
作品展が終わったその夜、見回りで一番奥の保育室まで行ってみると、照明がついていないのに、ぼんやりと薄明るい塊のような光がカーテンに映っている。サッシガラス越しにカーテンの隙間から部屋の中を覗くと、サッシの鍵はかかっているのに、一人の老人が絵の前に佇んでいた。風貌は西洋人のようだ。
老人は最初、とまどうような目線を壁の絵全体に泳がせていたが、そのうち一枚一枚の絵をひとつづつ凝視しはじめた。眼光はみるみる生気を帯び、紙の裏まで見通しているかのようだった。
ふとこちらの視線に気づきちらりと振り返ったが、何事もなかったかのようにまた壁の絵に視線を戻し、おもむろに、
「どれも俺のよりピカソっぽい…」
そう低く洩らすと下半身の方から上へ向かってすーっと姿を消していった。
日本語で呟くあたり嘘くさかったが、風貌はどこから見ても、パブロ・ピカソその人だった。