ガーシュウィン兄弟の傑作の一つに“HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON”という曲がある。
彼らの数多い名曲の中でも、最高傑作と評する人もいるほど素晴らしい歌曲で、“いつの頃からか”という邦題がつけられている。
もともとは前稿でもふれたアステア姉弟のミュージカル“FUNNY FACE”(1927)の挿入歌として書かれたものだが、上演の間際に“HE LOVES AND SHE LOVES”という別の曲に差し替えられ、お蔵入りになってしまった曲であった。
翌年(1928)の“ROSALIE”という作品の主題歌として陽の目を見るのだが、ガーシュウィン兄弟にとっては本来“FUNNY FACE”で使いたかった曲である。
“FUNNY FACE”がパラマウントによって、ヘプバーンとアステアの主演で『パリの恋人』(1957)として映画化されたとき、劇中でヘプバーン自らこの曲を歌うことになった。
ガーシュウィン兄弟の念願は、いわば30年後にヘプバーンの歌によって実現されたというわけである。
ちなみに、舞台版で差し替えられた“HE LOVES AND SHE LOVES”の方もこの『パリの恋人』には使われている。
書店の店員であるジョー(オードリー・ヘプバーン)がカメラマンのディック(フレッド・アステア)に軽くキスされて、ぽーとなって夢見心地で歌いだす(こちら)。
ヘプバーンは歌手ではないからやはり上手だとは言えないが、可愛らしく健気に歌っていてなかなか良かった。
ある日突然、自分が恋をしていることに気づいた娘が、「いつからこんなことになったの」と恋の不思議を歌ったものだ。
“いつの頃から続いて来たのか”(How Long Has This Been Going On)というフレーズをキーワードにして、「新大陸を発見した時のコロンブスの気持ちが分かる」などという面白い表現が出てきたりする。
アイラ・ガーシュウィンの歌詞は韻を踏んだ見事な仕上がりで、数多い傑作の中でもアイラ自身お気に入りのナンバーの一つだった。
というわけで、曲も歌詞も非常によく出来ている美しいバラードなのだが、やや地味で渋い、いわゆる玄人好みの作りで、ビッグ・ヒット盤は生まれなかった。
しかし、男性、女性の別なくジャズ歌手に好まれている歌曲であり名唱も数多い。
例えば、俗に三大女性ジャズ・シンガーと称されるエラ、サラ、カーメンは、いずれも一、二を争う歌唱を残している。
(Ella Fitzgerald/Like Someone In Love‐1950)
今回はあえて訳さなかったが、この曲には美しいヴァースがついている。
エラは一度ならずこの歌を録音しているが、ヴァースを歌う場合と歌わない場合がある。
ここではヴァースを省略していて、エリス・ラーキンスのピアノ伴奏だけで歌うが、実に暖かい歌声だ(こちら)。
なおこの動画に1954年という表示があるが、1950年9月録音の誤りだと思われる。
(Sarah Vaughan/How Long Has This Been Going On?‐1978)
ここでのサラは意表を突いたアップテンポでスウィンギーに歌い上げている。
オスカー・ピーターソンのビッグ4がさすがのサポートを見せていて、素晴らしい仕上がりだ。
動画を見つけられなかったので、残念ながら省略。
(Carmen McRae/Book Of Ballads‐1960)
エラとは違って、カーメン・マクレエはいつもヴァースから歌う。
ここでの彼女は非常に陰影に富む語り口で丁寧に歌っていて忘れがたい。
やはり動画を見つけられなかったのが残念。
(Louis Armstrong Meets Oscar Peterson‐1957)
そして、忘れてならないサッチモである。
ルイ・アームストロングがオスカー・ピーターソンと共演した不朽のアルバムで、その中でも最高のトラックがこの曲である。
サッチモの表現は深く、温かく、胸に沁み渡る。
むせび泣くように声を絞り上げるサッチモのヴォーカルにピーターソンの抑えたバッキングもいい。
なお、このヴァージョンは録音の年代こそ異なるが、偶然にもサラの音盤(おサラ)の伴奏メンバーのうち、ギターがジョー・パスからハーブ・エリスになっているだけなのだが、全く異なった世界を繰り広げている(こちら)。
このサッチモもヴァースから歌っているが、「ヴェルヴェットのパンティー」だとか「ダンテの“地獄編”よりも凄い地獄」などという言葉が出てくるのでビックリしてしまう(笑)。
どうやらカーメン・マクレエあたりの真面目で上品なヴァース(笑)とは違う歌詞のようだが、それがいかにもサッチモらしくてとても可笑しい。
こんな聴き比べができるのもジャズの醍醐味ではないだろうか。
“HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON”は直訳だと「これはどれだけ長いこと続いて来たのか」という意味になるだろうが、こんなシチュエーションに直面したら使えそうなセリフである。
ぜひ使ってみよう…
彼らの数多い名曲の中でも、最高傑作と評する人もいるほど素晴らしい歌曲で、“いつの頃からか”という邦題がつけられている。
もともとは前稿でもふれたアステア姉弟のミュージカル“FUNNY FACE”(1927)の挿入歌として書かれたものだが、上演の間際に“HE LOVES AND SHE LOVES”という別の曲に差し替えられ、お蔵入りになってしまった曲であった。
翌年(1928)の“ROSALIE”という作品の主題歌として陽の目を見るのだが、ガーシュウィン兄弟にとっては本来“FUNNY FACE”で使いたかった曲である。
“FUNNY FACE”がパラマウントによって、ヘプバーンとアステアの主演で『パリの恋人』(1957)として映画化されたとき、劇中でヘプバーン自らこの曲を歌うことになった。
ガーシュウィン兄弟の念願は、いわば30年後にヘプバーンの歌によって実現されたというわけである。
ちなみに、舞台版で差し替えられた“HE LOVES AND SHE LOVES”の方もこの『パリの恋人』には使われている。
書店の店員であるジョー(オードリー・ヘプバーン)がカメラマンのディック(フレッド・アステア)に軽くキスされて、ぽーとなって夢見心地で歌いだす(こちら)。
ヘプバーンは歌手ではないからやはり上手だとは言えないが、可愛らしく健気に歌っていてなかなか良かった。
I could cry salty tears
Where have I been all these years?
