「そうそう、あの頃はそんなだっけな」
オレは熾きをかき混ぜる。トイ面に座った喪装の二人は、つくづくと、しみじみとうなずいた。そして声低く笑い合う。
「あのデビュー戦はひどかったな」
ふと、同じセリフを聞いたのを思い出した。入部からたちまちのうちに時は流れ、高校三年の初秋になっていた。自分たちの引退試合のゲーム後のことだ。グラウンドの脇でボロ雑巾のようにノビているオレたちに向かって、マネージャーのいろはが切り出したのだった。
汗まみれの額の上に、青インクを塗り込めたような空がひろがっていた。それを背に、黒髪をざっくりとショートヘアに切り落としたいろはが、濃い影を落としてくる。
「あのデビュー戦はひどかったよねえ」
最上級生になって、ガタイは厚い筋肉によろわれ、オレもいっぱしのラガーマンといった風貌にはなっていた。それでも、試合後の疲労っぷりはデビュー戦と同様だ。鎖骨にヒビか、最悪、ポッキリ折れているのがわかる。が、むしろ「全部出しきった感」が、倒れ込んだオレに起き上がる気力を与えなかった。隣に横たわる二人も同じだろう。
「なんだよ。もうこれで引退なんだぞ。こんなときに、あんな無様な試合の話を蒸し返すなよ」
無精ヒゲで貫禄をつけた権現森が、ぶっきらぼうに返す。いろはは肩をすくめて言う。
「だからさ、思い出してもみなよ。あのボロボロな試合からはじまったんだよ、このチームは。それを考えたら、今日のやつはもう、ほんとに、ほんっとーに・・・」
グーに握った手を胸の中で圧縮するようにふるわせて、いろはは言葉を選んだ。
「・・・なかなかのもんだったよう!」
寝転んだまま、さらに脱力したくなった。
「はーっ。なんだそりゃ・・・」
「もすこし言い様はないのか?」
「あほーが・・・」
オレ、権現森、そしてノリチカが交互にののしる。しかし、誰からともなく笑いが漏れる。
そのとき、ひと気の少なくなったスタンドからだみ声が降ってきた。
「おうい、三年のバカ四人衆!いつまでそこにいるんだ。はやく帰り支度しろ。学校に戻るぞっ」
顧問のノボちゃんが怒鳴っている。試合後のベンチで感動の涙をあふれさせていたくせに、その余韻も忘れてせっついてくる。いろはが応答した。
「せんせえー。あたしたち、みんなと別個に戻りますから、ほっといてくださあい」
学校から川いっこをまたいだこの市営グラウンドまでは、ウォーミングアップついでに、チーム全員で走ってきた。勝手知ったる道順だ。自分たちだけで帰れる。
「勝手にせえやーっ」
ノボちゃんは、他の部員たち(一、二年生)を声高らかに率い、スタンドを出ていった。その場に残された四人は、いよいよ動けなくなった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
オレは熾きをかき混ぜる。トイ面に座った喪装の二人は、つくづくと、しみじみとうなずいた。そして声低く笑い合う。
「あのデビュー戦はひどかったな」
ふと、同じセリフを聞いたのを思い出した。入部からたちまちのうちに時は流れ、高校三年の初秋になっていた。自分たちの引退試合のゲーム後のことだ。グラウンドの脇でボロ雑巾のようにノビているオレたちに向かって、マネージャーのいろはが切り出したのだった。
汗まみれの額の上に、青インクを塗り込めたような空がひろがっていた。それを背に、黒髪をざっくりとショートヘアに切り落としたいろはが、濃い影を落としてくる。
「あのデビュー戦はひどかったよねえ」
最上級生になって、ガタイは厚い筋肉によろわれ、オレもいっぱしのラガーマンといった風貌にはなっていた。それでも、試合後の疲労っぷりはデビュー戦と同様だ。鎖骨にヒビか、最悪、ポッキリ折れているのがわかる。が、むしろ「全部出しきった感」が、倒れ込んだオレに起き上がる気力を与えなかった。隣に横たわる二人も同じだろう。
「なんだよ。もうこれで引退なんだぞ。こんなときに、あんな無様な試合の話を蒸し返すなよ」
無精ヒゲで貫禄をつけた権現森が、ぶっきらぼうに返す。いろはは肩をすくめて言う。
「だからさ、思い出してもみなよ。あのボロボロな試合からはじまったんだよ、このチームは。それを考えたら、今日のやつはもう、ほんとに、ほんっとーに・・・」
グーに握った手を胸の中で圧縮するようにふるわせて、いろはは言葉を選んだ。
「・・・なかなかのもんだったよう!」
寝転んだまま、さらに脱力したくなった。
「はーっ。なんだそりゃ・・・」
「もすこし言い様はないのか?」
「あほーが・・・」
オレ、権現森、そしてノリチカが交互にののしる。しかし、誰からともなく笑いが漏れる。
そのとき、ひと気の少なくなったスタンドからだみ声が降ってきた。
「おうい、三年のバカ四人衆!いつまでそこにいるんだ。はやく帰り支度しろ。学校に戻るぞっ」
顧問のノボちゃんが怒鳴っている。試合後のベンチで感動の涙をあふれさせていたくせに、その余韻も忘れてせっついてくる。いろはが応答した。
「せんせえー。あたしたち、みんなと別個に戻りますから、ほっといてくださあい」
学校から川いっこをまたいだこの市営グラウンドまでは、ウォーミングアップついでに、チーム全員で走ってきた。勝手知ったる道順だ。自分たちだけで帰れる。
「勝手にせえやーっ」
ノボちゃんは、他の部員たち(一、二年生)を声高らかに率い、スタンドを出ていった。その場に残された四人は、いよいよ動けなくなった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます