法曹

法曹になるには、法実務の遂行や法律家のキャリアの発展において、学習が血となり肉となって役立つように努力することが大切。

行為主体

2010年04月18日 | 日記
第二部 犯罪論

1 行為主体

(1)原則=「者」(§1):自然人一般
例外①:身分犯  例外②:法人(§8による)に対する両罰(ex.売防法§14、公害罪法§4)

(2)身分犯の種類(共犯との関係で問題となる§65 ⇒ ①項と②項の関係)
①真正身分犯と不真正身分犯
1. 真正身分犯(構成的身分犯)=犯罪の成立要件として身分が必要なもの(ex.§197収賄)
2. 不真正身分犯(加減的身分犯)=刑の加減に関して身分が問題となるもの
 (ex.§252横領vs§253業務上横領 ― 但し、通説の場合)
②違法身分と責任身分
1. 違法身分=身分の有無が違法性にかかわるもの(ex.§169偽証)
2. 責任身分=身分の有無が責任にかかわるもの(ex.§186常習賭博)

2 実行行為
※ 事実上の刑法の検討は実行行為の特定に始まる
構成要件的結果を惹起する定型的危険を持つ行為(定型説=形式的客観説 ← 行為無価値)
構成要件的結果(危険)を惹起した行為(実質的客観説 ← 結果無価値)
(1)行為の種類
作為→積極的活動(何かをなすこと)
不作為→消極的活動(何かをなさないこと)
(2)構成要件の種類
作為犯→作為による実現を予定している構成要件(ex.§199殺人→刑法典の大半)
不作為犯→不作為による実現を予定している構成要件(ex.§130不退去、§107多衆不解散、§218保護責任者遺棄など)
(3)自然的行為(作為・不作為)と構成要件の関係
構成要件の規定形式
作為構成要件 不作為構成要件
行為態様 作為 作為犯 ―
不作為 不真正不作為犯 真正不作為犯
  

          
    


(4)特殊な実行行為
①不真正不作為犯
②間接正犯
③原因において自由な行為
(5)刑法適用における実行行為の重要性
ex.故意の存在時期

3 結果
※外部的行為の結果としての侵害または侵害危険性
→ 結果が必要とされる犯罪については当然、因果関係も必要となる

(1)結果に基づく構成要件の分類(通説による)










①侵害犯→法益が現実に侵害されることを要件とするもの
1. 既遂犯→特定の結果発生(ex.§199:原則形態)
2. 未遂犯→実行を開始したが結果が発生していない(ex.§203)
重大な犯罪に関し、例外的に処罰(ex.§222脅迫には未遂がない)
3. 予備犯→準備だけはしたが実行を開始していないもの(ex.§201)
特に重大な犯罪に関し、極めて例外的に処罰(ex.強盗には予備§237も未遂§243もあるが、窃盗には、未遂§243のみ)

②危険犯→結果の発生までは不要だが、何らかの危険の発生を要件とするもの
1. 具体的危険犯→現実的危険の発生を要件とするもの(ex.§125往来危険)
2. 抽象的危険犯→一般的に法益侵害の危険が存在すると認められる行為を行なったことで足りるとされるもの=危険は擬制されている(ex.§169偽証、§218①保護責任者遺棄)

③形式犯→何らの危険もなくとも一定の形式を満たせば成立するとされるもの
(ex.道路交通法§95①運転免許証不携帯→§121①十故意、②過失:罰金2万円)

(2)形式犯・抽象的危険犯を巡る対立
①判例・通説(行為無価値論的立場)の立場
Ⅰ 侵害危険性のない行為の処罰規定の存在(形式犯・抽象的危険犯)
→法は侵害危険のない行為でも処罰することを認めている(法実証主義)
→結果の問題は、構成要件論において、法に規定されている限りで論じるべきであり、抽象的危険犯や形式犯は結果のいらない(従って当然因果関係もいらない)犯罪である(法実証主義)
Ⅱ 行為主義としてのTatprinzip(規範主義)
②有力説(結果無価値論)
Ⅰ 形式犯・抽象的危険犯が、何の危険性もないのに処罰されるとすれば、侵害のない犯罪の処罰を認めることになり、国家刑罰権の外在的抑制装置としての侵害原理(実体的デュープロセスの要請である法益侵害原則)を否定することになる
Ⅱ 形式犯・抽象的危険犯とされるものについても、なんらの危険もないものは処罰すべきでない
1. 形式犯や抽象的危険犯も危険犯の一種(程度の軽い危険)としてとらえる(山口)
2. 危険の推定を破る個別具体的事情がある場合には、犯罪成立を否定する(中山)

(3)未遂犯

①未遂犯の分類(§43)
1. 障害未遂→実行行為の不完全さ、妨害などによる結果不発生→「減軽することができる」(任意的減軽)
2. 中止未遂→自己の意思により犯罪を中止したとき→刑の減免(必要的減免:法定減軽§68参照)
3. 不能未遂→結果発生がおよそ不可能なもの→不処罰

