旧ソ連軍というか、ソ連陸軍の軍人に扮した「アレクサンドロフ楽団」による愉快な作品である。小気味の良い手拍子とステップが魅力的である。
題名は“на привале(ナ・プリヴァーレ)”「小休止」または「憩いの時」という意味であり、通常の服装をした兵士の他に、主計兵と思われるコック服を来た人物も登場する。
今のロシアではほとんど見ることができなくなった陸軍軍人のダンスだが、ソ連時代は軍服を着た人物がわが国では「コサックダンス」として一般的に知られるダンス“пляска(プリャースカ)”を演じ、動画投稿サイトなどで鑑賞することができる。
多分、この“пляска”は英語の“play”あたりと同語源と思われる。
アコーディオンの一種である“баян(バヤン)“を奏でる道化師風の小柄な隊長に、元気の良い慌て者の主計兵(コック)、アクロバティックな動きを見せる隊員と2分30秒足らずの短い時間ながらも見どころ満載である。
この作品にはモノクロのロングバージョンもあり、ここではチョイ役でしか登場しない慌て者の主計兵には前掛けを付けた助手がつき、二人で息の合ったダンスを披露する。後日紹介したいと思う。
ソ連解体後、コサックダンスに当たるダンスはロシアとウクライナの両国で民族舞踊として親しまれている。
ウクライナではプリャースカではなく、“гопак(ホパーク)”と呼ばれる。
残念ながらウィキペディアでは「ウクライナのホパークこそがコサックダンスである」ような記述がなされているが、これは明らかな誤りである。
ロシアのプリャースカの方が泥臭くて古典的であり、本来のコサックダンスにより近い。
コサックダンスのファンとしては、誤りが広まってしまうのは忍びないので、時間があれば「プリャースカ」のページを別途立ちあげるか、「コサックダンスにはウクライナのホパークとロシアのプリャースカの両方がある」旨の記述に変えることが出来ればと思うところである。
そんなウクライナはロシアよりも西欧寄りという地理的条件もあって、ホパークにはプリャースカよりもダンスに泥臭さがなく、伴奏もバイオリンが入ったり、ロシアでおなじみのバラライカに代わって映画「第三の男」で有名なチターのような音色の“банду́ра(バンドゥーラ)”が用いられるなど、ロシアのものよりもかなり西欧色の強い舞踊となっている。
さて、この“на привале”はソ連時代のものなので、ダンスの要素はロシアを主体に、ウクライナのも混じった印象。
このダンスの演出はウクライナ人のパーヴェル・ヴィルスキーであった。
で、ウクライナ独立後に「パーヴェル・ヴィルスキー楽団」が立ち上がり、今ではロシアの「モイセーエフバレエ団」と並んで、コサックダンスをはじめとする民族舞踊で魅了する存在となっている。
なお、海軍軍人のダンスもありこちらは小リンゴを意味する"Яблочко(ヤブローチュコ)”と呼ばれるが、こちらは現在でもモイセーエフバレエ団の花形であり、例えは悪いが「3時のおやつは文明堂」のような息の合った華麗なダンスで見るものを魅了する。
かつてはヴィルスキー楽団でもロシア側とは異なるバージョンで海軍軍人のダンスを見ることができたが、クリミア半島のロシア併合問題で、ウクライナ海軍の艦艇や兵員が多数ロシア側へ転籍(端的に言えば寝返り)してしまった事情もあり、最近では見ることができなくなってしまった。
以上、かなり珍しい部類の趣味と思われるが、私なりの切り口で今後も紹介していきたいと思う。