ウォルト・ディズニーの長編アニメ第1作はグリム童話を原作にした『白雪姫』(Snow White And The Seven Dwarfs‐1937)であったが、この作品からは“SOMEDAY MY PRINCE WILL COME”(いつか王子様が)という名曲が生まれている。
ディズニーは当初から、音楽を大変重要視していたのだ。
そして、21世紀の現在においてもディズニーの製作する映画が一貫して上質なスコアを提供し続けているのは称賛に値することである。
『白雪姫』に続く第2作としてディズニーが選んだのは、カルロ・コッローディの原作による冒険譚『ピノキオ』(Pinocchio‐1940)であった。
だが、前作とは違って、物語に華がない、夢のある話になりにくいなどの理由から、キャラクター設定やストーリーの展開について、相当苦労したと言われている。
原作では、ピノキオは悪戯好きな腕白だとされているが、これを無邪気な性格に仕立て直したうえ、やはり原作ではピノキオにすぐに殺されてしまうコオロギに、ピノキオの良心、導師としての役割を与え、ストーリー展開の舞台回しを担わせるというのは、ディズニーの苦心のアイデアだった。
そのコオロギというのが、ジミニー・クロケットである。
(ピノキオとジミニー・クロケット)
劇中、ジミニーが歌うのが、おそらくディズニーの歌曲の中で最もよく知られている名曲“WHEN YOU WISH UPON A STAR”(星に願いを)であった。
ジミ二ーの声と歌を担当したのは、クリフ・エドワーズで、温もりのあるドリーミーな世界を提供し、観客を魅了した(こちら)。
エドワーズはウクレレ・アイクの別名でも知られる芸人気質のエンターテイナーで、ジミニーの人情味にあふれたキャラクター設定も彼の個性に負うところが大きかったようだ。
なお、『ピノキオ』が日本で公開されたのは1952(昭和27年)のことで、ジミニーの日本語吹き替えを担当したのは坊屋三郎だったそうだが、蚤助としては何だかそれも聴いてみたい。
作曲したリー・ハーラインは、ロサンゼルスで活躍したピアニスト兼シンガーで、後に映画音楽の作編曲者に転向した人、作詞は“MY FOOLISH HEART”、“STELLA BY STARLIGHT”(星影のステラ)、“HIGH NOON”(真昼の決闘)などで知られるネッド・ワシントンで、この曲によってディズニーが初めてアカデミー歌曲賞を授与された。
いかにも子供の夢を大切にするディズニーらしい曲である。
映画公開の直後にレイ・エヴァリーのヴォーカルをフィーチャーしたグレン・ミラー楽団が吹き込んだり、オリジナルのクリフ・エドワーズも録音し、どちらもヒットしている。
暖かいローズマリー・クルーニーの歌声をはじめ無数のヴァージョンが残されていてとても紹介しきれるものではないが、ここで蚤助が現代版の筆頭に挙げたいものがある。
(Linda Ronstadt/For Sentimental Reasons)
西海岸のロックの歌姫リンダ・ロンシュタットが、名アレンジャーのネルソン・リドル編曲・指揮のオーケストラのもと、スタンダード・ナンバーに挑んだ名盤三部作のうち最後にあたる“FOR SENTIMENTAL REASONS”(1986)のアルバム冒頭に収録されているヴァージョンである。
キャピキャピのお転婆娘だとばかり思っていた彼女が、実に細やかな情感を表現しているのに驚いたものである。
原曲をほぼ崩さずストレートに歌う彼女のヴォーカルには素直に好感が持てる。
感動ものである(こちら)。
また、ディズニーの歌曲の中では“SOMEDAY MY PRINCE WILL COME”とともにジャズの世界でも取り上げられることの多い人気曲であるが、特にピアノに優れた演奏が多いので、ピアノを中心に紹介すると…
(Kenny Drew/Kenny Drew Trio)
晩年円熟した演奏を聴かせ日本でも大変人気が高かったケニー・ドリューの若き頃の名作“THE KENNY DREW TRIO”(1956)で、ポール・チェンバース(B)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(DS)を伴って吹き込んだものが名高い(こちら)。
もっとも、ディズニーの楽曲はこのアルバム中これ一曲であった。