②実行の着手=未遂の開始(予備との区別)
1. §43「実行に着手」
→未遂と予備との境界(通常は予備は不可罰なので、処罰の可否の境界でもある)
2. 着手の成立時期
学説
Ⅰ 主観説→犯意が確定的に認められる時
Ⅱ 客観説
形式的客観説→犯罪構成要件に属する行為の一部を開始した時
   修正説→構成要件該当行為の一部またはそれに密着する行為を開始した時
実質的客観説→①結果発生の具体的危険が発生した時(結果無価値)
       ②結果発生に至る現実的危険を含む行為を開始した時(行為無価値)
判例(いずれも着手肯定)
Ⅰ 窃盗:最決S40.3.9但し引用は高裁(犯人が被害者方店舗内で懐中電燈を持ち金をとるべくレジの方へ向った時)「窃盗の目的で他人の家屋に侵入し懐中電燈で屋内を見廻し、現金のおいてあると思われる場所を確かめてその方へ近づく行為は窃盗行為に密接な行為であつて、犯罪の実行の著手であつたものと解するのを相当とする」
Ⅱ 強姦:最決昭45・7・28(強姦目的で被害者をダンプカーに乗せようとした時)「被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当」
Ⅲ 殺人:最決H16.3.22(車に乗せて海に投棄して死亡させる目的で、クロロホルムをかがせた時)「第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや,第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと,第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。」
③不能犯
1. 学説
Ⅰ 抽象的危険説(主観主義=計画の危険説)
→行為者の計画がそのまま実現しても危険がない場合のみ不能犯(事実上、迷信犯のみが不能犯)
Ⅱ 絶対的不能・相対的不能説(古い客観説とも言われる。Ⅳの原形)
→結果が絶対に起こり得ないときに不能犯の成立を認める(原則的に、客体の不能は絶対的不能、方法の不能は相対的不能となる)
Ⅲ 具体的危険説(印象説)
→一般人が認識しえた事情及び行為者が特に認識していた事情を考慮して、結果発生が予測されない場合に不能犯を認める(客観的事後予測=事前判断)
Ⅳ 客観的危険説
→客観的危険の存否を事実に即して判断する(事後的に判明した事実を含めて、完全な事後判断による)
ex.山口「不発生の科学的理由を明らかにし、その発生確率を問う」
.2. 判例
不能犯肯定(不処罰)
Ⅰ 大判T6.9.10(硫黄を飲食物に混入した殺人未遂)「硫黄の施用による殺人はその方法が絶対不能に属し、殺人未遂罪は成立しない」
Ⅱ 東京高判S37.4.24(真正でない原料による覚醒剤製造未遂)「覚せい剤の主原料が真正の原料でなかつたため、覚せい剤を製造することができなかつた場合は、結果発生の危険は絶対に存しないのであるから、覚せい剤製造の未遂罪をも構成しない」
不能犯否定(処罰)
Ⅰ 最判S26.7.17(致死量のストリキニーネを入れたフナの味噌煮による殺人未遂:何人も絶対にこれを食べないとは断定しがたい cf.弁護人「実際ストリキニーネは相当の少量であつても「苦味が甚しい」(第一審判文)ので到底食べられるものでなく「苦味があつて之を食する者は異様に感ずる」(原判文)程度の沙汰ではないのである。……飢えたる猿でも恐らく身体を傷害するに足る程度のストリキニーネ含有物を食することは出来ないであろう。」)
Ⅱ 福岡高判S28.11.10(空ピストルによる警官殺害未遂)「制服を着用した警察官が勤務中,右腰に着装している拳銃には,常時たまが装てんされているべきものであることは一般社会に認められていることであるから,……たまたまその拳銃にたまが装てんされていなかったとしても,殺人未遂罪の成立に影響なく,これを以って不能犯ということはできない」
Ⅲ 広島高判昭36・7・10(拳銃で撃たれた死体を生存と誤信して日本刀で刺した)「一般人も亦当時その死亡を知り得なかったであろうこと,従って又被告人Xの前記のような加害行為によりAが死亡するであろうとの危険を感ずるであろうことはいずれも極めて当然というべく,…被告人の所為は殺人の不能犯と解すべきではなく,その未遂罪を以って論ずるのが相当」

④中止犯
1. 学説
Ⅰ (刑事)政策説…政策的理由に基づくものとする説(リスト「引き返すための金の架け橋」)
Ⅱ 法律説…法律上の理由から中止未遂が認められるとする説
[1]違法減少説→中止行為が結果発生の現実的危険性(結果無価値性)や未遂行為の反価値性(行為無価値性)を減少させるとする(←一端成立した未遂行為の違法性が、なぜ事後的に減少するのか)
[2]責任減少説→義務違反的意欲が合法的意思に復帰した点に非難可能性の減少を認める
(←条文は自発的中止しか求めていないのに、過度に「悔悟の情」を求めることにならないか)
[3]危険消滅説→中止行為が未遂行為の惹起した危険を消滅させる点に期待して政策的に減免が設定されたものとする

