法曹

法曹になるには、法実務の遂行や法律家のキャリアの発展において、学習が血となり肉となって役立つように努力することが大切。

間接正犯・不作為犯

2010年04月18日 | 日記
3 因果関係

(1)因果関係の意義
※結果に対する責任を問う前提としての因果関係 = 被告人が結果を惹き起こしたといえるかの問題

(2)学説
①原因説(19世紀前半のドイツ刑法学を支配した古典的客観主義の因果関係論)
◎結果の原因となった行為のみが正犯行為として結果の責任を問われうる
単なる(必要)条件行為は、せいぜい幇助犯や教唆犯にしかならない
②条件説
◎行為と結果の間に「前者なければ後者なし(その行為がなければ結果はなかったであろう)」という関係(条件関係)があれば、因果関係は肯定される
◎自然科学的因果関係論(とされる)
◎因果関係を認める範囲の無限定的拡大→主観主義(行為者主観による犯罪限定)へ
③相当(因果関係)説(条件関係+結果発生の相当性)
◎法的因果関係論(自然科学的因果関係論の結論の無限定性を法的観点から是正しようとするもの)
1.主観的相当因果関係説(絶滅種)
→行為時に行為者の認識していた事情と認識し得た事情を基礎に、結果が予測される時に、因果関係を肯定
2.折衷的相当因果関係説(団藤、大塚、大谷)
→行為時に一般人が認識し得た事情と、行為者が特に知っていた事情を基礎に、結果が予想される場合に因果関係を肯定
3.客観的相当因果関係説(平野、山口)
→行為時に客観的に存在した全ての事情と行為後に発生した事情のうち一般人が認識しえた事情を基礎に、結果が予測されるときに、因果関係を肯定
ex. 傷害の故意で相手を殴ったところ、相手に心臓疾患があったため、ショックで死亡した
1. 被告人は医者であったため疾患の事実を認識した、一般人は知り得なかったであろう場合
2. 被告人は疾患の事実を知り得なかったが、普通の注意力を持った一般人は認識可能だった場合
3. 被告人も一般人も知りえなかった場合
④客観的帰属論
刑法における因果関係の問題は、自然科学的事実(条件説)や経験的通常性(相当説)ではなく、結果を被告人の行為に帰属させることが許されるかという法的問題であるとするもの
1. 違法(義務違反)連関論(主として過失犯の場合に用いられる)
→義務適合的適法行為によっても結果が生じたであろう時には結果は帰属しない
ex.トレーラー事件(独):トレーラーを運転中75cm間隔で自転車を追い越し轢殺した事例で、被害者が泥酔しており、道交法適切な追い越し(1~1.5m)であっても轢いていたであろう場合
2. 規範の保護目的論
→被告人の行為が法的に重要な結果発生危険を創出し、その危険が実現したものでない限り、結果は帰属しない
①遺産相続のため父親が飛行機事故に遭えば良いと考え、飛行機旅行を勧めたところ、本当に飛行機が墜落して父親が死亡した(危険の創出がない)
②殺意を持って相手を刺し、致命傷を負わせたが、相手は救急車で搬送される途中、交通事故にあい死亡した(危険の実現がない)
3. 遡及禁止論(危険の実現の一部ともいえる)
→構成要件的結果を認識して惹起する自由な行為の背後の行為については、構成要件的結果は帰属されない
ex.後述、米兵轢き逃げ事件
⑤原因説的思考の再評価
被告人の行為の「寄与度」の検討(林陽一・前田)

