TTの日々雑感

ニュース等の日々雑感をイラストや文章でつづっていきたいと思います。

黒川紀章死す

2007年10月25日 | Weblog
2007年10月12日、建築家黒川紀章氏が亡くなりました。73歳。多臓器不全との事ですからガンの末期だったのでしょうか。全く知らされてはいませんでしたが、氏は病魔に冒されていたんですね。本当にご冥福をお祈り申し上げます。

各方面で活躍していた黒川氏は大きな存在でしたので、突然の死に衝撃を受けました。海外でも数十件のプロジェクトが進行中との事です。まさに建築界の巨匠といえる存在だったのです。日本の建築界にぽっかりと大きな穴が開いたような状態です。今後の対応も大変な事でしょう。

黒川氏の素晴らしさは建築の作品の先端性ばかりでなく、著作などで示される論考の独自性にありました。行動建築論、カプセル住居、都市デザイン、共生の思想など建築と都市のユートピアを目指して、多くの建築界の若者たちを引っ張ってきました。現在日本に数人しかいない世界的建築家の中で最も活躍している人でした。

晩年の黒川氏の行動は謎でした。多くの設計を手がけ超多忙なはずなのに、都知事選や参院選に参加し、共生新党なる政党まで立ち上げました。相当な私財も投じたようです。「なぜ政治に?」どうも黒川氏は都市計画の実現に熱意を燃やしていたようなのです。

黒川氏は、タンザニア・韓国・マレーシア・カザフスタンと、4つの首都移転に参画したことを自負していました。都市計画の策定と実現に力を注いでいたのです。そうした仕事の中で、都市防災、都市インフラの重要性を認識し、これからの都市、東京を改めて造り直すことに本気で取り組みを始めたと思われます。「東京を造り直さなくては、日本が沈没する。」という危機感があったのでしょう。

都市防災という観点で東京を見たとき、その脆弱さに慄然とさせられます。穏やかな日常の中にいる時は全くわからないのですが、ひとたび災害に襲われれば、その惨状は想像を絶するものであることを認識すべきでしょう。大地震についてはその恐ろしさはある程度知られていますが、ほかにも恐ろしい災害の危険性があったのです。一例は水害です。

洪水で荒川の堤防が決壊した場合、足立区で水深2m~5m以上になり、銀座でも2m以上になる事がわかりました。最大で240万人の住居に浸水の被害が及ぶとのことです。(2007.10.23国の中央防災会議が公表)地下街、全地下鉄は当然水没し全滅です。都市インフラがこういう事になってしまっては都市機能は麻痺します。

これからの東京という大都市を考える際、災害から都市インフラをいかに守るかということを真剣に考えなければならないでしょう。地震や水害に強い都市にならなくてはいけません。日本の場合は特に自然災害の脅威にさらされているわけですから、重点的に都市そのものを改造していかなくてはならない事は明白なのに、満足な計画さえできていません。

都市を改造できるのは建築家である自分だという使命感、そして自分がやらなくては東京は良くならないという危機感が、行動を起こさせたのでしょう。それと自分の健康への不安と焦りが渦巻いていた。これらが黒川紀章氏の晩年の行動の謎を解くものだと私は思います。

黒川紀章、日本の宝だった偉大な建築家はもう今の日本から旅立ってしまったのです。