ジャズの世界に“WHEN YOU WISH UPON A STAR”を定番曲にするのに大きな功績があったのは、おそらくデイヴ・ブルーベックの“DAVE DIGS DISNEY”(1957)であろう。
(The Dave Brubeck Quartet/Dave Digs Disney)
全編ディズニーの楽曲をジャズ化するという初のコンセプト・アルバムであった。
かの“TAKE FIVE”を録音する2年ほど前の演奏だが、ブルーベック四重奏団の傑作のひとつであろう(こちら)。
ポール・デスモンド(AS)、ノーマン・ベイツ(B)、ジョー・モレロ(DS)にブルーベックのピアノ。
蛇足だが、ベースのノーマン・ベイツというは、かのヒッチコックの傑作スリラー『サイコ』でアンソニー・パーキンスが演じた役と同名である(笑)。
(Bill Evans/Interplay)
また、興味深いのはビル・エヴァンスの“INTERPLAY”(1962)である。
エヴァンスはピアノ・トリオかピアノ・ソロのイメージが強いピアニストだが、ここではフレディ・ハバード(TP)、ジム・ホール(G)、パーシー・ヒース(B)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(DS)らが加わったクインテットで、珍しくもトータルなサウンドを聴かせる(こちら)。
エヴァンスの異色作といえようが、ジム・ホールもつい先日亡くなり、このメンバー全員が鬼籍に入ってしまった。
寂しい限りである。
“WHEN YOU WISH UPON A STAR”は「心を込めて星に願いをすれば願いはきっと叶う」と歌われるが、来年の干支は「午」。
商売繁盛、健康、良縁、合格といった人それぞれの願いは、「星」にではなく「絵馬」にすればよいのだろうか…
さて、今年も駄文を綴ってきた「けやぐの広場」のご愛読を感謝します。
来年もよろしくお願いいたします。
それでは、皆さま、良いお正月をお迎えください。
ディズニーは当初から、音楽を大変重要視していたのだ。
そして、21世紀の現在においてもディズニーの製作する映画が一貫して上質なスコアを提供し続けているのは称賛に値することである。
『白雪姫』に続く第2作としてディズニーが選んだのは、カルロ・コッローディの原作による冒険譚『ピノキオ』(Pinocchio‐1940)であった。
だが、前作とは違って、物語に華がない、夢のある話になりにくいなどの理由から、キャラクター設定やストーリーの展開について、相当苦労したと言われている。
原作では、ピノキオは悪戯好きな腕白だとされているが、これを無邪気な性格に仕立て直したうえ、やはり原作ではピノキオにすぐに殺されてしまうコオロギに、ピノキオの良心、導師としての役割を与え、ストーリー展開の舞台回しを担わせるというのは、ディズニーの苦心のアイデアだった。
そのコオロギというのが、ジミニー・クロケットである。
(ピノキオとジミニー・クロケット)
劇中、ジミニーが歌うのが、おそらくディズニーの歌曲の中で最もよく知られている名曲“WHEN YOU WISH UPON A STAR”(星に願いを)であった。
ジミ二ーの声と歌を担当したのは、クリフ・エドワーズで、温もりのあるドリーミーな世界を提供し、観客を魅了した(こちら)。
エドワーズはウクレレ・アイクの別名でも知られる芸人気質のエンターテイナーで、ジミニーの人情味にあふれたキャラクター設定も彼の個性に負うところが大きかったようだ。
なお、『ピノキオ』が日本で公開されたのは1952(昭和27年)のことで、ジミニーの日本語吹き替えを担当したのは坊屋三郎だったそうだが、蚤助としては何だかそれも聴いてみたい。
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作曲したリー・ハーラインは、ロサンゼルスで活躍したピアニスト兼シンガーで、後に映画音楽の作編曲者に転向した人、作詞は“MY FOOLISH HEART”、“STELLA BY STARLIGHT”(星影のステラ)、“HIGH NOON”(真昼の決闘)などで知られるネッド・ワシントンで、この曲によってディズニーが初めてアカデミー歌曲賞を授与された。
When you wish upon a star
Make no difference who you are
Anything your heart desires
Will come to you…
星に願いをかけるとき
