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法曹になるには、法実務の遂行や法律家のキャリアの発展において、学習が血となり肉となって役立つように努力することが大切。

共犯論

2010年04月18日 | 日記
共犯論

1 共犯の基本原理
(1)共犯の種類



(2)正犯と共犯の区別
①拡張的正犯概念(主観主義:内心の悪意を重視)
本来、悪意を持って犯罪に関わった者は全て正犯であり、共犯規定は刑罰を縮小したものとする
②限縮的正犯概念(客観主義:罪刑法定原理を重視)
固有の処罰価値(定型性・法益侵害性)を持つものが本来の犯罪(正犯)であり、共犯規定はその適用範囲を拡張したものとする
1. 形式的客観説→定型的実行行為を行った者が正犯とする(犯罪共同説へ)
2. 実質的客観説→役割分担や行為支配(結果への貢献度)を実質的に見て正犯を決定しようとする(行為共同説へ)
(3)共犯の本質(何を共同にするか)
①犯罪共同説
共犯は一つの共通する犯罪を協力して行うことをいう
共犯者とは単なる行為を共同にした者ではなく、特定の犯罪行為を共同にした者であるとする
②行為共同説
共犯は事実を共同加巧することによって、各人の犯罪を行うことをいう
共犯者は必ずしも犯罪行為を共同にする必要はなく、行為を共同に行ったことで足りる
③対立の局面→片面的共犯、過失の共同正犯、未遂の教唆、共犯の罪名従属性など
(4)(特に狭義の)共犯の処罰根拠
①責任共犯論→正犯を堕落させた(有責な犯罪行為を実行させた)点に処罰根拠がある
②不法(違法)共犯論→正犯に違法行為をさせた点に処罰根拠がある
③因果共犯論(惹起説)→正犯を通じて結果を惹起した点に処罰根拠がある
(5)共犯の従属性
①実行従属
共犯は正犯の実行に従属して成立する(正犯が実行して始めて罰されうる)
かつては実行従属性を否定する見解(共犯独立性説)もあったが、現在では否定されている
②要素従属(共犯が成立するには正犯行為がどこまでの犯罪性を具えていなければならないか)
1. 極端従属形式→構成要件該当、違法、有責性が必要(正犯に責任が欠ければ共犯は不成立→間接正犯として処理)
2. 制限従属形式→構成要件該当、違法性が必要(責任が欠けた者に対する共犯は成立、違法阻却される行為者に対する共犯は不成立)
3. 最小限従属形式→構成要件該当性のみでよい(正犯と共犯の間に違法の相対性を認める)
(6)相互関連性
犯罪共同説 ― 責任共犯論 ―――――――――――――――――――――――――― 極端従属形式
       違法共犯論 ――――――――――――――――――――――――
        緩和された犯罪共同説(修正惹起説=違法な実行行為の惹起)――――― 制限従属形式
       緩和された行為共同説(混合惹起説=違法な結果の惹起)―――――
行為共同説 ――因果共犯論 ―――――――――――――――――――――――――― 最小限従属形式
      (惹起説)

