はじめまして、PCBの分析を担当しています佐藤です。今回は、当社で分析している項目の1つ、絶縁油中のPCBについて、「どのように分析してるの?」とのご質問をお客様から良く頂くので、このブログで紹介したいと思います。
まず「PCBって何?」という人もいると思いますので、簡単にPCBについて説明します。PCBは電気絶縁性や耐熱性、耐薬品性が高いため、多くの電気機器類の絶縁油中に使用されてきた物質です。しかし、その後に人体や環境に対する毒性が強いことが明らかになってきたため、現在はPCBの製造・輸入などが国内的、又国際的にも禁止されています。
また、使用を中止した電気機器類の絶縁油中にPCBが基準値を超えて含まれている場合は、PCB特別措置法により、2016年7月までに処分又は処分を委託することとされています。そのため、PCBが混入している可能性がある電気機器類について、絶縁油中のPCB分析を行う必要があります。それでは、これからPCBの分析方法について紹介します。
①サンプルの絶縁油について
これは、絶縁油の入ったビンです。2つのビンに入っている絶縁油の色が違いますが、絶縁油の種類や劣化具合によって色が違ってきます。(余談になりますが、PCBは性質上劣化しにくいため、濁っているものよりキレイな状態のものは高濃度にPCBを含んでいる可能性があります。)
この絶縁油の中にどれくらいPCBが含まれているかを分析するわけですが、この絶縁油をすぐに分析機器で測定することはできません。絶縁油の中には色々な物質が入っていて、分析機器でPCBを測定するときに測定の妨害をするため、それらの物質を取り除く作業(以下、前処理)が必要になります。
②前処理について
この装置は絶縁油を前処理するための装置です。この装置1台で1度に絶縁油6サンプルを同時に処理することが出来ます。
これは多層シリカゲルカラム(図左)とアルミナカラム(図右)です。この2つのカラムと先ほど紹介した装置を使って、絶縁油から測定を妨害する物質を取り除きます。
まずは、多層シリカゲルカラムにサンプルの絶縁油を添加します。写真の左がサンプル添加前、右の色が変っているのがサンプル添加後の多層シリカゲルカラムです。
サンプルを添加した多層シリカゲルカラムを写真の点線部分で、加熱します。加熱をすることで、絶縁油に含まれる測定を妨害する物質を取り除きやすくします。
※写真では分かり難いですが、点線で囲まれた内側にカラムがあります。
加熱が終わった多層シリカゲルカラムの下にアルミナカラムを取り付け、多層シリカゲルカラムの上からヘキサンを流します。ヘキサンを流すことでPCBの測定を妨害する物質はアルミナカラムの下へ流れていきますが、PCBはアルミナカラムに吸着されます。
アルミナカラムを乾燥させた後、アルミナカラムの下にバイアルを置き、上からトルエンを添加します。PCBはトルエンと一緒にバイアル中に移動します。
ここまででPCBの前処理は終了です。
③分析機器と解析について
こちらはPCBを分析する機器になります。名前はGC/ECDといいます。先程、前処理をしたバイアルは点線で囲ったところにあります。機械の中で、不活性の気体と一緒にバイアルの中のサンプルを流し、PCBを検出します。
これは、GC/ECDで測定した結果です。たくさんの出っ張り(ピーク)が見られると思います。このピーク1つ1つがそれぞれ組成の違うPCBです。PCBは炭素、塩素、水素から作られ、この組合せで様々なPCBが存在しています。(理論上、209種類ものPCBがあります!)
このピークを解析することで絶縁中のPCB濃度を算出しています。
分析のポイント
絶縁油中のPCB分析で気をつけていることの1つに、試料同士の汚染があります。ほぼ100%PCBのサンプルもあれば、PCBが微量に含まれたサンプルもあります。絶縁油中のPCBは基準が0.5 mg/kgと微量なので、高濃度のサンプルが機械等に付着してしまうと、他のサンプルの分析に影響を与えてしまい、容易に基準を超えてしまいます。PCBが高濃度で含まれている油の特徴として、色が透明・比重が重い・粘性が高いといった性質があります。そこで、試料同士の汚染を防ぐため、PCBが高濃度で含まれていることが予測されるサンプルには前処理装置を使わないスクリーニング検査というものを実施し、PCBが高濃度に含まれているかの判別をしています。さらに、PCBが含まれていない絶縁油を分析することで、機器等にPCBが付着していないことを確かめています。