今回は二本、続けてご紹介しよう。『田舎の友』と『同級の人』を読んだ。
結論から先に言うと、この二作は凡作だと言えよう。これといって光るところもない、身辺雑貨の類である。
これを文芸誌に掲載していたのだから、どういうツテがあったのか、大して話題にもならなかったのではなかろうか。
田舎の友の方は、学生時代に同窓だった男が、職に困り、都会住まいの秋江にアドバイスを求める長文の手紙を寄越してきて、その男の嫌な性格を思い出し、うんざりする話である。
この作の良いところはと言えば、当時は文学を馬鹿にされていた相手から、今でもブレずによくやっている、と言われたところを喜ぶ場面など。
しかし雑誌に載ったとはいえ、この内容では脚光も浴びまい。
学生時代に受けた嫌味たらしい言動を、ネチネチと回想するところが肝か。
結局最後は、手紙を貰ったは良いが、アドバイスも億劫なまま、放り投げて終わる、実生活、夫婦生活と同様の、グダグダな近松秋江なのであった。
同級の人も同様、古い友人が訪ねてきて、色々話をして帰るが、帰った瞬間、今聞いた客人の新住所を聞いたはずで、寄ってくれたまえ、と言われたのにも関わらず瞬時に忘却している適当さ。
生活無能力者としての側面が浮かび上がる。
ここまでギリギリの綱渡りで文筆生活をしてきた秋江だが、水面下では妻の心が離れるまさにその時であった。
次作の『雪の日』で、とうとう近松秋江の才能が開花する。
それは凡作を連発し、流行にも乗れず、貧困に喘ぎ、妻が出て行ってしまってから、手は打てたであろうに放置した結果、どピンチになって初めて、エンジンがかかる。そこまで人生が下降線を描かないと、傑作を生む下地にはならなかった、それでも読者としては、そんな危機的状況から冴えてくる近松秋江の作品に惹かれる喜び。
凡作はここで終わり、第一次の山場を次作から描いていく。
『雪の日』を次回は再読して、その良さを皆さんにお伝えしたい。