2 共同正犯
(1)基本要件=「共同して実行した」の意義
①客観部分=共同加巧の事実
犯罪共同説→実行行為の分担が必要(実行共同正犯のみが共同正犯である:共謀共同正犯否定へ)
行為共同説→実質的に見て共同加巧していればよい(構成要件行為自体は一部の者が実行しただけで足りる:共謀共同正犯肯定へ)
②主観部分=共同加巧の意思
犯罪共同説→犯罪を共同にする意思が双方に必要(過失共同正犯・片面的共同正犯否定)
行為共同説→共同行為に加わりこれを利用する意思があれば可(過失共同正犯・片面的共同正犯肯定)
ex. 過失の共同正犯
名古屋高判昭61・9・30(被告人両名は,溶接作業を共同で行い、作業終了後バケツ一杯の水を溶接箇所にかけてその場を離れたが,溶接作業により発生した熱や火花により溶接箇所周辺の可燃物が発火し、建物が炎上した。原審は業務上失火罪の同時犯とした。):被告人両名は,予見義務違反の心理状態について「相互の意思連絡の下に本件溶接作業という一つの実質的危険行為を共同して」遂行したものと認められる。「このような場合,被告人両名は,共同の注意義務違反行為の所産としての本件火災について,業務上失火の同時犯ではなく,その共同正犯としての責任を負うべきものと解するのが相当である」。
東京地判H4.1.23(地下洞道において、電話ケーブルの断線探索作業に共同していた被告人両名が、お互いの使用したトーチランプの消火を十分確認することなく、その場を立ち去り、火災が発生した場合に、被告人両名につき重過失失火の共同正犯を肯定)「本件のごとく、社会生活上危険かつ重大な結果の発生することが予想される場合においては、相互利用・補充による共同の注意義務を負う共同作業者が現に存在するところであり、しかもその共同作業者間において、その注意義務を怠った共同の行為(トーチランプの火の消火の相互確認を怠る行為)があると認められる場合には、その共同作業者全員に対し過失犯の共同正犯の成立を認めた上、発生した結果全体につき共同正犯者としての刑事責任を負わしめることは、なんら刑法上の責任主義に反するものではない」
(2)実行共同正犯と共謀共同正犯
①実行共同正犯→実行行為を分担した者は、一部しか実行行為をしていなくても正犯となる
一部行為の全部責任(ex.脅迫と財物強取の分担=強盗の実行共同正犯)
共謀共同正犯→行為者の間に共謀があり、その一部の者が実行した場合に、全ての共謀者が正犯となるとされるもの(犯罪共同説からは、事実上の判例による立法だとして批判される)
②共謀共同正犯論
Ⅰ 否定説(犯罪共同説)
Ⅱ 共同意思主体説
大判昭11・5・28「凡そ共同正犯の本質は2人以上の者一心同体の如く互に相倚り相援て各自の犯意を共同的に実現し,以て特定の犯罪を実行するに在り。共同者が皆既成の事実に対し全責任を負担せざるべからざる理由滋に存す。若し夫れ其の共同実現の手段に至りては必ずしも一律に非ず。或は倶に手を下して犯意を遂行することあり,或は又共に謀議を凝したる上其の一部の者に於て之が遂行の衝に当ることあり,其の態様同じからずと雖,二者均しく協心協力の作用たるに於て其の価値異なるところなし。従て其のいずれの場合に於ても,共同正犯の関係を認むべきを以て原則たりとす。」
Ⅲ 間接正犯類似説
練馬事件最判昭33・5・28「共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがって右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。」
Ⅳ 近時の有力説(包括的正犯説と言われたりもする)
行為共同説→共同正犯たり得るためには、結果発生に重要な役割を果たせばいいのであり、必ずしも「実行行為」を行う必要はない(平野)
→結果への貢献度を、行為の定型性を離れて検討

3 教唆犯
(1)基本要件(§61①減軽なし、②:教唆者の教唆、§62②従犯の教唆=従犯の刑、§64適用制限)
①教唆行為
Ⅰ 人をそそのかして犯罪の決意を生じさせることを言う
Ⅱ 方法・手段は問わないが、漠然と「犯罪をせよ」というだけでは足りない
大判大13.3.31:教唆犯の成立には、教唆者が被教唆者に対し特定の犯罪を行わせるについて特定の認識を有することを必要とし、ただ漫然と犯罪を行うべしとか、窃盗罪を行うべしと勧誘するだけでは足りない。
②教唆の故意
Ⅰ 犯罪共同説→「犯罪」の認容で足りる
Ⅱ 行為共同説→「結果」の認容を要する
③正犯(被教唆者)による実行
④教唆の因果関係
(2)未遂の教唆(最初から未遂に終わらせる意図で教唆した場合:ex.おとり捜査)
①犯罪共同説(責任共犯論・違法共犯論)→成立肯定(正犯による犯罪実行を創出した)
②行為共同説(因果共犯論)→成立否定(正犯を通じた結果惹起は意図されていない)
(3)教唆犯と間接正犯
①正犯行為者に責任がない場合(ex.責任無能力者の利用)
Ⅰ 極端従属→教唆不成立(間接正犯として処理)
Ⅱ 制限従属・最小限従属→教唆犯
②違法性の欠如(ex.正当防衛行為者の利用)
Ⅰ 極端従属・制限従属→教唆不成立(間接正犯)
Ⅱ 最小限従属→教唆犯
③構成要件該当性の欠如(ex.目的なき故意ある道具=行使の目的のない者に通貨を偽造させる場合)
教唆不成立・間接正犯