(3)判例
肯定判例
1. 最判昭46・6・17(布団むし事件H4司試論述類似問題:被告人が被害者(女性63歳)を布団の上に倒して両手で頸部や口を押さえつけ,さらに夏布団で頭部を覆って上から強く押さえつけたところ,重篤な心臓病患者であった被害者は突然心臓機能の障害を起こし,急性心臓死で死亡…ただし被告人も被害者もその主治医も,被害者の心臓病がこれほど重篤であるという認識はなかった)「被告人の本件暴行が,被害者の重篤な心臓疾患という特殊の事情さえなかったならば致死の結果を生じなかったであろうと認められ,しかも,被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らず,また,致死の結果を予見することもできなかったとしても,その暴行がその特殊事情とあいまって致死の結果を生ぜしめたものと認められる以上,その暴行と致死の結果との間に因果関係を認める余地がある」として原判決を破棄差戻。
2.  最決H2.11.20(大阪南港事件:暴行を加えて意識消失させた被害者を運搬・放置したところ、第三者が角材で殴打し、内因性高血圧性橋脳出血により死亡)「犯人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行により死が早められたとしても、犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる」
否定判例
3.  S8.2.28東京控訴院判決(浜口首相暗殺事件:被告人が加えた銃創による空腸穿孔を通して、被害者の腸間から腹腔内に菌が侵入して放射状菌病による死亡)「該結果の発生が全く偶然なる事情の介入による希有の事例に属し常態に非るときは刑法上因果関係なきものと解するを相当とす」
4.  最決S42.10.24(米兵轢き逃げ事件:運転中過失により被害者を乗用車の屋根にはね上げ、そのまま気付かず四キロほど運転したところ、同乗者がこれを発見し時速10キロの速度でアスファルトの道路に逆さまにひきずりおろし被害者は死亡)「右のように同乗者が進行中の自動車の屋根の上から被害者をさかさまに引きずり降ろし,アスファルト舗装道路上に転落させるというがごときは,経験上,普通,予想しえられるところではなく,ことに,本件においては,被害者の死因となった頭部の傷害が最初の被告人の自動車との衝突の際に生じたものか,同乗者が被害者を自動車の屋根から引きずり降ろし路上に転落させた際に生じたものか確定しがたいというのであって,このような場合に被告人の前記過失行為から被害者の前記死の結果の発生することが,われわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない」

(4)因果関係の論じ方
1. まず死因を確認する。
2. 死因となった傷等を惹起した行為・事故(直接の原因)の特定
①被告人の実行行為である場合(判例1―持病等の行為前の事情はすべてこの類型、判例2―行為後に異常な事実は介在しているが直接の原因とはなっていない場合)
→「被告人の実行行為によって死因となった傷が生じた以上、因果関係の存在は明らか」(判例2)と論じて因果関係を肯定する
②実行行為後に事故や他人の行為(特殊事情)が介在し、それが直接の原因になっている場合
→その事故や他人の行為の通常性を検討する
Ⅰ 実行行為が作りだした事情を前提にすれば通常起こりうる事故や他人の行為である場合
ex.高速道路で被害者を車中から放り出したら、被害者が後続車にはねられて死んだ場合
→事故や他人の行為は普通に予想しえられることであり、従って、被告人の行為から結果の発生することは経験上当然予想しえられることであると論じて因果関係を肯定する(判例4の逆バージョン)
Ⅱ 通常は起こりえない異常な事故や他人の行為(特に故意や重過失)であった場合
ex.入院した病院が地震で倒壊し被害者が死亡した場合(事故)や判例4(他人の故意行為)
→「このような場合に被告人の行為から結果の発生することが,われわれの経験則上当然予想しえられるところであるとは到底いえない」(判例4)と論じて因果関係を否定する

