#659: 真夜中の太陽

2014-11-11 | Weblog
これまで何度か名前が出てきたジョニー・マーサーは、作詞家、俳優、歌手、作曲家としての活動のほか、キャピトル・レコードの創立者のひとりとしても知られるなかなか多才な人物だった。
とりわけ作詞家としての仕事は、“Dream”(作曲もマーサー)、ヘンリー・マンシーニと組んだ“Moon River”、“The Days Of Wine And Roses”、“Charade”のほか、シャンソンの名作“Les Feuilles Mortes”(ジャック・プレヴェールの原詩を英語詞にした“Autumn Leaves”つまり「枯葉」)などが代表作であろうか。
インスト曲に歌詞をつけるのもうまくて、デューク・エリントンの“Satin Doll”もマーサーによる歌詞である。

ヴァイブラフォンの名手ライオネル・ハンプトンが47年に作曲して、彼自身の演奏で知られる器楽曲が“Midnight Sun”(真夜中の太陽)である。この曲の作曲者にピアノ、ヴァイブラフォン、ヴァイオリン奏者としても知られるソニー・バークの名前もクレジットされている。バークは、後年、シナトラのレコード会社リプリーズの音楽監督として活躍するのだが、多分、楽曲としてまとめるときにハンプトンの手助けをしたのだろう。


ハンプトンの演奏を聴いても分かるように、半音の下降メロディが続く美しい曲なのだが、かなりの難曲である。
54年になって、マーサーがこの曲に歌詞をつけた。なぜこんな難しい曲に歌詞をつける気になったのか謎なのだが、曲自体あまりに凝ったメロディなのでとても歌いにくく、手を出す歌手が出てこなかった。
ところが、歌詞をつけてから3年後の57年になって、エラ・フィッツジェラルドが挑戦し、見事に持ち歌にしてしまうのだ。


MIDNIGHT SUN (1954)
(Words by Johnny Mercer / Music by Lionel Hampton & Sonny Burke)

Your lips were like a red and ruby chalice
Warmer than the summer night
The clouds were like an alabaster palace
Rising to a snowy height
Each star its own Aurora Borealis
Suddenly you held me tight
I could see the midnight sun...

あなたの唇はルビー色の聖杯のよう
夏の夜よりも暖かい
雲は大理石の宮殿のよう
雪山にそびえている
星はどれもオーロラ
突然私は抱きしめられた
真夜中の太陽が見えた...

この歌は、おそらくエラのようなよほど技巧に優れた歌手でないと歌えないだろう。半音の続くフレージングは難しく、きわめて上級者向けのスタンダード曲なのだ。

“Midnight Sun”は北欧の白夜に見られる太陽である。
歌詞はなかなかファンタスティックだ。
恋人に抱きしめられた真夜中に、太陽が見えたというのである。

「周囲をとりまくのは銀色の雨か、月光のヴェールか、宇宙の音楽か、それとも鶯なのか。あなたの腕は奇跡のように私を包んだ。突然空が青くなり、真夜中の太陽が見えた。こんな夜があるのだろうか、信じられない。」と続く。

ところが、この恋人は「私」から去ってしまうのである。
「あなたが行ってしまった後でも、星屑が袖に残っている。炎は燃え殻となり、星が輝くことをやめて、12月の牧場の雪の結晶のようになっても、私は忘れはしない。あなたと唇を重ねたとき、真夜中の太陽が見えたことを…」

エラのほか、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエも巧みに歌っている。
いずれもオルガンやヴァイブ、ハープやストリングスの編曲によって北欧的な透明感を出すための工夫が凝らされている。いずれ劣らぬ稀代の三大女性ジャズ・シンガー、名歌手であることを証明している。

蚤助は、特にジューン・クリスティの典雅で、クールな唱法がこの歌詞の内容にぴったり合っていて大好きだ。
ミディアム・スローでピート・ルゴロのビッグ・バンドのゆったりとした伴奏をバックに歌う。全編オブリガートで伴奏が付き添い幻想的な雰囲気を演出しているところも憎い。


実はこの曲、歌手だけではなく、プレイヤーもあまり取り上げているわけではないのだが、ギターのバーニー・ケッセルが、ウエスト・コーストの芸達者と録音したものが蚤助のお気に入りである。動画が見つからなかったのが残念。


真夜中も心の闇もいつか明け  蚤助





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