#219: WILD BUNCH

2010-02-13 | Weblog
 ジョン・ウェインは、西部劇でたくさんの悪人や先住民を撃ち殺し、戦争映画では大勢の敵兵を倒した。その彼が、サム・ペキンパーの「ワイルド・バンチ」(Wild Bunch-1969)という映画が大嫌いだと公言した。西部劇の神話をぶち壊したからというのがその理由だが、何よりあまりに流血のシーンが多すぎて不快だというのである。よく出来たジョークのようだが、本当のハナシである。

 事実、ウェインの銃によって、スクリーン上で流された血を全部合わせても、「ワイルド・バンチ」で飛び散った血の量にはかなうまい。この作品は、当時世界を席巻していたイタリア製西部劇、いわゆる「マカロニ・ウエスタン」に対する「ハリウッドからの逆襲」などと言われたものだった。蚤助としては、ウェインの気持ちは理解でき、その発言にも基本的に賛同したい。本筋とは関係のない女性のヌードシーンなど挿入されているのも大いに疑問である。けれども、ペキンパーを全否定することもできない。西部劇の黄昏を描いて重量感があり、スローモーションを多用した残酷描写の中に、ペキンパーの滅びゆく男の美学を感じることができるからだ。

 タイトルの「ワイルド・バンチ」というのは文字通り「野生の群れ(一団)」で「強盗団」のことである。アメリカン・ニューシネマの名作のひとつ「明日に向って撃て!」は1969年の製作でいみじくも「ワイルド・バンチ」と同年の映画であったが、その主人公であったブッチ・キャシディとサンダンス・キッドがワイオミング州で結成した強盗団の名前である。それ以前には19世紀末にドゥーリン・ダルトン強盗団の名前だったようだ。いずれにしても、プロデューサーと衝突してばかりで何年かハリウッドを干されていたペキンパーが満を持して発表した作品である。時代の波に取り残された無法者たちが滅びて行く姿を描いて世評名高い。それまでの西部劇に別れを告げる「最後の西部劇」である。

 1913年、国境の町をパイク(ウィリアム・ホールデン)率いる強盗団(ワイルド・バンチ)が軍隊を装って襲撃する。牢獄からの解放を条件に雇われたかつての仲間ソーントン(ロバート・ライアン)が指揮する賞金稼ぎの待ち伏せにより、強盗は失敗して、パイクたちはメキシコに逃走する。生き残った面々は、パイクのほかにダッチ(アーネスト・ボーグナイン)、ゴーチ兄弟(ベン・ジョンソンとウォーレン・オーツ)、エンジェル(ジェイミー・サンチェス)だけ。エンジェルの故郷の村にたどり着いたパイクたちは、村がメキシコ軍のマパッチ将軍(エミリオ・フェルナンデス)に迫害されていることを知る。ソーントンらの執拗な追跡を受けて、逃亡先が狭まったパイクたちはマパッチ将軍のところに逃げ込まざるをえない。マパッチから1万ドルの報酬でアメリカの軍用列車から武器を強奪するよう依頼され成功するが、マパッチの裏切りを予測していたパイクは武器を小分けにして引き渡すことで身の安全を図る。ところが、エンジェルが武器の一部を反政府ゲリラに引き渡したことがマパッチの知ることになり、エンジェルが捕られてリンチされる。仲間を見捨てられないパイクたちは、たった4人で数百人のマパッチ軍の宿営地に乗り込んでいく…

 ペキンパーは、最後の壮絶な銃撃戦のシーンを6台のマルチカメラで、11日間かけて撮影したそうだが、「死のバレエ」とか「弾道バレエ」などと呼ばれ、アクション映画に新境地を開いた。暴力描写のみ強調されるペキンパーだが、本作には男の寂寥感が描かれている。ウィリアム・ホールデンがしみじみと「拳銃の時代は終わった」と言う。銃撃戦に明け暮れてきた彼らは時代の変化を感じながらも、自らは変わることができないことを知っているのだ。しかも老いが忍びよってくる。ホールデンが落馬するシーンもある。どうやら、ペキンパーの美学はクリント・イーストウッドやタランティーノの作品に継承されているのかもしれない。

 メキシコの村で、村の長老がホールデンにつぶやく…「誰でも子どもに戻った夢を見る。悪人ならばなおさらだ」

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「悪い人もいてこの世は面白い」


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1 コメント

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エミリオ・フェルナンデス (管理人)
2010-02-13 15:41:10
本作の出演者の顔触れは素晴らしいが、本文で紹介したほかにエドモンド・オブライエンとかアルバート・デッカーとかの顔も見せて面白い。

マパッチ将軍を演じたエミリオ・フェルナンデスは、駐屯地内で三脚に固定しないまま機関銃を撃ちまくるなど、残忍だがこっけいさも併せ持つ個性的な将軍を演じている。メキシコの有名な映画監督だそうだ。ペキンパーの「ガルシアの首」にも俳優として出ている。
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