4 間接正犯

(1)間接正犯=機械的な道具と同視しうる他人の行為を利用して構成要件を実現する場合
ex.医者が(事情を知らない)看護婦に命じて患者に毒物を注射させる場合
(2)実行行為性
①形式的客観説(定型説…行為無価値)
→定型的行為を他人(道具)がやっているところから問題になる
Ⅰ 道具理論 = 直接行為者の行為が単なる道具に過ぎないと評価できる場合には、背後者の利用行為の実行行為性を肯定しうる
Ⅱ 行為支配説 = 被利用者の行為を利用者が支配している場合には、利用行為に実行行為性を認めうる
②実質的客観説(結果無価値)
→実行行為性を行為の定型性とリンクさせないので、特別の問題にならず、間接正犯は、ケースに応じて直接正犯か教唆犯かに分かれる。
原因設定の場合が(間接)正犯(原因説)
「遡及禁止論」を基軸とした処理(山口)
③具体的事例
Ⅰ 責任無能力者の利用
Ⅱ 故意を欠く者の利用
Ⅲ 故意ある道具の利用
[1]身分なき故意ある道具
ex.公務員が自分の妻に賄賂を受け取らせる場合
[2]目的なき故意ある道具
ex.行使の目的を隠して、行使目的のない他人に偽通貨を作らせる場合
[3]単なる故意ある道具(故意ある幇助的道具)
ex.横浜地川崎支判S51.11.25覚せい剤譲渡の実行担当者が正犯意思を欠くときは、故意のある幇助的道具であり、正犯に問擬することはできず、幇助罪が成立する
(3)実行の着手時期
形式的客観説→利用行為の開始時期(利用行為自体が実行行為であり、それを開始しているから)
実質的客観説→被利用者の行為の開始時期(結果発生の具体的危険の生じたとき)
(4)教唆犯との境界の問題 → 共犯論で後述

5 不真正不作為犯

(1)不真正不作為犯=不作為による作為犯(結果犯)の問題性
①不作為に因果関係があるか(何かをしないことで結果が惹起されうるか)?
→ 期待説 → 限定機能喪失
 ②どの範囲で犯罪が成立するか? → 作為義務論

(2)伝統的不真正不作為犯論(保証人説)=通説

①作為義務論(実行行為論)
保証人的義務(作為義務)のある者の不作為のみが構成要件に該当する(実行行為性を持つ)
Ⅰ 作為義務の前提
[1]作為可能性
ex. 泳げない母親には泳いで子供を助けることは要求し得ない
[2]結果回避可能性
→ 現実にその作為によって結果回避可能性がなければならない(因果判断の先取り)
Ⅱ 作為義務の発生根拠
[1]法令
ex.民法上の親権者の子に対する監護義務(§820)・親族の扶養義務(§877)など
[2]契約・事務管理
契約→契約により一定の作為義務が生じる場合
ex.養子契約による保護義務の発生
事務管理→「義務なくして他人のために事務の管理を始めた」(§697)場合
ex.病者を自宅に引取り、看護を始めた場合
[3]先行行為(条理の中に含める見解もある)
自己の行為により法益侵害の危険が発生した場合
 ex.過失による出火
[4]条理・慣習(通説は否定―法と道徳の区別論)
条理=ものごとの道理
Ⅲ 以上の条件を満たした不作為が実行行為性を持つ

②因果関係(期待説)
※実行行為要件としての結果回避可能性との違い
Ⅰ 条件関係
条件説=「その行為がなければ結果はなかったであろう」時に因果関係あり
→「その不作為がなければ……」=「期待された作為があれば……」
ex. 最決平1.12.15(保護責任者遺棄致死事件…但し真正不作為犯の事例):「同女が年若く、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、十中八九同女の救命が可能であった…。そうすると、同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから、被告人がこのような措置をとることなく漫然同女をホテル客室に放置した行為と午前二時一五分ころから午前四時ころまでの間に同女が同室で覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係があると認めるのが相当である
Ⅱ 相当性(客観的帰属、原因性)

(3)通説の問題点と修正説の概要
①罪刑法定原理違反の可能性=作為義務は刑法の条文の中に記されていない
1. 総則規定による解決案
ex.改正刑法草案§12「罪となるべき事実の発生を防止する責任を負うものが、その発生を防止することができたにもかかわらず、ことさらにこれを防止しないことによってその事実を発生させたときは、作為によって罪となるべき事実を生ぜしめた者と同じである」
2. 各則規定による解決案
②法益侵害原則違反の可能性=不作為の因果性への疑問
具体的依存性説(事実上の引き受け説)・支配領域説
③多元説(同価値性要件)
作為義務の発生根拠について、通説のような形式的とらえかた(形式的三分説)にとどまらず、「積極的結果惹起と同視しうるか」という観点から多元的に捉えるべきだとする
1. 作為義務論 + 同価値性要件 とする立場(いずれも実行行為要件)
2. 作為義務論にこだわらず、同価値性を直接的に検討する立場(要するに同価値なら実行行為性あり)

