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やまかブログ

小説・漫画・ゲームなどインドア系趣味感想ブログ。
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【小説】 土 (長塚 節/新潮文庫)

2010年11月22日 08時56分49秒 | 読書感想
読了。
明治時代の地方農民の生活とその環境を描写した農民小説。
夏目漱石が、自分の娘が年頃になって、音楽や演劇にうつつを抜かし始めたら読ませたい、といわしめた作品。
漱石自身の解説にもあるとおり、この小説、読んでいて胸踊るような面白さは無い。ただひたすらに、貧すれば鈍する農民一家と、厳しい自然環境の移り変わりとが活写される文章をじりじりと辿っていくのみである。しかし、あたかも、小説の舞台となる時代・風俗・環境へ、緩慢に引きずり込まれて行くかのような読書感覚こそが、この作品の醍醐味であると思う。

読み通したことで、世の中にこういう立場の人達もあるのだと、そして、それに類するような人達は、おそらく現在でも形を変えて存在しているじゃないかと考えた。
農民を監督する役割の「お内義さん」が、物語終盤にして未だ卑怯を止まない主人公へに対して、それでも厳しく追及することはない、その態度と物語の落着は甘い。だけど、それは作者自身が、実際に「お内義さん」のような立場であって、この小説を物したことを念頭に置くと、この結末は、作者・長塚節の救いというか、祈りのようなものではと感じる。
同時に、今自分を取り巻く環境の中で、この救いと祈りとを抱く人がどれほどいるのだろうかとも思い当たった。

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