技術能力を活用して行う手法をいう。)等により外部の機関に行わせている例が見られる。


○ こうした外部資源の活用に関する仕組みのうち,例えば,高等学校における学校外の学修の成果の単位認定については,全国高等学校長協会による具体的なガイドラインが示され,また,特別非常勤講師の活用については,過去3年間で約3千件ずつ増加し,平成14年度には約1万8千件に上るなど,各学校における取組が着実に進んできているところである。これらの成果を踏まえつつ,今後,公立学校が任意にNPOや民間企業,ボランティア団体等と連携し,これら外部の教育資源を教育活動に活用する取組を更に促進していく必要がある。


○ このため,今回,外部資源の活用を積極的に推進する観点から,その運用に当たっての基本的な考え方を以下のとおり取りまとめ,参考に供することとした。なお,これを踏まえ,今後,各学校や教育委員会等において,地域の実態等に照らしたより詳細な検討が行われ,外部資源のより効果的な活用が図られるよう期待するものである。


(2) 外部資源の活用についての基本的な考え方

○ 公立学校における教育活動は,学校教育法第5条に規定される「設置者管理主義」の考え方に基づき,公務員である当該学校の校長及び教員が責任を持ってこれを担うことが必要である。
このため,外部の人材を活用するに当たっては,外部の人材は,特別非常勤講師のように教員として位置付けられる場合を除き,学校において作成した指導計画に基づき,その監督下において,指導の一部を実施することとなる。


○ なお,学校の管理運営の包括的な委託と同様の考え方に基づき,特定の教科・科目等の授業を指導計画の作成や評価等を含めて外部に委託すること,例えば,外国語について,教科としての教育活動を包括的に外国語学校に委託することを認めるべきとの意見もあるが,その方法については,公の意思に基づく活動としての公立学校の法的性格にかんがみ,どこまでが民間に委託することが可能な範囲として適当かなどを含め,学校の管理運営の包括的な委託に係る制度の在り方等を踏まえつつ,検討する必要があると考える。


(3) 外部資源の一層の活用のために求められる取組

○ 学校における外部資源の活用を進めるために,学校を設置する地方公共団体の教育委員会においては,担当部署を明確化し,学校と民間団体との間の連絡調整を行う体制を整備することや,学校教育に協力してくれる人材バンクを整備することなどが求められる。その際,社会教育関係部局や,関連する首長部局との連携を確保することも有効であろう。
また,各学校における円滑な実施に資するよう,学校における外部人材の位置付けや,経費の負担の在り方,事故の際の責任の所在などを含めた具体的なガイドラインを作成することなどが求められる。さらに,各学校における外部資源の活用の取組について継続的に情報を収集し,効果的な指導方法等に関する情報を広く発信するとともに,教員研修等に生かすなど,各学校における外部資源の活用の促進のための条件整備を行うことが期待される。


○ また,外部の教育資源は,各学校における教育目標や具体的な指導計画に明確に位置付けられてはじめて有効に機能するものである。各学校においては,担当窓口の明確化など外部との連携・協力に関する校内の体制を整備し,どのような教育理念に基づき外部資源を活用するのか,また,教員と外部の人材との役割分担をどのように図るか等について教職員間で十分に共通理解を深めた上で実践に取り組む必要がある。実践の状況については,不断に点検・評価を行い,改善を図るとともに,各学校間での情報の共有やそれぞれの学校における実践の成果の普及に努めることが求められる。


○ 併せて,外部資源の一層の活用を促進するため,国においても,教育関係団体等の協力も得つつ,先進的な取組に関する情報の収集・発信等に更に積極的に取り組むことが期待される。

