1日目、早朝に車で出発。静岡で東名高速を降りて、昼過ぎに畑薙第1ダムに到着。赤石温泉で昼食後、長い林道歩きが始まる。5時間かけて椹島キャンプ指定地に到着。ここは赤石岳や悪沢岳の登山基地で、木立に囲まれ気持ちがいい。夕食は持参の焼肉。
2日目、6時過ぎに椹島を出発。今日は聖平まで高度差1,180mの登り。林道を1時間ほど戻り、聖沢入口から登山が始まる。展望のない樹林帯の登りが延々続く。聖沢吊橋でコーヒータイム。昼過ぎに滝見台水場で昼食。〈 小聖岳と聖岳 〉
15時、聖平露営地に到着。別パーティと合流。料理は聖鍋、高野風マーボ豆腐、カレー。山小屋の売店でビールを求めると従業員の冷たい視線が。ビールどころか缶ジュース1本売っていない。南アルプスの山小屋では物資運搬は人力に頼っているので当然といえば当然。
3日目、5時過ぎ聖岳めざして出発。樹林帯からハイマツ帯になり、やっと高山らしくなってきた。小聖岳を越えて2時間で山頂。北ア、富士山、赤石岳、仙丈岳など雄大な展望が広がる。予定ではさらに南の上河内岳から茶臼岳まで9時間かけて縦走しようというものだったが、登高意欲が薄れたので下山することにした。聖平に戻り昼食。昼前に下山開始。18時過ぎに椹島到着。〈 山頂から赤石岳 〉
4日目、またも長い林道を戻る。4時間で畑薙第1ダム到着。赤石温泉で昼食と入浴。お茶の本場だけに一面茶畑が広がる。SLが疾走する大井川鉄道に沿って寸又峡温泉まで。ホテルアルプスに宿泊。〈 稜線から富士山遠望 〉
4日間の夏山登山が終わった。例年華やかな北アルプスに通いつめていたので、静かな南アルプス南部に登ってみたいと計画したのだが、アプローチの長さには参ってしまった。往復9時間の林道歩き、延々と続く樹林帯の急坂、標識の不備、ジュースさえ売ってない売店など北アルプスとはずいぶん様子が違う。畑薙第1ダムから聖岳までの高度差は2,067m。私は今回の山行で足の裏4分の1の表皮を失ったが、幸い恵まれた天候の中で聖岳に登れた。明日からまた暑い毎日が始まる。
【1990.7.27-31】
今回は久しぶりの三千m峰、南アルプス仙丈ヶ岳に登る。20代の頃、北沢峠のテント2泊で甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳を登ったが、最近はすっかり温泉泊付き極楽登山になってしまった。始発電車を名古屋で乗り換え、木曽福島から仙流荘行の直行バスに乗り込む。関西から南アルプスに向かうには乗り換えが大変だが、このバスのおかげで甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳は1泊2日でも登れるようになった。
そばを目当てに高遠で途中下車。高遠のメイン通りは閑散としているが、信州そば発祥の地なのでそば屋だけは人が多い。乗継時間を利用して桜で有名な城跡公園を散策する。山全体が桜の木ばかりだが、この時期は当然ながら観光客はいない。夕方、バスで仙流荘へ。バスターミナルには皇太子時代の天皇陛下が仙丈ヶ岳に登った際の写真が展示してあった。
今回歩くのは北沢峠から藪沢ルートを登り、翌日に稜線ルートを戻る周回コース。大平山荘は趣のある山小屋で、周囲に薪が積み上げられている。玄関に熊出没注意の看板。林道バスの運転手が熊を2回見かけたと車内放送していたのを思い出し、大きな声で話しながら登ることにしたが、樹林の登りがしんどくてやめた。途中から雨。急登を終えて雪渓の下で藪沢を渡り対岸へ。ここから沢沿いを登る。
雨脚は強まるばかり。トラバース道の分岐を過ぎて沢を離れ、鹿よけネットの間を進むと馬の背ヒュッテ。森林限界の下にある静かな落ち着いた小屋で、晴れていれば山頂が見えるはず。ここはNHK番組で湊かなえさんと工藤夕貴さんが訪れた小屋で、食堂には日本酒の一升ビンがずらり並んでいる。山小屋には珍しくスタッフ全員女性で、山の居酒屋という感じ。
森林限界を抜けると視界が開けハイマツの道に変わる。藪沢カールは涸沢と同じ氷河圏谷で、モレーンの上に今日の宿、仙丈小屋がある。背後は仙丈ヶ岳。前面は白い花崗岩の甲斐駒ヶ岳や八ヶ岳など広がり眺望が良い。小屋の2階は食堂や談話室。寝床のある3階へは階段でなくハシゴを使う。頭上に「南アルプス最難関・滑落注意」との貼紙。たしかにここから落ちたら無事ではすまない。
