ヨナグニウマと東崎
2012年の10月末に、初めての与那国島へ渡った。
往路の10月27日は全国的に大荒れの天候で、石垣発の小さな飛行機の機体は風に煽られ怖いぐらいにガタガタと揺れた。
その飛行機の機内から見えてきた与那国島は、今まで訪れた他のどの南西諸島とも違う形をしていた。島の周りは黒い断崖が囲み、台地状に盛り上がった土地には畑が多く、森は中央部の山並みのあたりにのみ見えた。東の端の辺りははどういうわけか綺麗に丸刈りになっている。
踏みしめた初上陸の与那国島は風が吹き荒れていて、とても私を歓迎してくれているような雰囲気ではない。しかし春秋の八重山といえば不安定な気候が代名詞になるくらいで、もはや私は慣れっこになっていた。そんなことよりこの悪天がどんな鳥を運んでくるのかと思うとむしろ心躍るのだった。
初日は嵐の中、島を概観する程度で大した結果も無く終了。こんな日は鳥もブッシュの中でじっと体力温存しているのだろう。
マミジロタヒバリ(Anthus richardi richardi) Richard's Pipit
昨日の嵐が嘘のように穏やかな10月28日の朝。
夜明けの東崎にはたくさんのマミジロタヒバリとツメナガセキレイが入っていて、体力回復のための餌取りに夢中だった。
与那国島には東西2つの岬があり、それぞれ日が昇る東崎(アガリザキ)、日の入る西崎(イリザキ)という名が付いている。
この東崎は実際に来てみるとやはり飛行機から見た時のように草が綺麗に短く刈り込まれていて、いかにもヤツガシラやセキレイ・タヒバリ類が好みそうな環境になっているのだが、その理由はすぐにわかった。テキサスゲートで区切られた東崎には与那国馬が放牧されていて、彼らが食むことでここの草丈は一様に短く保たれていたのだ。
その中でもトゲのあるツルアダンの群落は食べられずに残り、不思議な光景を作り出していた。
【Yonaguni Is. (与那国島) Okinawa, Japan/27-28th Oct. 2012】
シロハタフウチョウ(Semioptera wallacii) Standardwing
ここはインドネシア、ハルマヘラ島の田舎町。早朝4時に起床した私達は「鳥を見るためでなきゃこんなに早く起きやしないよね」とブツブツ言いながら顔を洗う。
宿を出て、ガタゴトとオフロードを進む車に揺られること数十分、集落から離れた農耕地の端まで来た。そしてここからは徒歩で森へと踏み込むのだ。
まだ真っ暗な、道無き道のジャングル。長めの長靴を履いてギリギリ渡れる深さの川を3本越え、尖った岩のごろつく沢を4,5本越え、疲れてやたら足の取られるぬかるみをいくつも通過し、棘のついた植物のオーバーハングをトゲまみれになりながらくぐり、巨大樹の倒木を乗り越え、木をつかんでやっと這い上がれるほど急斜面の丘を越え、15kgの装備をかついでそんな道を2時間ぶっ通しで歩いて森の奥地に辿り着く頃には、すっかり夜が明けていた。
夜明けに伴い、「ケェクァクァクァ!」とけたたましい声が時折高い樹冠から聞こえてくるようになった。
樹冠部が比較的見やすい背の低い木をよく観察していると、ついにその声の主が姿を現した。
体下面は美しいダークグリーンで、よく見ると胸から同色の飾羽が突出している。顔や上面は地味な褐色だけれど、とんでもなく伸長した白い肩羽が奇怪な、シロハタフウチョウだ。
こんなジャングルの奥地にあるレック(Rek)で雄は毎日ディスプレイの練習をするのだが、“踊り”が始まると、このシロハタフウチョウはさらにとんでもない姿になる。
けたたましく鳴きながら翼を半開きにして白く透ける風切を見せ、尖った胸部の飾羽は羽毛を逆立てながら真直ぐ斜めに突き出す。そして極めつけは4本の肩羽を四方に突き出したかと思うと、シュルシュルとムチのように動かしたのだ。
ここに別の雄が飛んでくるとお互いに張り合ってディスプレイはさらに盛り上がり、羽を広げて振り回して、それはそれは大変な騒ぎになった。
―インドネシアから帰りました!マレーシアとはほとんど種類のオーバーラップがない場所だったので初見の種も多く、刺激的な1週間でした。今回の旅で、東南アジアとパプアを足して2で割ったような独特の生物層の多島海地域 “ウォーレシア” の虜になってしまったようです。また徐々に鳥見の記録を綴っていきます。
【Halmahera Is., Indonesia(ハルマヘラ,インドネシア)/16th Aug. 2013】
a. ミケリス(Callosciurus prevostii) Tupai Gading
b. クロサイチョウ(Anthracoceros malayanus) Black Hornbill ; Male variant
c. マブヤトカゲの1種(Mabuya sp.) Mabuya Skink
d. アカエリキヌバネドリ(Harpactes kasumba impavidus) Red-naped Trogon
e. キンバト(Chalcophaps indica indica) Emerald Dove ; Juvenile
f. オオコノハドリ(Chloropsis sonnerati zosterops) Greater Green Leafbird
g. カンムリアマツバメ(Hemiprocne longipennis harterti) Grey-rumped Treeswift
h. クロバンケンモドキ(Phaenicophaeus diardi borneensis) Black-bellied Malkoha
i. カザリオウチュウ(Dicrurus paradiseus brachyphorus) Greater Racket-tailed Drongo
j. ヒメカレハゲラ(Meiglyptes tristis grammithorax) Buff-rumped Woodpecker
k. コシアカキヌバネドリ(Harpactes duvaucelii) Scarlet-rumped Trogon ; male imm.