2. 中止犯の成否の論じ方
条文「自己の意思により中止した場合」
→ ①中止行為の存在確認、②それは自己の意思によりなされたか(任意性)の検討

3. 中止行為
Ⅰ 着手未遂(実行を終了していない未遂)
→後続する行為の放棄(不作為)のみで中止となる
→任意性が主要な問題となる
Ⅱ 実行未遂(終了未遂:実行行為が終了した未遂=やるべきことをすべて終わった場合)
既に結果に向かって進行しているできごとを積極的に防止する必要がある
[1]発生防止行為の存在(中止行為の存在)
東京地判昭37・3・17(殺害目的で睡眠薬を飲ませた直後にたいへんなことをしたと悟り,結果を防止しようと焦慮したが,Aの苦悶の様子を見て,いかんともし難いと観念し,事態を警察官に通報連絡した結果,医療措置が講ぜられ一命を取り止めた)→中止未遂肯定「本件の場合,被告人としては,Aの死の結果を防止するため,被告人自身その防止に当たったと同視するに足るべき程度の真摯な努力を払ったものというべきであり,……殺人の中止未遂と認めるのが相当である」
大判S12.6.25(放火犯人が「放火したので後はよろしく頼む」といって逃亡)→中止未遂否定「中止未遂というには、少なくとも犯人自ら結果の発生を防止するか、または自ら防止したと同視するに足りる努力を払わねばならない」
[2]防止行為の有効性(危険消滅との因果関係)
責任減少説→「防止のための真摯な努力を示す行為」であれば足りる(有効性不要)
違法減少説・危険消滅説→有効な防止行為である必要がある(危険消滅との因果関係必要)
⇔もともと不完全な実行未遂だった場合には、中止行為の有効性がなく、常に中止未遂は認められなくなるが、それでよいのか
判例:必要説
ex.大判S4.9.17:点火した導火線の麻縄の火を消そうとしたが、効なく、結局他人の介入行為により消火した事例につき、中止犯の成立を否定(障害未遂として処理)

4. 任意性
Ⅰ 「悔悟の情」の要否
1. 責任減少説→必要説
2. 違法減少説・危険消滅説→不要説(外的障害によらず自発的なものであればよい)

Ⅱ 任意性の判断基準
1. 主観説(通説)→行為者自身の立場に立って、フランクの公式に即して任意性を判断
フランクの公式:「やろうと思えばやれたが、やらなかった」=中止未遂
        「やろうと思ってもやれない」=障害未遂
2. 限定主観説→道徳的悔悟までは不要だが、広義の後悔に基づいて中止する必要がある(責任減少のためには、自己の行為を否定する心理が必要)
3. 客観説→行為者の認識した事情が一般的に犯行遂行の妨害となるものであるかを判断

Ⅲ 判例
1. 客観説的傾向(「経験上一般に犯罪の遂行を妨げる事情」によらず犯行を中止した場合)
2. 「悔悟」の重視傾向(特に「驚愕して中止した」場合の判断)
中止犯否定
大阪高判昭44・10・17(包丁で被害者の左腹部を突刺したが,被害者が泣きながら「病院に連れて行ってくれ」と哀願したので,同人に対する憐憫の情を発すると共に,事の重大さにも恐怖驚愕して,死亡の結果を食い止めるため,同人を自己運転の自動車に抱きいれて近くの病院に連れて行き,医師の手に引き渡した)「被告人が被害者を病院に運び入れた際,その病院の医師に対し,犯人が自分であることを打ち明けいつどこでどのような兇器でどのように突刺したとか及び医師の手術,治療等に対し自己が経済的負担を約するとかの救助のための万全の行動を採ったものとはいいがたく,単に被害者を病院に運ぶという一応の努力をしたに過ぎないものであって,この程度の行動では、未だ以って結果発生防止のため被告人が真摯な努力をしたものと認めるに足りない」。
中止犯肯定
福岡高判昭61・3・6(ナイフでAの頸部を1回突刺したが,Aが大量の血を吐き,呼吸のたびに血が流れるのを見て,驚愕すると同時に大変なことをしたと思い,タオルで止血をしたり,消防署に連絡し,救急車の派遣と警察への連絡を依頼した)「中止犯の「『自己ノ意思二因リ』とは,外部的障碍によってではなく,犯人の任意の意思によってなされることをいうと解すべきところ,本件において,被告人が中止行為に出た契機が,Aの口から多量の血が吐き出されるのを目のあたりにして驚愕したことにあることは前記認定のとおりであるが,中止行為が流血等の外部的事実の表象を契機とする場合のすべてについて,いわゆる外部的障碍によるものとして中止未遂の成立を否定するのは相当ではなく,外部的事実の表象が中止行為の契機になっている場合であっても,犯人がその表象によって必ずしも中止行為に出るとは限らない場合に敢えて中止行為に出たときは,任意の意思によるとみるべきである。……本件の中止行為は,流血という外部的事実の表象を契機としつつも,犯行に対する反省,悔悟の情などから,任意の意思に基づいてなされたと認めるのが相当である」。