◆夏の夜には天の川がよく見えます。海や山に出かけて夜空を見上げると、文字どおり川のように流れる天の川の美しさに圧倒されます。その天の川が南の地平線に流れ落ちるあたりに10個以上の星が大きなS字にならんでいるのが、夏の代表的な星座の蠍座です。右の3つの星がさそりの頭。S字の中ほどには赤い一等星アンタレスがあります。その左がさそりの尾になり、尾の先には毒針の星があります。さそりの心臓に輝くアンタレスは大きさが太陽の2百倍以上もあり、ふくらんだり縮んだりして明るさが変わる不思議な星です。この星は火星に負けないほど赤いので、アンチ・アレス(火星に対抗するもの)から名づけられました。
◆ギリシア神話では、巨人オリオンは狩猟の名人でした。ある時、オリオンが「この世に私より強いものはいない」と自慢げにいったのを女神ヘラが聞きつけ、それならばと大さそりをオリオンの足元におきました。さすがのオリオンも、その大さそりのひと刺しで死んでしまったのです。その時のさそりが女神ヘラによって天に上げられ、蠍座となりました。オリオンも恋人の女神アルテミスの願いで星座になりました。しかし、オリオン座は蠍座が西の空に沈むまで、東の空から姿を現すことはありません。かわいそうに、今だに彼は自分を刺した大さそりを恐れて天空を逃げまわっているのでしょうか。
◆蠍座のあたりは天の川の中だけあって、多くの星雲や星団がよく見えます。M4はアンタレスのすぐ右(西)隣にある明るい球状星団で、簡単に見つけられます。尾が直角にくびれた付近にあるH2は6~7等の星が広くばらまかれた散開星団で、双眼鏡では宝石箱をひっくり返したように見えます。さそりの毒針になるλ星のあたりにはM6とM7の2つの散開星団があります。ともに50個ほどの星が集まっているので、これらも双眼鏡で非常によく見えます。
※アンタレスは年老いた赤色超巨星で、地球から5百光年離れています。このため0.9等から1.8等まで明るさが変わるので変光星と呼ばれています。蠍座のSの字が釣り針に見えるので、日本では「魚釣り星」とも呼ばれています。