第3章 公立学校の管理運営の包括的な委託の在り方について

2007-07-19 22:10:11 | Weblog
1 公立学校の管理運営を外部に包括的に委託することの意義と課題について


(1) 学校の「設置者管理主義」について

○ 学校の管理運営に関し,学校教育法第5条は,「学校の設置者は,その設置する学校を管理し,法令に特別の定のある場合を除いては,その学校の経費を負担する。」と規定している。学校教育は,入学の許可,課程の修了の認定,卒業の認定,退学等の懲戒等,児童生徒の教育を受ける権利に直接的にかかわる措置と,これと密接不可分な教育課程の編成や評価及び日常的な教育活動から成り立っている。学校教育法第5条の規定は,このような学校教育の特性に照らし,公立学校については,設置者である各地方公共団体の教育委員会が,教育活動の事業主体として学校教育の目的を十分果たすことができるよう,設置する学校を適切に管理し,その運営に責任を負うという「設置者管理主義」の考え方を示したものである。


○ この原則の下,これまで,社会人講師の活用や民間人校長の登用等を通じて,民間での幅広い経験のある優れた知識や技術を有する人材の参加を求めるなどの工夫を行いつつ,学校教育の多様化・活性化を図る取組が進められてきた。


○ 一方,近年,地方公共団体の様々な業務について民間委託が行われるようになっており,地方公共団体の設置する社会教育施設や社会体育施設についても,その管理運営を民間に委託する事例が多く見られるようになっている。特に,平成15年9月からは,「公の施設」の管理について,十分なサービス提供能力を持つ民間の事業者のノウハウを活用し,多様化する住民ニーズにより効果的・効率的に対応することを目的として,「指定管理者制度」が導入された。これは,公立学校には直ちに適用されるものではないが,この制度により,民間企業を含めた「指定管理者」に対して「公の施設」の管理とその利用許可を行わせることが可能となったところである。


(2) 公立学校の管理運営を包括的に委託することの意義について

○ このような動きの中で,従来「設置者管理主義」をとってきた公立学校についても,特別なニーズに応える等の観点から,必要に応じ,教育活動そのものを含めた管理運営を,包括的に民間に委託することを可能とすることについて検討すべきとの提案がなされるようになってきた。


○ こうした提案を踏まえ,例えば,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(骨太の方針2003)」(平成15年6月27日閣議決定)においては,消費者・利用者の選択肢の拡大を通じた多様なサービス提供を可能とする等の観点から,公立学校の管理運営の委託について,「公立学校の民間への包括的な管理・運営委託について,早急に中央教育審議会で検討を開始する。特に高等学校中退者を含めた社会人の再教育,実務・教育連結型人材育成などの特別なニーズに応える等の観点から,通信制,定時制等の高等学校の公設民営方式について平成15年度中に結論を得る」こととされた。


○ また,構造改革特別区域制度においても,公立学校の管理運営を委託することを認める特例についての要望が出されており,「構造改革特区の第3次提案に対する政府の対応方針」(平成15年9月12日構造改革特別区域推進本部決定)において,「公立学校の民間への包括的な管理・運営委託については,高等学校及び幼稚園を対象として検討し,今年中に結論を得た上で,必要な措置を講ずる」こととされた。


○ 公立学校の管理運営を包括的に委託することを通じて,例えば,民間の有する教育資源やノウハウを活用することにより,機動的かつ柔軟なサービスが提供され,多様なニーズに応じた特色ある教育を効果的に実現することができること,学校の設置者にとっても,保護者や児童生徒にとっても選択肢の拡大が図られること,既存の公立学校に刺激が与えられることにより,競争が生まれ,公立学校教育全体の質の向上が図られることなどが期待されている。


(3) 公立学校の管理運営を包括的に委託することの課題や懸念について

○ 一方で,こうした制度を導入することについて,様々な課題や懸念も指摘されている。例えば,教育の質を客観的に評価・検証する仕組みがなければ,受託者が経営的観点から経費を削減することにより,教育の質が低下するおそれがあるのではないか。特に,生徒指導のように,短期間では投入した費用に見合う効果が必ずしも期待しにくい部分が安易に切り捨てられるおそれはないか。教育の成果や学校での事故等をめぐり,学校の設置者と実際の管理運営を行う者である受託者との間で責任の所在が不明確になるおそれはないか。契約の途中段階における契約解除や受託者の経営破綻(たん)等により,学校が閉鎖された場合,児童生徒の教育を受ける権利が侵害されるおそれはないか。


