谺して山ほととぎすほしいまゝ (久女ブログ)

近代女性俳句の草分け的存在である杉田久女について

俳人杉田久女(考) ~女流俳句の研究~ (32)

2017年01月30日 | 俳人杉田久女(考)

久女は作句欲が湧きだすと、同時に文章も猛然と書きたくなって来るようで、昭和2年頃から多くの文章を『天の川』や『ホトトギス』に寄稿しています。

昭和2(1927)年の久女年譜を見ると、教会より遠ざかって俳句にもどり、第二の出発として古典、現代女流俳句の研究を始めるとなっていて、この頃から一般的な文章の他に、下の様にかなりの数の女流俳句についての俳論、エッセーを書いています。

女流俳句の研究は、
俳句と家庭生活の相克を誰よりも深刻に生きた久女にとって、必然のテーマだったに違いありません。

     
   昭和2年 「大正時代の女流俳句に就いて」 (ホトトギス7月号)
   昭和2年 「婦人俳句についてのいろいろ」 (天の川 9月号)
   
   昭和3年 「大正女流俳句の近代的特色」 (ホトトギス2月号)
   昭和3年 「近代女流の俳句」  (サンデー毎日)
   
   昭和4年 「婦人俳句に就いて」 (天の川6月号)
   昭和4年 「婦人俳句所感」 (天の川11月号)

昭和7年になると、後に述べる様に、久女は「花衣」という主宰俳誌を創刊するのですが、その中でも女性俳句に就いての俳論を展開しています。

   昭和7年 「女流俳句を吟味す」 (花衣創刊号)
   昭和7年 「五月の花ー古今の女流俳句対比」 (花衣3号)
   昭和7年 「女流俳句と時代相」 (花衣4号)

   昭和8年 「女流俳句の辿るべき道は那辺に?」 (かりたご9月号)

これらの俳論、エッセーの多くは『久女文集』に収められているので、今日、
私達も読むことが出来ます。

上の評論で、昭和3年に書いた「大正女流俳句の近代的特色」では、大正時代に活躍した女性俳人の句を、何を詠んだか句かによって分類しています。その中に久女自身の句も多く引用していますが、他の作者の句と自身の句をまったく同列に並べて、あたかも他人の句の様に論じているところはおもしろいと思います。

これらの俳論の評価については、私にはよく分かりませんが、久女関係の研究書によると、久女は多くのすぐれた句を残しているが、句を作るだけではなく俳句研究にも力を入れ、古句を通して学問的に俳句を追及したのは他の女流俳人にはない姿勢で、広い知識と的確な批評力を兼ね備えた人であった様に思える、としているものが多い様です。

にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ


(この久女ブログは「日々の暮らしに輝きを! 
http://blog.goo.ne.jp/lilas526」の中のカテゴリー、俳人杉田久女(考)を独立させたものです。久女ブログの目次は左サイドバーの最新記事の最後にある >>もっと見るをクリックすると出てきます。)











俳人杉田久女(考) ~夕顔の句~(31)

2017年01月30日 | 俳人杉田久女(考)

久女の母、赤堀さよは池坊龍生派関西家元代理として88才までハサミを握っていた人だそうで、久女も池坊龍生派中伝免許を持っていたようです。

夫、宇内の勤務する学校の卒業式の演壇生花などは、
毎年久女が出向いて活けていたと、久女の長女昌子さんは著書に書いておられます。

お花が好きな久女は庭に花を植えて楽み、又、花の絵を描いたり、俳句にもよく花を詠んでいます。

平成23年に北九州市立文学館で開かれた「花衣 杉田久女」展で久女が筆写した『源氏物語』が展示されていました。それは『源氏物語』の本文の筆写だけではなく、上部に頭注を付けて見やすいように工夫がなされたものでした。

花が好き、『源氏物語』が好きな久女は、夕顔の句を数多く詠んでいます。昭和初め頃の幾つかを見てみましょう。

       「夕顔や ひらきかゝりて 襞深く」


この句は、ホトトギス流の写生俳句の典型と言われていますが、夏の夕暮れから咲き出す白い夕顔の花の襞は、開きかかった時が一番陰影が深いんですね~。


       「夕顔を 蛾のとびめぐる 薄暮かな」


上の夕顔の句の虚子評は、「本当に地味な写生本位に立っておる。何ということなしに夏の暑いもの憂い盛んな情景が描かれている」としています。とびめぐるという表現に蛾の羽音が聞こえてくるような気がします。


       
「夕顔に 水仕もすみて たゝずめり」  

この句からは久女の日常が彷彿としてきます。水仕とは台所仕事のこと。炊事を終えてほっとしながら、薄暗くなった庭に咲きだした夕顔を眺めているのでしょう。

『源氏物語』が好きな久女にとって、夕顔は愛着のある花だったのでしょう。下の句はあまり知られていないようですが、上の3句とは雰囲気が違いロマンティックな句ですね。久女の夕顔の句の中では私はこの句が一番好きです。

        「逍遥や 垣夕顔の 咲く頃に」

にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ


(この久女ブログは「日々の暮らしに輝きを! 
http://blog.goo.ne.jp/lilas526」の中のカテゴリー、俳人杉田久女(考)を独立させたものです。久女ブログの目次は左サイドバーの最新記事の最後にある >>もっと見るをクリックすると出てきます。)