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《エッセンシャル・キリング》(スコリモフスキ監督)ー絶望の逃亡者ー2011-08-29

2015-07-12 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品

ポーランドが生んだ映画の巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督の
《エッセンシャル・キリング》を観てきました。2011-08-29

《エッセンシャル・キリング》
(スコリモフスキ監督)ー絶望の逃亡者ー
         2011-08-29


私は映画のことにはほんと、暗いので、
スコリモフスキ監督のことも作品の名前しか知りませんでした。
「ハンナと過ごした4日間」、これは相当面白いようです。

でも、今回の《エッセンシャル・キリング》、興味があったんですよ。
全編、主人公にセリフがないということで。
それってすごくないですか?
どうやって観客が感情移入できるんだろう。
それを知りたいと思って、関西公開を楽しみにしていました。

実は調べるまで主人公の名前もわからなかったんですけど^^、
アラブ兵ムハンマドが、延々と続く白い岩場を
逃げ惑うところから話が始まるんです。
上空をアメリカ軍のヘリコプターが旋回し、
地上では3人のアメリカ兵がムハンマドを追いかける。

ムハンマドが岩場に隠れ、アメリカ兵たちが油断したところを、
死者から取り上げたバズーカ砲で吹き飛ばしてしまう。

いきなりの殺人であるわけですが、
この《エッセンシャル・キリング》という題名、
日本語に訳すと、「必然的な殺人」ですよね。
必然なんだろうか、という疑問から始まるのでした。

主人公がまったく話さないのですが、
ムハンマドが思い出す過去の情景から、
観ているわれわれはアメリカ軍になぜ追われなければならないのか、
アラブ兵対アメリカ軍という構図はわかっても、
ひとりの人間としての来歴はわかりません。

ヘリからの攻撃で捕らえられ、捕虜となるムハンマドですが、
護送車の事故で、逃走に成功するのです。
そこから、ムハンマドの新たな逃走が始まります・・。

イスラエル、ポーランド、ノルウェー、
3カ国でロケを敢行したということですが、
のっけの岩場はイスラエルでしょう、
昔見た映画「ジーザスクライストスーパースター」を
思い出しました(一瞬ですけど)

最初、セリフがないという主人公に感情移入できるのかどうか、
と思っていたことが
すでに冒頭から吹っ飛ぶんですが、
それは逃避行の間も変わることがなく、
この状況でムハンマドはどういう行動をとるのだろうと、
思わずひきつけられてしまいます。
でも、顔を手で覆いながらそのスキマから、というような感覚で。

雪の森や平原をしゃにむに逃げ続けるムハンマド、
かつての暮らしを思って、ひたすら、でも、
あてもなく逃げ続けます。
その絶望と、残虐と、行くあてのない、
まるで世界の果てにむかっての疾走・・・。

誰かと出会って、
ドラマが生まれるのが映画であるなら、
その虚構に逃れたいと思う観客の、
甘ったれた願いを打ち砕く、
日常のリアリティを
恐ろしいほどに味合わされます。

ドラマなんて生まれない・・
主人公の優しさだとか憎しみだとか悲しみだとか、
そういう【人間らしさ】に持っていこうとするあざとさを
徹底的に排除している、
恐ろしい映画なのかもしれません。

それでもですよ、
何かの瞬間、追われ続ける男の先に
美しい、と観る者が感じてしまう景色があったりするわけです。
映画に没頭しているのに、ですよ、
逃げ続ける主人公と一緒に、いわば、いるわけなのに、
人間って、頭のなかがどうなってるんだろうと思いましたね。
追っ手に、逃げていく主人公に、
次に両者はどんな行動に出るのかドキドキしているのに、
なんで感動してしまうんだろう、と、
すごく不思議な気持ちになりました。

人間ってそういう不思議なものなんだというのを
実感するだけでも価値があるなあと思ったりもしました。

ところがです、

最後の最後に衝撃的な場面が待っています。
女性として、そういう場面に遭遇したら、
自分はどうするだろう、という。

それはもう、びっくりしますよ。
最後の最後に、予期せぬドラマが一瞬だけ現れ、
主人公を慰撫するんだと思うのです。
そして、主人公はどうなるのか・・・。

ドラマって何も、リアリティを捨てることなく、
成立するものなんだと、
この映画を観て教わった気がしました。

この映画は巨匠・スコリモフスキ監督を知らない
不届きモノの私でも、すごい映画だと分かるものでした。

ドラマから映画化、という道筋ではぜったいにできない映画。
たまにはこういう映画もいいと思います。




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