追悼 赤い眼鏡

チャリで前転したよ。

ここんところの季節感はチャリには寒かったから、
バイトの帰りは無意識に早こぎになっていたんだね。
だからやっぱり今日だってスピードは、出ていたんだ。
で、目の前に急に別チャリが現れた。
驚いたね、けどパニックになるほどじゃない
距離もそんなに切迫していた訳では無かったから
ただ、向こうは全くまっすぐ突っ込んできていて
此方が止まらなければぶつかる間合いではあったから

だから、ブレーキをかける事にしたんだ。

それは今思い返してみても冷静な判断だった、と思う。
でも、ひとつだけ、たったひとつだけ。
そのとき力の限り自信満載で握り締めたもの、

それは、

前輪ブレーキだったんだ。

地面が割とゆっくり迫ってきたから
相手のチャリを見送ってから
なんとなしに手を出して、ついた。
地面は運悪く滑り止めのついた
ぎざぎざした奴だった。
手のひらに摩擦を感じつつ
胴体や膝が落ちてきた、ここで初めて
重力の方向がわかった。具体的な位置関係も
だから次の瞬間自転車が、顎にピンポイントで
落下してきた事は、解っていた事だった。
避けられないのも、解っていた事、だったんだ。

すっげー派手な音がしたから
隣りの塀の向こうで犬が起きて吼えた
相手のチャリは振り向かなかった
後ろから来た人が
心配してくれて大丈夫ですかと聞くから
すっげーいてーですと連発したら
じゃ大丈夫ですねといって去っていった
そう言われればそんな気がした。

うちに帰って鏡を見ると
メガネの足が片方無かった。
違和感無く安定しているのが
逆に違和感だが良しとした。
それよりも両手から溢るる赤い奴を
どうにかしようと考えた。
だがうちにはバンソウコウは無かった。
仕方なくトイレットぺ－パーとガムテープで
包帯をつくった。
泣きたくなるほど、みっともない。

今はそのみっともない手でキーボードを叩いている。


今日の文章　いつもより痛い

今日の絵
いいトコ　リアル、絵的な意味でなく
悪いトコ　ブレーキング、きちんと両手でかける