#193: Yesterday

2009-11-22 | Weblog
 失恋の悲しみを素朴に綴った歌詞と、古雅なメロディ… 「Yesterday」(1965)はイギリス伝統のバラードが、ビートルズの才能を通して現代によみがえったものではなかっただろうか。ソングライターとしてのジョン・レノンとポール・マッカートニーの才能を広く印象づけた名曲である。彼らの音楽はロック/ポップスの世界にとどまらず、ジャズからクラシックという音楽全般を通じた大いなる遺産である。最近デジタルリマスターされた彼らの全アルバムが高音質CDとして再発売されて評判になっている。彼らの評価には特に流行の波があるとは考えられず、それというのも、彼らの活動時期にファンだった人たちの、子や孫(!)が、音楽ファンに成長し、新たな出会いとしてビートルズに熱中し始めているということかもしれない。

 彼らの曲で一番好きなのは何?というアンケートをよく見かけるが、全アルバムと答える人がいる。それが最も適切な答えという気がしている。ただ「Yesterday」だが、蚤助がいちばん好きだということではない。彼らの作品はやはり全作品が甲乙つけがたいと言いたいが、彼ら以外のミュージシャンが最も採り上げ、スタンダード・ナンバーとして定着したものといえば、この曲を代表させるのがふさわしいと思う。ジャズ、ポップスからクラシックまで、ビートルズ・ナンバーの中でも最多のカバーを生んでいる。

 当初イギリス本国では映画「ヘルプ!」のサウンドトラック・アルバムのB面に収録されたが、シングル化されなかった。意外なことに、アメリカでも日本でも、リリース当時はいずれもB面扱いであった。2分強のバラードだが、ポールが朝目を覚ますと頭の中でメロディが鳴っていて、以前どこかで聴いたものかもしれないと思って、周囲にこの曲を知らないかと尋ね回ったという。ポールは「スクランブル・エッグ」と呼んでいたそうだ。ポール自身のヴォーカルとアコースティック・ギターに、ジョージ・マーティンのアレンジによる弦楽四重奏団が加わっているが、ポールはこれに反対したものの、仕上がりは満足すべきものとなり、不滅のエヴァーグリーンとなった。

 ごく初期の頃はともかく、ジョンの歌詞は、哲学的というか瞑想的となって日本語にして解釈するのがなかなか難しいものが多くなったが、「Yesterday」は、特に難解とはいえない。 …「昨日」は突然やってきた。それまでは私にとっては悩みなど遠くのものだった。私は昨日を信じ、昨日に焦がれている。なぜ彼女は去ってしまったのだろう。昨日までは恋などたやすいゲームだった。今はどこか隠れる場所が欲しい…と歌われるが、この「昨日」は、文字通りの前日ともとれるが、それ以前の過去、または過去のある日を指しているのかもしれない。

 彼らの歌はいろいろな人が採り上げてはいるが、ほとんどは彼ら自身が歌わなければサマにならない。本作はその例外といえるかもしれない。最も早くレパートリーに入れたのがサラ・ヴォーンであったが、レイ・チャールズ、シュープリームズらのソウル系、カーメン・マクレエ、アニタ・オデイ、フランク・シナトラらのジャズ系、ブラザーズ・フォーらフォーク系、マリアンヌ・フェイスフルらのポップス系などが競ってレコーディングしている。今回はシンガーズ・アンリミテッドのアカペラによる美しいハーモニーをお勧めしたい(画像)。

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「違ってる昨日の好きと今日の好き」


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