新しいの書きました。ぜひどうぞ。
「男子円盤投げ優勝は、荻(おぎ)君。」
表彰台の1番高い所で、名前が呼ばれるのを聴いた。念願の初優勝。荻は喜びにうち震えていた。賞状を受け取り、監督のもとへと駆け寄った。
「俺、やりました…。」
監督の胸の中で、荻は目に涙を光らせていた…。
「ん…。」
目を覚ました荻の目に映ったのは、家の天井。蛍光灯から垂れ下がった紐が揺れている。
「夢…か。」
布団から起き上がり、リビングへ向かう。窓の外一面には曇り空が広がっている。
朝ごはんを食べながら、荻は昔のことを思い出していた。
高校の部活で結果を残し、大学では念願の全国優勝。その後は学生時代の経験を活かし、6年前までは高校の教師を務めていた。
顧問をしていた部活の結果も上々。
子供も産まれて暖かな家庭を持ち、幸せな生活を送っていた。
しかし、今となってはどうだろう。
かつてプロテインが入っていた缶にはうすしお味のポテチ。ベンチプレスのベンチはソファーに変わり、全国優勝を共にした筋肉はすっかり脂肪に変わっていた。
あの時、自分の発言が原因で職を奪われ、それをきっかけに妻とは離婚。それをきっかけに鬱ぎみになり、今のようになってしまった。
「どうせ俺なんて…。」
そう思いながら何の楽しみもない日々を過ごしていた。そう、あの日までは…。
ある日、荻は散らかりきった自分の部屋を掃除していた。掃除なんていつ以来だろうか。何か自分の中で動いたような気がしたのだろう。長く続いた梅雨の雨も上がりかけていた。
「これは…。」
荻が見つけ出したのは1枚の写真だった。きちんとフレームまで付けられている。その写真は、かつて自分の生徒であった畑崎、鈴望、健樹、華日と撮った写真だった。その写真を見た瞬間、何かが荻の中で光ったような気がした。
「そうだ。俺はできる。きっと、あの時のような輝きを取り戻してみせる。」
なぜ、その写真が彼を奮い立たせたのか。それは荻にも分からなかった。しかし、間違いなく荻の顔に活気が戻り始めていた。
しかし、どうしようというのだろう。今自分には職がない。仮に教師に戻れたとしても、こんな体では以前のような威厳を取り戻すことはできない。それは荻自身のプライドが許さなかった。
まずは、自分を変えなければいけない。そう思いケータイを開いた荻は、そこにあった光景に思わず笑顔になった。
次回 第2話 怪しいサプリ
お楽しみに!