(4) 検討の方向性について

○ このように,公立学校の管理運営を包括的に委託することについては,一定の意義が認められる一方で,様々な課題・懸念もあることから,現時点で全国的な制度として導入することは困難と考えられる。


○ しかしながら,一部の地方公共団体等においては,公立学校を民間に委託し,その地域において生じている特別なニーズや状況に対応したいという要望があることにかんがみ,今後,構造改革特別区域制度を活用した実証的な研究を行うことが考えられる。具体的には,構造改革特別区域として認定された地方公共団体において,地域の特性を生かした教育の実施や,地域産業を担う人材の育成等の観点から特別な必要がある場合において,当該地方公共団体が,教育の質を担保するための適切かつ十分な点検・評価体制を整備し,セーフティ・ネット(安全網)を構築することを前提に,学校の「設置者管理主義」の例外として,公立学校の管理運営を包括的に外部に委託することを特例的に認めることが考えられる。


○ 学校の管理運営の包括的な委託は,我が国におけるこれまでの学校教育制度において導入されたことのない,新たな学校の管理運営の形態である。本来,地方公共団体の公の意思に基づいて入学者の決定や教育課程の編成等が行われるという公立学校としての基本的な性格を踏まえつつ,また,米国において行われている委託の一類型とも言えるチャーター・スクール制度において実際に明らかになっている課題等も参考にしながら,本章「2 制度検討に当たっての基本的な考え方について」に掲げる点に十分に留意し,制度設計の具体化に向けた検討を進めることが必要と考える。


○ なお,現行制度においても,地方公共団体が,学校法人等と協力して私立学校を設置することにより,当該地方公共団体における特別なニーズに対応するための教育を実現することは可能であり,地方公共団体においては,こうした形での多様な特色を持つ学校の設置を選択肢の一つとして検討することも有意義と考える。



2 制度検討に当たっての基本的な考え方について


○ 構造改革特別区域において,学校の「設置者管理主義」の例外として,公立学校の教育活動を包括的に民間に委託する仕組みを設けることについては,公の意思に基づき実施される活動であるという公立学校の性格に照らし,法制上の課題等を踏まえつつ,以下のような点に留意しながら,具体的な制度設計に向けた検討が行われるよう期待する。


(1) 制度導入の対象

ア 義務教育段階について

○ 第一章において述べたとおり,義務教育制度は個人にとっても,国家の存立そのものにとっても不可欠な我が国の根幹的制度であり,その確実な保障は,国及び地方公共団体の最も重要な責務の一つである。
このため,義務教育諸学校を,保護者や子どもの選択に基づき就学をすることとなるその他の学校種と同様に扱うことは適当ではないと考える。先述のように,公立学校の管理運営を包括的に委託することについては様々な課題や懸念が存在しており,義務教育が設けられている趣旨にかんがみ,憲法で保障された児童生徒の義務教育を確実に保障する観点から,義務教育諸学校の管理運営を包括的に委託することについては,特に慎重に検討する必要がある。


イ 幼稚園及び高等学校について

○ 幼稚園については,現在,希望するすべての就学前の幼児に教育の機会を保障することや,保護者が安心して子どもを生み育てられるよう環境を整備するための子育て支援の充実など,地域における幼児教育のセンターとして,多様化する保護者や地域のニーズに応えることが強く求められている。このような中,公立幼稚園において,地域の実情や特別なニーズに対応するため,民間の能力を活用して弾力的な運営を行うことが効果的な場合も想定される。


○ また,公立の高等学校については,社会の多様化が進む中で,将来の進路選択についての生徒の希望も多様化しており,これまでも総合学科の設置や単位制高等学校,中高一貫教育校の創設など,多様化や個性化を理念とする高等学校改革が進められてきた。今後,更なる対応を図るための一方策として,多様な高等学校教育の選択肢を提供するという観点から,その管理運営を委託することについて検討を行うことが考えられる。