夕食前に管理人からお話があった。大腿骨を骨折したそうで、ポールを支えにリハビリ中。今年は7月に入ってから天候不順で荷揚げのヘリが飛ばないため、女性スタッフが30㎏の食材を荷揚げしているとか。ここも管理人以外は全員女性。北アルプスに比べて南アルプスの山小屋は設備や食事で見劣りするが、この小屋は快適だ。しかも小屋の前から絶景というのがいい。
翌朝は、管理人に聞いた場所でご来光を待つ。南に富士山、北岳、間ノ岳と標高ワンツースリーが並ぶ。結局、富士山が見えたのはこの時だけだった。東にはギザギザの鋸岳とそれに連なる甲斐駒ヶ岳、その奥に八ヶ岳、さらにその奥に噴煙を上げる浅間山が折り重なっている。浅間山はこの2週間後に噴火した。甲斐駒ヶ岳の右手は鳳凰三山。北は伊那谷。やがて雲海の彼方から日の出。
山小屋の前には展望を楽しむ人たちが。ハイマツの中を稜線に向けて登山道が延びる。いつものことだが私たちの出発は遅い。山小屋の掃除が始まったので追い出されるように山頂を目指す。急登をつめると快適な稜線の道。山頂からは360度の展望。大勢の登山者。ここに来るのを夢にまで見ていたという女性がいた。北岳の陰に隠れて富士山は見えない。
1時間ほど大展望を満喫してから山小屋に戻り、預けた荷物を取って小仙丈ヶ岳へのコースをたどる。途中の稜線でガアガアと鳴き声がするので目を凝らすと雷鳥の親子が散歩中。小仙丈の山頂はルートから離れるが、ここからの仙丈ヶ岳の姿がいい。ここで大休止。五合目までは急な下りが続く。下山に選んだルートはメインの登山道なので昨日と違って登山者が多い。
森林限界を過ぎて樹林帯に入ると五合目。さらに急な下りが続く。北沢峠の山小屋で私たちと前後して下山したグループがバス待ちしていた。林道バスで再び高遠へ。今夜は高遠さくらホテルに宿泊。ここ伊那谷はローカル線が通るだけなのでのんびりした街だ。最終日は名古屋行きのバスを馬籠で途中下車。妻籠と比べるとこじんまりして、外国人と子供の団体でにぎわっていた。ここでも名物はそば。
この夏は日本で2番目に高い南アルプス・北岳を目指す。30年前、三峰川を遡行して三峰岳・北岳を縦走したが、ほとんど記憶に残っていないので再チャレンジとなった。7月8日の土砂崩れで夜叉神峠・広河原間が不通のため、やむをえず夜行バスで甲府に入る。翌朝、代替バスで奈良田を経由し、3時間かけて広河原に向かう。奈良田では40人余りの団体が来ないので、バスが右往左往することとなった。
広河原山荘で入山届を投函し昼食。13時5分出発。ここから展望のない急登をひたすら登る。大樺沢との分岐で外国人が迷っていたが、日本語も話せず、英文の地図しか持っていないのには驚いた。急傾斜の連続で途中にベンチが2か所あり、合戦尾根を思い出す。ときおり樹林帯を吹き抜ける涼風が心地よい。夜行バスの疲れが出てきた頃、急登が終わり小さなアップダウンの続く水平道となる。
16時、標高2,230mの白根御池小屋に到着。最近建て替えられた小屋は清潔で快適に過ごせそうだ。ほとんどが女性スタッフで、随所に細かい気配りが感じられた。この小屋を舞台にした小説を読んだと伝えると、「何冊読みましたか」「私は主人公と同じ名前なんです」と元気な声が返ってきた。道路不通の影響か、最盛期にもかかわらず布団一枚に一人というのはラッキー。真っ白なシーツにも感激。
木立に囲まれた小屋の周囲はテント場が点在し、正面に明日登る山頂がはるかに望める。夕方、広い談話室でストレッチをして、山のビデオを見て過ごす。雪渓で転倒した人が手当てを受けていたが、今年の大樺沢は事故が多いようだ。ここは水が豊富なので水洗トイレや洗面所がありがたい。南アルプスの天然水も飲み放題。小鳥のさえずりを聞きながら、ここで数日過ごすのもいいかも。20時消灯。
草すべりを経て北岳肩ノ小屋、北岳頂上へ
ここから日の出は見えないが、東の鳳凰三山が明るくなり、まもなく朝を迎えた。6時25分出発。いきなり草すべりの急登に取りつく。周囲は高山植物の宝庫で、花々が斜面を埋め尽くし、疲れが癒される。背後の鳳凰三山がどんどん低くなり、高度を稼いでいるのが分かる。このコースは樹林帯を登るので日差しがなくて快適だ。やがて鹿よけのネットで囲われたシナノキンバイの群落が現れた。
