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齋藤百鬼の俳句閑日

俳句に遊び遊ばれて

「句集 いとう句会」(五所亭―五所平之助)

2007年10月25日 | Weblog
◎・・トーキー時代からの映画監督、五所平之助も、この「いとう句会」の連衆のひとりだった。俳号は「五所亭」。五十句収録。一応、人名辞典から経歴を。
「1902~81(明治35~昭和56) 大正・昭和期の映画監督。東京生まれ。慶応義塾商工学校卒業。1923(大正12)松竹蒲田撮影所に入り、島津保次郎に師事した。31(昭和6)年、日本最初のトーキー映画「マダムと女房」、42「新雪」など新鮮な抒情のあふれる佳作をつくった。のち東宝に移り、戦後も「今ひとたびの」「大阪の宿」などをつくり、53「煙突の見える場所」はベルリン映画祭に入賞した。(『コンサイス日本人名事典』三省堂・2004)」
たしかに映画の一シーンを見るような句があって、さすが映像作家と思わせる。

 初髪を映ゆる夕日にいとほしむ

 草笛を吹きつつ隣り村に入る

 白き手が開ける余寒の障子かな

 花に灯る家なり家に娼婦たち

 髪を刈る鏡に御輿もまれをり

 朝の蚊帳両国橋の見えてゐる

 降る雪が別るるひとの瞳(め)にも降る

背後にそこはかとなく物語が見える句も・・・

 年下の亭主持ちけり玉子酒

 ひとり編む毛糸の玉の円さかな

 片想ひすでに三とせの春着かな

 たたずめば砂のほてりや夜の蝉

 菜の花に少年海を好みけり

そのほかには・・・

 春惜しむ人の流れに流さるる

 ゆく春の沖降りかくす雨に眠る

 実朝の詠みたる海の秋の雨

 柿は手に赤く冷たく一つかな

 妻となる妻となる夜の湖の月

最後の二句などは老錬の技巧を感じるのだが、どうだろう。
「降る雪が別るるひとの瞳(め)にも降る」
俳句の専門作家には破調の句と言われるのだろうが、個人的にはこの句が好きだ。(続く)

2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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いい句を詠みますねえ! (ゆらぎ)
2007-10-26 00:20:14
どうも俳句のプロの人の句よりも、こういう余技でやっている人の句のほうに惹かれます。主情がにじみ出ているからでしょうか。
たしか五所平之助は、原田康子の「挽歌」を映画化してひとですよね。いろんな人間物語をみているから、こんな句がつくれるような気がします。

”生きること一と筋がよし寒椿”、という句を思いだしました。
次々に楽しい句会の様子をご紹介いただき、有り難う
ございます。
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ゆらぎ様へ (百鬼)
2007-10-26 07:01:51
おはようございます。
早々と書き込みを有難うございます。
プロ作家は隙を見せてはいけないという意識があって、そこが面白くないのでは。隙の持っている余韻というか余情に、人間性が出るのではないでしょうか。
「生きること一と筋がよし寒椿」は彼の代表作ですね。次は絵描きさんの小糸源太郎でもいきましょうか。
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