○ これらを踏まえ,公立学校の管理運営の委託の検討に当たっては,その対象は,当面,幼稚園及び高等学校とし,学校教育としての質の確保に十分配慮しつつ,検討することが適当と考える。



(2) 基本的な制度の内容

ア 委託の対象となる活動範囲について

○ 公立学校の委託を行おうとする構造改革特別区域についての提案等の趣旨は,教育活動も含め,できる限り広範囲な業務を民間に委託し,民間のノウハウを活用しようとすることにあると考えられる。他方,公立学校における児童生徒の入学の許可や退学処分等は公権力性のある行政処分であり,また,「公の意思」に基づく教育活動と位置付けられることから,このような公立学校の性格にかんがみ,民間への委託が可能な活動範囲について検討を行う必要がある。


イ 委託先について

○ 公立学校の管理運営の包括的な委託先としては,学校教育に必要な運営の継続性・安定性や,公教育として求められる公共性・公平性・中立性を確保し,教育の質を担保する観点から,原則として,学校法人など安定的な経営基盤と学校教育に関する十分な実績を有する者が適当と考える。また,学校法人は,設置者から支出された委託にかかる経費が子どもたちに対する教育活動及びその教育の質の向上に使われることが制度的に担保されているという点からも望ましい。


ウ 委託の手続きについて

○ 公立学校の管理運営の委託の制度を法制化する場合には,先に述べた「指定管理者制度」も参考にしながら,例えば,地方公共団体において必要な条例を定め,その条例に基づき,議会の議決により委託先を指定するなどの手続きを定めることが必要と考えられる。


エ 設置者と受託者の権限関係について

○ 管理運営が委託された学校については,設置者である地方公共団体が直接の管理を行うものではないが,当該学校で行われる教育は,当該地方公共団体が設置する公立学校の教育として行われることとなる。このため,設置者と受託者の権限関係に関しては,条例,規則,委託契約等において,あらかじめ十分に明確にしておくことが重要である。
なお,いずれの場合でも,地方公共団体は,公立学校の設置者としての国家賠償法上の責任を有し,学校事故等についての責任を負う等,設置者としての最終的な責任を有するものであることに留意が必要である。


オ 教職員の身分・資格について

○ 委託された教育活動に従事する教職員は,原則として受託者により雇用された者であることから,これらの教職員の服務管理については,一般の私立学校と同様,就業規則によることとなると考えられる。教職員は,公立学校において子どもたちの個人情報を扱うこととなるため,守秘義務を課す等,契約において服務上必要な措置を講じることについても検討する必要がある。なお,委託が行われた場合であっても,教員の資格については,通常の学校と同様,教育職員免許法が適用されるものである。
また,地方公共団体においては,条例,規則,委託契約等において,受託者が公立学校の教員としてふさわしい人材を確保するとともに,十分な研修の機会を確保することについて明確にしておくなど,優れた教員の確保とその資質の向上に留意する必要がある。



(3) 点検・評価等

ア 教育委員会による点検・評価について

○ 公立学校の管理運営を包括的に委託した場合であっても,当該学校は公立学校として設置されるものであり,その設置者である地方公共団体の教育委員会は,自らが直接管理運営を行う場合と同様の責任を負い,通常の公立学校と同様の継続性,安定性の担保が求められることとなる。