8時20分、二俣への道を左に分けてひと登りで稜線に出た。ここから一転、快適な展望の尾根歩きとなる。甲斐駒、仙丈、槍・穂高、木曽駒、御嶽、乗鞍、…。9時40分、北岳直下の肩ノ小屋に到着。標高3,000m。昨年の槍ヶ岳に続いての3千超えだ。ドラム缶に囲まれた小屋は水不足を象徴している。なんと小屋の受付に大きなビールサーバーが。
10時20分、荷物を預け山頂へ。ライチョウが一羽。人懐っこいイワヒバリが近づく。足元には高山植物が花を咲かせている。荷物もなく、展望の稜線を歩くのは最高に楽しい。やがて見えてきた山頂は登山者でびっしり。11時、標高3,193m、北岳山頂到着。ここより高いのは富士山だけ。眼下に北岳山荘、稜線の先には間ノ岳や塩見岳が見える。東側はガスに覆われ、富士山の頭がほんの一瞬見えた。
伊那谷は晴れているが甲府側のガスがなかなか消えない。登山者が北から南へ、南から北へ通り過ぎていく。ここは南アルプスで一番賑やかな山頂だ。1時間あまり過ごして肩ノ小屋へ。気温14度。下界の暑さを思うと別世界だ。夕食は入れ替えが3回あったので100名は超えているが、これでも今夜は少ない方だ。この小さな小屋のどこでこんな大量の食事を作るのだろう。夕食後ストーブに火が入る。
隣の人がデジカメで夕日を見せてくれた。昼は寝て夜に行動すると言っていたが、夜の写真が目的で登る人がいるとは。20時過ぎ、星を見るため外へ。頭上には夏の大三角、天の川を南にたどると射手座、蠍座、天秤座、…。星空を眺めていると消灯時間を過ぎてしまった。枕が4つ並んだスペースに3人だから、今夜もゆったり眠れる。夜中に寒さで目が覚めて、毛布を3枚重ねてやっと眠りにつけた。
右俣から大樺沢を下る
4時45分、鳳凰三山の彼方から日の出。墨絵のように八ヶ岳や富士山が雲海に浮かび美しい。北アルプス、中央アルプス、南アルプス、…。手前の山は鳳凰三山、地蔵岳のオベリスクが見える。その奥の山並みは奥秩父。小屋の前ではトイレの新設工事中。3千mの高所でパワーショベルの作業というのは珍しい光景だ。最近、どこに行っても小屋のトイレは見違えるほど綺麗になった。
小屋の近くでシーズン最後のキタダケソウが朝日を浴びていた。世界でこの山にしか咲かない貴重な花だとか。ここのテント場はロケーションが抜群だ。北穂高や槍の肩のテント場も標高3千mだが、景色はここが最高。700mも高い富士山がなぜか低く感じられる。富士山は下から見上げるより同じ高さで見る方が美しい。小屋の前で富士山を眺めながら贅沢なコーヒータイム。時を忘れる至福のひととき。
7時20分、下山開始。8時25分、草すべりとの分岐を大樺沢に向けて下る。こちらの登山道も高山植物が多く、下るにつれて花の種類が変わっていく。中高年の女性グループが花の名前を確認しながら登ってきたが、この山は花を目的に登る人が結構多い。ヘリが小太郎尾根や大樺沢の上空を旋回。大樺沢では7月に入ってすでに4名が事故に遭っているので、救助活動かもしれない。
10時55分、二俣。南アルプスにこんな大きな雪渓があるとは知らなかった。今日も初心者らしい団体が登ってきた。最近はどこに行ってもツアー客と出会う。一方、途中出会った外国人はわずか3組で、北アルプスに比べたら随分少ない。沢は倒木で荒れており、崩壊地を避けて道は右岸へ左岸へと続く。12時50分、広河原に到着。ぴったり二日間の山旅となった。山荘で昼食をとり、バスで奈良田へ。
南アルプスの秘湯、奈良田温泉へ
白根館は奈良田温泉の一軒宿で、源泉かけ流しの秘湯。泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物泉でツルツル、ヌルヌルしている。夕食は山人料理。主人が仕留めた鹿肉、ニジマスの燻製、蕎麦掻の揚げ出し、山菜の天ぷら、…。朝食は温泉粥。たまに熊肉や猪肉も出るとか。ここは農鳥岳の下山口に近いが、登山者よりむしろ秘湯目当てのリピーターが多いようだ。
電波の届かない場所で、超・早寝早起きの生活をたった2日過ごしただけで体調が良い。高齢の夫婦を何組か見かけたが、山の生活リズムが健康に一番だと思う。帰りのバスに乗ってきた地元のお年寄りも、毎日温泉に入っているそうですごく元気に見えた。7月に入って大樺沢で滑落事故が続発、さらに例年になく残雪が多いことからルートを変更したが、おかげでゆったりした山行が楽しめた。