l. ズグロサイチョウ(Aceros corrugatus) Wrinkled Hornbill
m. ミドリコノハドリ(Aegithina viridissima viridissima) Green Iora
n. ボルネオクモカリドリ(Arachnothera affinis everetti) Streaky-breasted Spiderhunter
o. コゲチャキンパラ(Lonchura fuscans) Dusky Munia
p. ガマヒロハシ(Corydon sumatranus brunnescens) Dusky Broadbill
q. ブタゲモズ(Pityriasis gymnocephala) Bornean Bristlehead
r. ボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus) Bornean Orang-utan
s. ナンヨウショウビン(Halcyon chloris laubmannianus) Collared Kingfisher
t. マダラナキサンショウクイ(Lalage nigra nigra) Pied Triller
u. キンパラ(Lonchura atricapilla jagori) Chestnut Munia
v. アオハウチワドリ(Prinia flaviventris latrunculus) Yellow-bellied Prinia
w. メグロヒヨドリ(Pycnonotus goiavier gourdini) Yellow-vented Bulbul
x. キバラタイヨウチョウ(Cinnyris jugularis ornatus) Olive-backed Sunbird
y. オニセッカ(Megalurus palustris forbesi) Striated Grassbird
z. コタキナバル空港 Kota Kinabalu Airport
Tanjung Aru Beach
最後の最後、コタキナバル空港にて。
帰りの飛行機への搭乗開始まであと30分。しかし、大人しく搭乗口へ向かう私ではなかった。
搭乗機へのチェックインを済ませ重い荷物を預けて身軽になった私は、カメラを持って空港を駆け足で飛び出した。
実はコタキナバル空港のすぐ前にはホテイアオイがぎっしり浮かぶちょとした水路があり、鳥が生息する環境になっているのだ。
そうはいってももう10:30。鳥があまり出にくい時間帯に差し掛かっている。
そこでピッシングをしながら早歩きで水路沿いを歩くと、ブッシュに潜行していた鳥達が様子を伺いに見える場所まで出てきた。
メグロヒヨドリ、キンパラ、アオハウチワドリ、キバラタイヨウチョウ、ヨシゴイ、ムラサキサギ、シロハラクイナ。そして磨耗しているのか眉斑がほとんど見えず、印象がガラッと違うおそらくオニセッカも飛び出してきた。
ボルネオは、私の中では一番訪れやすい海外のフィールドであり、今回の旅でこの地がより一層大好きになった。次はWhitehead'sやBandedが名前に付く鳥を見に、また近々訪れたい。
【Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/29th Dec. 2012 - 4th Jan. 2013】
キタカササギサイチョウ(Anthracoceros albirostris convexus) Oriental Pied Hornbill
雨上がりのタンジュン・アル・ビーチ公園は鳥の声で満ちていた。雨が上がって間もないからか、公園には私と鳥達しかいない。
騒がしいミドリカラスモドキの次に見つけたのは、何とキタカササギサイチョウのペア。
ダナンに行く前にこのビーチに寄った時、タクシーの運ちゃんが「ここだけの話なんだけどな、実はこの公園にはたまにサイチョウが来ることがあるんだ」と話してくれた。キタカササギサイチョウはボルネオに生息するサイチョウの中では唯一薄い森も採餌場に利用するタイプの鳥で、ランカウイでの経験も考慮すれば、ここタンジュン・アル・ビーチなら時間帯さえ気をつければ上手くいけば見られるかもしれないと踏んでいたのだが、まさに予想が的中した。
ミカドバト(Ducula aenea polia) Green Imperial-pigeon
高い枝にとまっていたミカドバトが、低いヤシの葉まで降りてきた。ガタイの大きなハトで近くで見るとさらに見応え十分だ。
ぐっしょり雨に濡れたカノコバトは、はじめ頸の鹿の子斑が隠れて見えず他のハトを疑ってしまったが、羽づくろいをしていくうちに段々カノコバトらしさを取り戻した。
シロハラクイナ(Amaurornis phoenicurus phoenicurus) White-Breasted Waterhen
今日も鳴きながら飛び交うコオオハナインコモドキたちを見上げていると、空をバックにした高い枝に何やら小鳥がとまっているのが見えた。よく観察すると、マダラナキサンショウクイだった。キタカササギサイチョウもしかり、朝には前回来た夕方には見られなかったメンバーが見つかり面白い。
シキチョウ(Copsychus saularis adamsi) Oriental Magpie-robin
ミドリカラスモドキに紛れて地面に降りて採餌するシキチョウやハッカチョウを見ていたら、もう9時になってしまった。たったの1時間だけだったけれど、充実した朝の鳥見が出来た朝のタンジュン・アル・ビーチ公園を、私は後にした。
【Kota Kinabaru, Borneo, Malaysia(ボルネオ,マレーシア)/4th Jan, 2013】