○ このため,管理運営が委託された学校については,学校自身による通常の自己点検・評価に加え,教育委員会による点検・評価の実施が不可欠である。
委託が行われた学校を設置する地方公共団体の教育委員会は,その学校において適正な学校運営が行われ,また,教育の質が確保されることについて最終的な責任を負う者である。このため,委託契約が円滑に履行されるよう,例えば,一定水準の教育内容・教育条件の確保,期待される教育成果の担保,学校運営の継続性・安定性の確保,経費負担における私的負担の割合の適正の確保,教育活動における中立性の確保などの観点から,不断の点検・評価を行い,受託者に対し,必要に応じ適切な措置を講じなければならない。
このような点検・評価が適切に行われるためには,設置者と受託者との契約において,あらかじめ,その手続きや具体的な内容について,十分に明確化しておくことが必要である。
また,評価を行うに当たっては,教科指導の面のみならず,生徒指導等も含め,多面的・多角的な評価を行う必要がある。特に,学校教育には,例えば生徒指導のように,受託者にとっては,短期的には投入した費用に見合う効果が必ずしも期待しにくいと受け止められがちであるものの,学校における教育活動としては極めて重要な位置を占めるものも多いことにも留意する必要がある。


○ 学校の設置者と管理運営を行う者とが異なることにより生じ得る諸問題を解決し,両者の十分なコミュニケーションを確保するためにも,日常的な情報交換やモニタリング(継続監視)の実施は重要である。今後,国においても,管理運営が委託された学校における教育活動の内容や成果について,様々な角度から客観的にモニタリングし,評価する仕組みの構築に向けて研究開発等を進める必要がある。


イ 情報公開の在り方について

○ 学校を設置する地方公共団体の教育委員会は,地域住民に対する説明責任を果たすため,委託契約の内容や管理運営が委託された学校における教育活動の状況等について,インターネット等を通じて十分な情報公開を行う必要があり,受託者との契約においても,その旨についてあらかじめ定めておくことが必要である。


ウ セーフティ・ネットの構築の在り方について

○ 学校を設置する地方公共団体の教育委員会による点検・評価の結果として,万が一,途中で契約を解除することとなった場合や,受託者側の都合で学校の管理運営が継続できなくなった場合等において,当該学校で学ぶ子どもたちが公立学校において就学を確実に継続できるようにすることは,学校の設置者としての責務である。
このため,例えば,受託者に対する是正措置を講ずる場合の要件や委託契約を解除する条件等について,委託契約において明確化しておくとともに,委託契約を解除した場合,若しくは解除された場合の在籍者に対する救済措置について,当該学校に通う子どもやその保護者に対してあらかじめ明らかにしておく必要がある。
また,契約を途中で解除することとなった場合等においては,そうした状況に至った責任の所在を明らかにすることが必要である。

第2章 地域が参画する新しいタイプの公立学校運営の在り方について

2007-07-18 21:15:24 | Weblog
1 地域が公立学校の運営に参画することの意義について

○ 我が国の公立学校の運営は,関係法令に基づき,教育委員会及び校長の権限と責任の下で行われている。こうした学校の運営の在り方は,学校運営に関する責任の所在を明確にするとともに,一定の教育条件・教育内容を確実かつ均等に保障する上で重要な役割を果たすものであるが,一方で,学校の運営の状況が保護者や地域住民等に分かりにくく,学校の閉鎖性や画一性などにつながりがちであるとの指摘もなされてきた。


○ 学校は地域社会を基盤として存在するものであり,充実した学校教育の実現には,学校・家庭・地域社会の連携・協力が不可欠である。
これまでも,地域に開かれた信頼される学校づくりを目指して,全国の学校で様々な取組が進められてきた。例えば,平成12年に導入された学校評議員制度は,既に半数以上の学校で導入されている。また,学校側からの動きだけでなく,保護者や地域社会からの学校への働き掛けも活発化してきた。例えば,学校支援のための様々なボランティア活動などの取組も各地で進みつつある。


○ このような中で,近年,学校と地域社会との連携・協力を更に一段階進め,地域の力を学校運営そのものに生かすという発想が出てくるようになった。平成12年の教育改革国民会議報告においては,「新しいタイプの学校(“コミュニティ・スクール”等)の設置を促進する」という提言が行われ,文部科学省では,平成14年度から,モデル校を指定して,新しいタイプの学校運営の在り方に関する実践研究を実施している。
また,政府の規制改革推進3か年計画(再改定)においては,「コミュニティ・スクール導入のための制度整備」に関して,法令上の規定を設けることについて平成15年中に検討し結論を出すことが決定されているところである。