誰であれ 心を込めて望むなら
どんな願いも叶うだろう
心の底から願うなら
夢みる人がするように
叶わぬ夢などないだろう…
Make no difference who you are
Anything your heart desires
Will come to you…
星に願いをかけるとき
誰であれ 心を込めて望むなら
どんな願いも叶うだろう
心の底から願うなら
夢みる人がするように
叶わぬ夢などないだろう…
いかにも子供の夢を大切にするディズニーらしい曲である。
映画公開の直後にレイ・エヴァリーのヴォーカルをフィーチャーしたグレン・ミラー楽団が吹き込んだり、オリジナルのクリフ・エドワーズも録音し、どちらもヒットしている。
♪ ♪
暖かいローズマリー・クルーニーの歌声をはじめ無数のヴァージョンが残されていてとても紹介しきれるものではないが、ここで蚤助が現代版の筆頭に挙げたいものがある。
(Linda Ronstadt/For Sentimental Reasons)
西海岸のロックの歌姫リンダ・ロンシュタットが、名アレンジャーのネルソン・リドル編曲・指揮のオーケストラのもと、スタンダード・ナンバーに挑んだ名盤三部作のうち最後にあたる“FOR SENTIMENTAL REASONS”(1986)のアルバム冒頭に収録されているヴァージョンである。
キャピキャピのお転婆娘だとばかり思っていた彼女が、実に細やかな情感を表現しているのに驚いたものである。
原曲をほぼ崩さずストレートに歌う彼女のヴォーカルには素直に好感が持てる。
感動ものである(こちら)。
また、ディズニーの歌曲の中では“SOMEDAY MY PRINCE WILL COME”とともにジャズの世界でも取り上げられることの多い人気曲であるが、特にピアノに優れた演奏が多いので、ピアノを中心に紹介すると…
(Kenny Drew/Kenny Drew Trio)
晩年円熟した演奏を聴かせ日本でも大変人気が高かったケニー・ドリューの若き頃の名作“THE KENNY DREW TRIO”(1956)で、ポール・チェンバース(B)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(DS)を伴って吹き込んだものが名高い(こちら)。
もっとも、ディズニーの楽曲はこのアルバム中これ一曲であった。
ジャズの世界に“WHEN YOU WISH UPON A STAR”を定番曲にするのに大きな功績があったのは、おそらくデイヴ・ブルーベックの“DAVE DIGS DISNEY”(1957)であろう。
(The Dave Brubeck Quartet/Dave Digs Disney)
全編ディズニーの楽曲をジャズ化するという初のコンセプト・アルバムであった。
かの“TAKE FIVE”を録音する2年ほど前の演奏だが、ブルーベック四重奏団の傑作のひとつであろう(こちら)。
ポール・デスモンド(AS)、ノーマン・ベイツ(B)、ジョー・モレロ(DS)にブルーベックのピアノ。
蛇足だが、ベースのノーマン・ベイツというは、かのヒッチコックの傑作スリラー『サイコ』でアンソニー・パーキンスが演じた役と同名である(笑)。
(Bill Evans/Interplay)
また、興味深いのはビル・エヴァンスの“INTERPLAY”(1962)である。
エヴァンスはピアノ・トリオかピアノ・ソロのイメージが強いピアニストだが、ここではフレディ・ハバード(TP)、ジム・ホール(G)、パーシー・ヒース(B)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(DS)らが加わったクインテットで、珍しくもトータルなサウンドを聴かせる(こちら)。
エヴァンスの異色作といえようが、ジム・ホールもつい先日亡くなり、このメンバー全員が鬼籍に入ってしまった。
寂しい限りである。
♪ ♪ ♪
“WHEN YOU WISH UPON A STAR”は「心を込めて星に願いをすれば願いはきっと叶う」と歌われるが、来年の干支は「午」。
商売繁盛、健康、良縁、合格といった人それぞれの願いは、「星」にではなく「絵馬」にすればよいのだろうか…
合格の折願とある祈願絵馬(蚤助)
さて、今年も駄文を綴ってきた「けやぐの広場」のご愛読を感謝します。
来年もよろしくお願いいたします。
それでは、皆さま、良いお正月をお迎えください。