Listen you, tell me do. How long has this been going on?
しょっぱい涙を流すことだってできた
今までどこにいたのか分からなかったから
教えて いつの頃からこんな風になったのか
この背筋に走るスリル 心のときめき
言葉に出来ない お願い 聞いて まるで天国に昇るよう
コロンブスが新世界を発見したとき こんな気持ちだったのかしら
お願い もう一度キスして…
Where have I been all these years?
Listen you, tell me do. How long has this been going on?
しょっぱい涙を流すことだってできた
今までどこにいたのか分からなかったから
教えて いつの頃からこんな風になったのか
この背筋に走るスリル 心のときめき
言葉に出来ない お願い 聞いて まるで天国に昇るよう
コロンブスが新世界を発見したとき こんな気持ちだったのかしら
お願い もう一度キスして…
ある日突然、自分が恋をしていることに気づいた娘が、「いつからこんなことになったの」と恋の不思議を歌ったものだ。
“いつの頃から続いて来たのか”(How Long Has This Been Going On)というフレーズをキーワードにして、「新大陸を発見した時のコロンブスの気持ちが分かる」などという面白い表現が出てきたりする。
アイラ・ガーシュウィンの歌詞は韻を踏んだ見事な仕上がりで、数多い傑作の中でもアイラ自身お気に入りのナンバーの一つだった。
♪
というわけで、曲も歌詞も非常によく出来ている美しいバラードなのだが、やや地味で渋い、いわゆる玄人好みの作りで、ビッグ・ヒット盤は生まれなかった。
しかし、男性、女性の別なくジャズ歌手に好まれている歌曲であり名唱も数多い。
例えば、俗に三大女性ジャズ・シンガーと称されるエラ、サラ、カーメンは、いずれも一、二を争う歌唱を残している。
(Ella Fitzgerald/Like Someone In Love‐1950)
今回はあえて訳さなかったが、この曲には美しいヴァースがついている。
エラは一度ならずこの歌を録音しているが、ヴァースを歌う場合と歌わない場合がある。
ここではヴァースを省略していて、エリス・ラーキンスのピアノ伴奏だけで歌うが、実に暖かい歌声だ(こちら)。
なおこの動画に1954年という表示があるが、1950年9月録音の誤りだと思われる。
(Sarah Vaughan/How Long Has This Been Going On?‐1978)
ここでのサラは意表を突いたアップテンポでスウィンギーに歌い上げている。
オスカー・ピーターソンのビッグ4がさすがのサポートを見せていて、素晴らしい仕上がりだ。
動画を見つけられなかったので、残念ながら省略。
(Carmen McRae/Book Of Ballads‐1960)
エラとは違って、カーメン・マクレエはいつもヴァースから歌う。
ここでの彼女は非常に陰影に富む語り口で丁寧に歌っていて忘れがたい。
やはり動画を見つけられなかったのが残念。
(Louis Armstrong Meets Oscar Peterson‐1957)
そして、忘れてならないサッチモである。
ルイ・アームストロングがオスカー・ピーターソンと共演した不朽のアルバムで、その中でも最高のトラックがこの曲である。
サッチモの表現は深く、温かく、胸に沁み渡る。
むせび泣くように声を絞り上げるサッチモのヴォーカルにピーターソンの抑えたバッキングもいい。
なお、このヴァージョンは録音の年代こそ異なるが、偶然にもサラの音盤(おサラ)の伴奏メンバーのうち、ギターがジョー・パスからハーブ・エリスになっているだけなのだが、全く異なった世界を繰り広げている(こちら)。
このサッチモもヴァースから歌っているが、「ヴェルヴェットのパンティー」だとか「ダンテの“地獄編”よりも凄い地獄」などという言葉が出てくるのでビックリしてしまう(笑)。
どうやらカーメン・マクレエあたりの真面目で上品なヴァース(笑)とは違う歌詞のようだが、それがいかにもサッチモらしくてとても可笑しい。
こんな聴き比べができるのもジャズの醍醐味ではないだろうか。
♪ ♪
“HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON”は直訳だと「これはどれだけ長いこと続いて来たのか」という意味になるだろうが、こんなシチュエーションに直面したら使えそうなセリフである。
ぜひ使ってみよう…
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乾杯の音頭祝辞より長い (蚤助)
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