○ 経済・社会の大きな構造改革の中で,可能な限り地方分権を進め,権限と責任を「現場」に近いところに移していこうとする流れが急速に進んでいる。また,従来は公的部門が単独で担ってきた分野についても,住民等に参画を求め,その力を生かすことによってより良い成果を実現していこうとする動きが顕著となりつつある。特に,文化活動や社会教育の分野においては,近年,各地で特色ある取組が見られるようになっている。公立学校の運営に保護者や地域住民の参画を求めることにより,学校を内部から改革しようという考え方は,このような社会全体の大きな改革の流れの中に位置付けられるものである。


○ 都市化の進行等に伴い,多くの地域でかつての地縁に基づく地域社会が変容し,「地域の学校」という考え方が次第に失われてきた。しかし,その一方で,保護者や地域住民の側に,自らが学校の運営に積極的に参画することによって,自分たちの力で学校をより良いものにしていこうとする意識が生まれつつある。こうした意識の高まりを的確に受け止め,学校と保護者や地域住民が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となるような仕組みを構築していくことが求められている。


○ 各学校の運営に保護者や地域住民が参画することを通じて,学校の教育方針の決定や教育活動の実践に,地域のニーズを的確かつ機動的に反映させるとともに,地域ならではの創意や工夫を生かした特色ある学校づくりが進むことが期待される。学校においては,保護者や地域住民に対する説明責任の意識が高まり,また,保護者や地域住民においては,学校教育の成果について自分たち一人一人も責任を負っているという自覚と意識が高まるなどの効果も期待される。さらには,相互のコミュニケーションの活発化を通じた学校と地域との連携・協力の促進により,学校を核とした新しい地域社会づくりが広がっていくことも期待される。


○ 地域の参画による学校運営は,これまでの実践研究の成果等にも示されるとおり,現行においても,学校評議員制度など各種の制度の柔軟な活用によって,かなりの程度実現することが可能であり,今後ともすべての学校において,地域に開かれた学校づくりを目指した取組を推進することが求められる。


○ 一方で,例えば,学校評議員制度については,その意見を踏まえて教育内容の改善を行うなど,大きな成果を上げる学校があるものの,運用上の課題を抱え,必ずしも所期の成果を上げ得ない学校もある。また,学校評議員制度の,校長の求めに応じて意見を述べるという役割を超えて,より積極的に学校運営にかかわることができるような新たな仕組みを検討すべきとの指摘もある。


○ 今後,公立学校をより多様で魅力的なものとするためには,学校評議員制度に関する運用の改善を図るなど,これまでの取組を更に発展させることが必要である。開かれた学校づくりの原点として,保護者や地域住民が学校に対する様々な意見や要望を,幅広く,また気軽に相談できるような窓口を拡充していくことも重要であろう。
併せて,こうした既存の枠組みを超えて,新たに保護者や地域住民が一定の権限と責任を持って主体的に学校運営に参加するとともに,学校の裁量権を拡大する仕組みを制度的に確立し,新しい学校運営の選択肢の一つとして提供することも必要と考える。今後,こうした新しい学校運営の在り方について更に詳細な制度設計を行った上で,明確な法令上の根拠を与える必要がある。



2 制度化に当たっての基本的な考え方について


(1) 制度導入の対象

○ 保護者や地域住民が一定の権限を持って運営に参画する新しいタイプの公立学校(以下便宜上「地域運営学校」という。)に関する制度の導入の対象としては,地域とのつながりが特に深い小学校や中学校が中心になると考えられるが,地域の実情に応じ,学校を設置する地方公共団体の教育委員会の判断で,幼稚園や高等学校などを対象とすることも考えられる。