(4)判例

[1]殺人
1. 東京地八王子支判昭57・12・22:被告人らは自己の住居に居住させていた女性従業員Aに暴行を加え、鼻骨骨折を伴う鼻根部挫傷ないし挫裂創,下口唇挫創,後頭部挫創等の傷害を負わせ、以後6日に渡って、次第に悪化していくAの病状を見ながら、死亡してもやむをえないと考えて、自宅内にあった化膿止めの錠剤,解熱剤及び栄養剤を投与し,氷枕をあてがうなどしただけで,医師による治療などの有効適切な救護措置を講ずることなく放置し死亡させた。
<判旨>
Ⅰ 作為義務の発生根拠: ①Aを「死亡させる切迫した危険を生じさせた」こと,②「知能や判断力がやや劣る」Aに対する日頃の虐待や折檻から「被告人両名とAとの関係は,単なる経営者とその従業員というに止まらず,その全生活面を統御」し,Aを「支配領域内に置いていた」こと,
Ⅱ 実行行為:「(13日に傷害19日に死亡)14日には,Aの創傷が医師による適切な医療行為を必要とする程度の重いものであることを認識し,更に,遅くとも,同月16日にはAの死を予見」していたことから,被告人らには,Aの「生命を維持するため,同女をして医師による治療を受けさせるべき法的作為義務があった」
2. 東京地判昭40・9・30:自動車運転中,過失により重傷を負わせ意識不明となっている被害者Aを、一旦、病院に搬送すべく助手席に同乗させて同所を出発したが、途中で自己の刑事責任を問われることをおそれ,救護の措置を加えなければAが死亡するかもしれないことを予見しながら,約29キロメートル離れた山林まで救護措置もとらずに走行したため,Aを骨盤骨複雑骨折による出血および外傷性ショックにより死亡させた。(殺人として有罪)
※交通事故についての通説・判例
→「先行行為」「道交法§72①緊急救護義務」のみでは、不真正不作為犯(不作為による殺人)を認めていない(従来は§219保護責任者遺棄致死として処理)
→2007法改正
道路交通法§117
 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

[2]放火(いずれも不作為による放火肯定)
1.大判S13.3.11:自宅の神棚に立てたろうそくが神符の方に傾いているのを発見したが、火災保険金を狙ってそのままにして外出
戦前の放火判例=主観的要素(既発の火力を利用する意思=「ことさらに」要件)による限定
戦後の緩和傾向
2. 最判S33.9.9:残業していた従業員が、居眠りしている間に燃え移った火鉢の火を放置
3. 大分地判H15.3.13:(パチンコで負けた腹いせとして、パチンコ台の下受皿玉排出口にライターを入れて点火したところ、パチンコ台内部に着火してしまい、これに気付いた被告人がそのまま立ち去ったため、パチンコ店内全体に燃え移り、一階店舗部分の大分を焼損)本件火災を消化できた可能性(作為可能性)が認められ、そうである以上、先行行為に基づく作為義務及び被告人の不作為と店の全焼との間の因果関係が認められ、焼損の認容による未必の故意も認められる

(5)不真正不作為犯の論じ方(通説・判例を基礎とする)

前提:「不作為にも結果惹起性を認めうるが、全ての不作為に実行行為性を認めると処罰範囲が膨大になり自由保障が危うくなるので、法的作為義務があり、かつ作為による結果惹起と同価値といいうる範囲に限定して実行行為性を認めうる」
作為義務論
Ⅰ 「不可能は義務づけられ得ないので、作為義務の前提として作為可能性と結果回避可能性が必要」として、事実解析をおこなう
Ⅱ 法的作為義務の発生根拠として①法令、②契約・事務管理、③先行行為が必要として事実解析をおこなう
Ⅲ 更に同価値性が必要として、排他的支配(支配領域性)等の事実解析をおこなう
Ⅳ 以上を前提に実行行為を特定する(いつの時点の、どのような行為の不作為が実行行為か)
以下(結果・因果関係等)は作為犯と同様