近松秋江、虚構の作話は今の所完全に見切り、身辺小説、私小説の道にシフトしたようである。
この話は、長屋の隣に住む高齢の母と、行き遅れた娘の話。
人は良さそうな娘、という話題で夫婦で会話をしていたのに、終盤、妻があることに気付く。
台所の調味料が減っていたり、何かが無くなっていたり。
そして妻は、遂に隣の娘が、引き戸一枚隔てた所に立ち、怪しげな挙動をしている事に気づく。
近松秋江は「確証も無いのに、放っておけ」と
余裕をぶっかましたことを言うのだが、読んでいるこちら側としては「オマエのせいで家計が苦しいのに、そんな余裕ないやろ!」と突っ込みたくなるのだ。
それにしても時代は明治。清純そうな隣の娘さんが、貧しさからか、盗みをやる。これは当時、ショッキングな内容に映ったのではないだろうか。
今の所、近松秋江夫婦、このような夫婦の会話も成立し、なんとか体裁を保ってはいる。
この作家が真に作家としてブーストするのは、ピンチを迎えてから、なのであった。