○ 地域運営学校は,学校運営の在り方の選択肢を拡大するための手段の一つとして新たに制度化すべきものである。したがって,その導入は,すべての公立学校に一律に求められるものではなく,地域の特色や学校の実態,保護者や地域住民の意向などを十分に踏まえて,学校を設置する地方公共団体の教育委員会の適切な判断により行われることとし,その指定の手続については教育委員会において定めることが適当である。


(2) 基本的な制度の内容

ア 学校運営協議会の設置

○ 学校の運営への保護者や地域住民の参画を制度的に保障するための仕組みとして,教育委員会が,地域運営学校の運営について協議を行う組織(以下便宜上「学校運営協議会」という。)を設置することが必要と考えられる。
学校運営協議会は合議制の機関であり,その委員としては,児童・生徒の保護者,地域住民のほか,当該学校を設置する地方公共団体の教育委員会が適当と考える者のうちから,当該教育委員会において任命することが適当である。委員の数,構成,委員の任命の手続,任期,学校運営協議会の議事に関する事項等については,教育委員会規則において定めることになると考えられる。なお,委員は非常勤の公務員に位置付けられるものと考えられるが,教育の中立性や公正性を確保する観点から,例えば学校運営協議会の委員の任命に当たり守秘義務を課すことなども検討されるべきである。


イ 学校運営協議会の役割

○ 学校運営協議会の役割としては, () 学校における基本的な方針について決定する機能,
() 保護者や地域のニーズを反映する機能,
() 学校の活動状況をチェックする機能
が考えられる。すなわち,学校運営協議会には,例えば,学校における教育課程編成の基本方針,予算執行や人事配置等に関する基本方針等,当該学校の運営の大綱について,校長等の提案に基づいて承認を行うなど,学校における基本的な意思決定に関与する役割を果たすことが期待される。校長は,承認された基本的な方針に基づき,学校運営の責任者として具体的な事項について決定し,校務を行うこととなる。このように,学校の基本方針の決定等に当たり,校長は学校運営協議会に対し十分な説明を行い,相互に意見交換を行うことが必要となるが,この過程を通じて,保護者や地域住民が自らも学校運営に共同責任を負っているとの自覚を深め,校長を中心とした具体的な学校運営の支援に積極的にかかわっていくことが期待される。
また,学校運営協議会の委員には,保護者や地域住民を代表する立場にある者として,学校に対する保護者の要望や地域ニーズを公平・公正に,かつ,幅広く把握・集約し,学校運営に反映させることが求められる。さらに,基本的な方針に照らした学校の教育活動の実施状況について絶えず目を配り,評価を行い,必要があれば改善を求めるなどの働き掛けを行うことなども期待される。
このような権限を有する学校運営協議会には,自らの活動に関して,保護者や地域住民,教職員等の学校関係者に対して説明を行う責任が生じる。また,当該学校において所期の教育目標が十分に達成されないなどの場合には,委員の解任や学校運営協議会の解散などの形でその責任が問われるものと考えられる。


○ 学校にどのような校長や教職員を得るかということは,地域の意向を踏まえた特色ある学校運営の成否に特に重要な影響を与える問題である。このため,実践研究校のこれまでの研究においても,校長を公募し,その選考に学校運営協議会が関与したり,教職員の人事について要望を行うなどの取組が試みられてきたところである。
こうしたことを踏まえ,地域運営学校においては,現在の校長による意見具申や市町村教育委員会による内申に加えて,学校運営協議会が校長や教職員の人事について具体的に関与することができるようにするとともに,人事に関し最終的な権限を持つ教育委員会においては,地域運営学校制度の趣旨にかんがみ,校長や学校運営協議会の要望等を可能な限り実現するよう努める必要がある。このために,例えば,学校運営協議会が,教職員の公募を求めたり,任用の候補者について要望するなど,学校運営協議会が人事について任命権を有する教育委員会に対して意見を述べることができ,当該教育委員会においては,その意見を尊重して人事を行うなどの仕組みを設けることが考えられる。この場合,市町村立小学校又は中学校の学校運営協議会においては,当該市町村教育委員会を経由して都道府県教育委員会に意見を述べることが適当と考えられる。なお,学校運営協議会から意見の申し出があった場合,市町村教育委員会は,地域運営学校制度の趣旨にかんがみ,特段の支障がない限り,その意見と同様の内申を行うこととなるものと考える。