4 従犯(幇助犯)
(1)基本要件(§62、§63減軽、§64適用制限)
①幇助行為
Ⅰ 幇助=正犯の実行を容易にすること
有形的幇助=道具の貸与や見張りなどの物理的幇助
無形的幇助=助言・激励などの精神的幇助
Ⅱ 時期=正犯の実行前・実行中のいずれでも可(但し、事後は含まない)
②幇助の故意
犯罪共同説・行為共同説の対立(教唆と同様)
③正犯(被幇助者)の実行
④幇助の因果関係(正犯行為が現実に容易になっていなければならない)
東京高判平成2・2・21判タ733号232頁(被告人は、正犯者Yが拳銃による強盗殺人の場所として予定していた地下室入口戸をガムテープで目張りするなどの防音措置を施したが、正犯は計画を変更し別の場所で射殺):「被告人の地下室における目張り等の行為がYの現実の強盗殺人の実行行為との関係では全く役に立たなかった」以上、「被告人の目張り等の行為が、それ自体、Yを精神的に力づけ、その強盗殺人の意図を維持ないし強化することに役立ったこと」が示されない限り幇助は成立しないが、Yが被告人に防音措置を指示した事実はなく、また被告人がこれをYに報告した事実もなく、Yは防音措置について認識していないので、Xの防音措置について従犯は成立しない。
(2)従犯と共同正犯の区別(ex.見張りは共同正犯か幇助犯か)
①形式説→実行行為の一部を行えば共同正犯、そうでなければ従犯
②実質説→結果への貢献度(因果共犯論:結果無価値論)、や行為者の地位(違法共犯論:行為無価値論)等の観点から個別的に決定すべき

