
関税法第67条の3の特定輸出者の承認を受けた者は、財務省の発表によれば4月30日現在で113社となっています。
確か、昨年の11月頃は30社ほどでしたから直近の半年で80社ほどが増えたようで、急速に大手輸出者を中心に申請が加速したようです。
今日は、このような状況を受けて、同制度を取り巻くあれこれについて独断で推論をしてみましょう。
1 何故急速に同制度の利用者が増えだしたのか?
2006年3月に制度が実施された時、大方の輸出者は、メリットが少ないとして積極的に利用しようとの機運はありませんでした。当時は、混載貨物は利用できないなどの対象貨物の制限があって、大手の輸出者は航空での輸出も多く、ご承知のように航空貨物の多くは混載で運ばれますから、利用面のメリットが少ないとの評価も仕方ない面がありました。
このため、財務省はいち早くその改善を図るため法律改正を行い、混載も対象とするなどの手を打ち、制度利用上の制約はほぼなくなりました。ただ、この改正があっても、メリットが少ないなど腰が引けるような姿勢を見せる企業が多かったようです。
一方、AEO制度は、世界的な通関制度のスタンダードにとなりつつあります。(この点は私のブログでも何度も取上げています。)
そして、先進国間では、AEOの相互乗り入れとも言える相互認証が、課題になってきており、これに日本が乗り遅れることは、日本のグローバル企業にとって国際競争上の不利益をこうむることで、政府としても日本版AEOを軌道に乗せ普及させることが必要と判断したと思われます。
(官民共通の目標として、特定輸出者の承認を受けた者の輸出額シェア50%目標といっています。)
このため、財務省は、昨年の春に、2008年末で、「包括事前審査制度」を廃止するとの方針を示しました。
この包括制度は、日本独自の制度で、20年ほど前から実施されています。継続的な輸出取引について、輸出規制の有無などを事前に税関が審査しておき、ここの輸出は出来るだけ簡易に通関するというもので、これは社内の輸出管理規則を求めたりのハードルはなく、主要輸出者300社ぐらいはこれを利用していました。
財務省の包括制度の廃止方針は、それまでメリットが少ないなどと言っていた主要輸出者が、真剣に特定輸出申告制度の導入に取り組むきっかけになりました。
また、これと、並行して財務省・税関では全国各地で説明会を開いたり、個別の指導をしたりの、環境整備も行われ、このような施策や努力が、この半年ぐらいの急速な承認数増加につながっていると考えられます。
2 特定輸出者による輸出申告のメリット
どんなメリットがあるという議論の時には、よく「リードタームの短縮」という言葉が使われます。
NACCSで申告すると、システムで、「1 直許可」、「2 書類審査」、「3 現品検査」のどれかに区分されることはよく知られていますが、実態は、特定輸出の承認を取っていなくても、相当高い確率で「1 直許可」になります。
そういう意味では、輸出通関手続きで税関の審査や検査で時間をとられるということはめったにありません。
しかし、数%の率で書類審査になって、税関にインボイスやその他の書類を持っていってチェックを受けるということになれば、そういうことがありうる前提で、工場だしや、倉庫入れのタイミングを設定する必要があります。
ところが、まず99%以上の確率で、「1直許可」になるということであれば、税関の審査時間は無いと考えて物流を組んでも大丈夫でしょう。この点は大きな違いがあります。
特定輸出制度は、「原則として荷主の自己管理に委ねて税関は事後の調査で管理状況をチェックする」という発想ですから、荷主の責任は大きいけれど普段は税関のチェックは無いというものですので、安定的な物流ということからは、望ましいものです。
また、AEOは世界共通の通関手法ですから、しばらく時間はかかるでしょうが、相互認証が進めばこの承認を受けていないと、世界のあちらこちらで不利益をこうむるということになりそうです。AEOの承認を受けるには、社内の法令順守規則や体制を整備して実行していくという改善が不可欠ですが、やはり世界の潮流に乗ることが必要と思います。
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ミャンマーのサイクロン被害への救援に続いて、中国四川省の地震への救援物資について、簡易通関を適用するとの通達が出ていましたが、阪神淡路大地震や、新潟などの経験国として、他人事とは思えませんね。