○ また,市町村教育委員会が市町村立小学校又は中学校を地域運営学校に指定する場合,当該学校における教職員は県費負担教職員であることから,教職員の任命権者である都道府県教育委員会に対し事前に協議を行うなどの手続が必要と考えられる。


○ 保護者や地域住民に学校運営に当たっての一定の権限を与えること,すなわち,学校運営協議会に具体的にどのような権限を与えるか,その際,校長や教育委員会との関係をどのように位置付けるかなどについて法令上規定することは,現在の地方教育行政制度に全く新しい視点に立った仕組みを導入するものである。このため,その制度化に当たっては,教育委員会の自主的,主体的な取組が促進されるよう,地方教育行政全体の在り方にも照らしつつ,十分な検討を行う必要がある。


ウ 校長の裁量権の拡大等

○ 地域運営学校の運営をより効果的なものとするためには,学校の創意工夫を生かした様々な取組が可能となるよう,学校運営の責任者である校長の裁量権を拡大することが重要である。先に述べたように,教職員人事については,学校運営協議会の関与の下,学校の裁量権の拡大を図ることも必要であるが,これに加えて,例えば,地域運営学校の校長に係る裁量経費を増額することや,学校の判断に基づき非常勤講師の採用を可能にすることなど,現行制度の運用の改善等による対応が可能な事柄については,各学校の設置者において積極的な検討を行うことが求められる。


○ また,学校の裁量権が拡大するに伴い,校長には,学校を取り巻く地域の様々な関係者と十分なコミュニケーションを図り,相互の連携・協力を確保しつつ,学校の責任者としてリーダーシップを発揮する高い力量が一層強く求められることとなる。国や教育委員会においては,高度な専門性や経営能力など校長として求められる資質や能力の向上に向け,研修等の充実に取り組む必要がある。



(3) 点検・評価等

○ 地域運営学校は,これまで行政内部で完結していた学校運営に保護者や地域住民が責任を持って参画するものである。地域運営学校が,公立学校として担うべき公共性や公平性・公正性を担保しつつ,その特色を生かした教育を実践していくためには,当該学校による自己評価が重要である。さらに,学校を設置する地方公共団体の教育委員会において,学校運営協議会の活動も含め,地域運営学校の教育活動を不断に点検・評価するとともに,その結果を例えばインターネット等を通じて情報公開し,その成果を他の学校の教育活動にも生かしていく必要がある。


○ 教育委員会が行う点検・評価においては,例えば,学校運営協議会が期待される機能を十分に果たしているか,公立学校としての公共性・公平性・中立性の確保や教育水準の維持等は適切に図られているか,地域の信頼に応える学校づくりに具体的な成果が上がっているかといった観点から,それぞれの地域運営学校の特色に応じた評価項目を定め,適切に実施していくことが求められる。その際,第三者による評価委員会等を設置し,その評価を参考にすることや,保護者や地域住民に広く意見を求めることなども有効であろう。点検・評価の結果によっては,地域運営学校に教育活動の改善を求めたり,その指定を取り消すなどの措置を講じる必要も生じるものと考えられる。


○ 地域運営学校の円滑な運営を実現し,所期の目的が達成されるよう,地域運営学校を設置する地方公共団体の教育委員会においては,あらかじめその指定や取消しに関する手続き等必要な事項を教育委員会規則において定めるとともに,地域運営学校の運営に関する調整や評価などを行う組織を明確にするなどの十分な体制整備を図ることなどが求められる。また,国においても,地域運営学校に関する情報の収集・提供や評価方法に関する研究開発等を通じて,新しいタイプの学校運営を積極的に支援していく必要がある。