5 共犯の諸問題
(1) 共犯と錯誤
原則:錯誤論の応用
法定符合説=同一構成要件の範囲(判例:窃盗の被害者や目的物が異なっても教唆の成立を妨げない)
具体的符合説=内容の特定性の範囲にあるかどうかを具体的に判断
(2) 共犯と罪名(錯誤、相当因果関係の有無などの場合の処理)
①犯罪共同説→共犯各人の間の罪名は同一でなければならない(罪名従属)
完全犯罪共同説→重い罪名について犯罪の共同を認める(軽い者の刑罰は軽い罪の範囲内で処理)
部分的犯罪共同説→重なり合う範囲で軽い罪名について犯罪の共同を認める(重い部分は単独犯)
②行為共同説→共犯各人の間で異なった罪名の成立を認める
ex.錯誤と罪名(犯罪共同説と行為共同説)
最判昭35.9.29: Xが恐喝の故意、Yが強盗の故意で共同した場合につき、両者について強盗の共同正犯を成立させたうえで、Xにつき、§38②を適用して恐喝の範囲で刑を適用。(犯罪共同説)
最判昭54.4.13:暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの1人が殺人を犯した場合、殺意のなかった他の共犯者については、傷害致死の共同正犯が成立する(行為共同説or部分的犯罪共同説)
(3) 共犯と身分
①§65の基本構造
1項:「身分によって構成すべき犯罪」(ex.偽証罪)に加担→連帯効果
2項:「身分によって特に刑の軽重がある」犯罪(ex.業務上横領)に加担→個別効果
②学説の対立
Ⅰ 判例・多数説
1項:構成的身分犯(真正身分犯)について共犯の連帯を認めたもの
2項:加減的身分犯(不真正身分犯)について個別化作用を認めたもの
Ⅱ 犯罪共同説(原型)
1項:犯罪の成否について、犯罪を共同にした共犯者が正犯の身分に従属するという当然の原則を示したもの
2項:科刑について身分と結びつけた規定がある場合に1項の適用が除外される例外を規定したもの(科刑についてのみ=罪名は従属)
Ⅲ 行為共同説
1項:違法性に関わる身分(違法身分:ex.横領罪の占有者)の連帯性を規定(違法は客観的に)
2項:責任に関わる身分(責任身分:ex.業務上横領の業務者)の個別性を規定(責任は主観的に)
(4)片面的共犯
①共同正犯(犯罪共同説・判例は否定説)
大判大11.2.25(数人間の乱闘事件に後から駆けつけた者が、仲間が知らない間に加わって脅迫行為をした): 共同正犯が各自、犯罪全体について責任を負うのは、行為者相互間に意思の連絡、すなわち共同犯行の認識があり、互いに他の行為を利用し全員協力して犯罪を実現するのによるのであって、相互に共同犯行の認識がなければ共同正犯は成立しない
②片面的幇助(犯罪共同説・判例も肯定する傾向)
大判14.1.22:賭博行為の勧誘を主催者に知らせず行った行為につき、賭博開帳幇助を肯定
(5)共犯と承継・中止・離脱
①承継的共犯=正犯の実行行為の途中から共犯者が参加した場合
犯罪共同説=一部行為の全部責任原則から全範囲について肯定へ
名古屋高判昭和38.12.5:1人が強姦の目的で暴行脅迫をして婦女を抗拒不能にしたものであることを知りながら、他の者が意思連絡の上強いて右婦女を姦淫したときは、強姦罪の共同正犯となる。
行為共同説=共犯行為と因果関係のない範囲(特に先行事実)については共犯成立否定
上の事例で後続参加者は準強姦(§178抗拒不能に乗じた強姦)となる
折衷的立場=結合犯については共犯肯定、死傷結果については因果関係を考慮
広島高判昭34.2.27:強姦行為の中途からこれに介入した共謀者は、介入後生じた傷害であることが証明されない限り、致傷の結果につき責任を負わない。
②共犯からの離脱・共犯関係の解消(結果との因果関係を認めるか・中止犯を認めるか)
Ⅰ 着手前の離脱
判例:離脱の意思の表明と他の共謀者の了承があれば、以後の犯行の責任を負わない
Ⅱ 着手後の離脱(解消)
共犯の一人が翻意して離脱するだけでは足らず、結果発生防止(因果関係の解消)努力をする必要がある
最判昭24.12.17(XとYは,強盗目的で押し入ったが,家人が「自分の家は教員だから金はない」と言いながら900円を出したので,Xは「俺も困って入ったのだからお前の家も金がないのならば,そのような金は取らん,お前はこの金が取られたと思って,子供の着物か何か買ってやれ」などと言い,Yにも「子供があるから置いていってやれ」,「帰ろう」などと言って,1人で先に外に出た。Yは手にした900円をいったん置いたが,再び手に取りそのまま犯行を遂げた。): Xは,Yが「金員を強取することを阻止せず放任した以上,・・・,Xのみを中止犯として論ずることはできないのであって,……強盗既遂の罪責を免れることを得ない。
最決H1.6.26(①被告人は、相被告人Bの舎弟分であるが、両名は、昭和六一年一月二三日深夜スナツクで一緒に飲んでいた本件被害者のCの酒癖が悪く、再三たしなめたのに、逆に反抗的な態度を示したことに憤慨し、同人に謝らせるべく、車でB方に連行した。②被告人は、Bとともに、一階八畳間において、Cの態度などを難詰し、謝ることを強く促したが、同人が頑としてこれに応じないで反抗的な態度をとり続けたことに激昂し、その身体に対して暴行を加える意思をBと相通じた上、翌二四日午前三時三〇分ころから約一時間ないし一時間半にわたり、竹刀や木刀でこもごも同人の顔面、背部等を多数回殴打するなどの暴行を加えた。③被告人は、同日午前五時過ぎころ、B方を立ち去つたが、その際「おれ帰る」といつただけで、自分としてはCに対しこれ以上制裁を加えることを止めるという趣旨のことを告げず、Bに対しても、以後はCに暴行を加えることを止めるよう求めたり、あるいは同人を寝かせてやつてほしいとか、病院に連れていつてほしいなどと頼んだりせずに、現場をそのままにして立ち去つた。④その後ほどなくして、Bは、Cの言動に再び激昂して、「まだシメ足りないか」と怒鳴つて右八畳間においてその顔を木刀で突くなどの暴行を加えた。⑤Cは、そのころから同日午後一時ころまでの間に、B方において甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死したが、右の死の結果が被告人が帰る前に被告人とBがこもごも加えた暴行によつて生じたものか、その後のBによる前記暴行により生じたものかは断定できない。)「右事実関係に照らすと、被告人が帰つた時点では、Bにおいてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかつたのに、被告人において格別これを防止する措置を講ずることなく、成り行きに任せて現場を去つたに過ぎないのであるから、Bとの間の当初の共犯関係が右の時点で解消したということはできず、その後のBの暴行も右の共謀に基づくものと認めるのが相当である。そうすると、原判決がこれと同旨の判断に立ち、かりにCの死の結果が被告人が帰つた後にBが加えた暴行によつて生じていたとしても、被告人は傷害致死の責を負うとしたのは、正当である。」