神奈川絵美の「えみごのみ」

空蝉と向日葵

話は前後するが、
先週、三溪園での「日本の夏じたく展」へ足を運んだ際、
扇子を一本、いただいてきた。

ガラス作家、荒川尚也さんがデザインしたもの。
収益は、募金として被災地へ送られるという。

モダンな抽象柄は、
私に、ヴァシリー・カンディンスキーの銅版画を思い出させた。

1920年代の作品だ。※
(絵を見ればおよその制作年代がわかるほど、
私はアルフレッド・シスレー以上にW.カンディンスキーが大好きだ)

荒川さんの作品は・・・

暗くて写りが悪いが、ここは園内の旧燈明寺本堂。
もともと天平7年(西暦735年)、聖武天皇の勅願で京都に創建された寺だが
兵乱や台風、あるいは明治維新などの変革にともない、
何度も廃寺の憂き目に遭っている。
そのたびに再興されたものの、昭和62年にここ三溪園に移築されてからは、
もはや「祈りの場」としては機能していない。

そんな空間に、ガラスのオブジェが置かれている。
展示のテーマは「空蝉(うつせみ)」。

(パンフレットより)

荒川さんの解説文を読むと、この寺には
数百年にわたる念仏の声が染み込んでおり、
ガラスに映る光の中に、時を超えた祈りの声を聞くことができるだろうか-という思いが
あったようだが、
私が感じ取ったのは、祈りではなく、「現代の空虚さ」だった。

外は霧雨、人もそう多くなく、
ましてこの空間、みな息をひそめるようにして観賞している。
そんな静けさとある種の緊張感の中、
がらんとして「営み」も「魂」も抜けた本堂と、
悲しいほどに透明な蝉の抜け殻だけが、ひっそりと共鳴している、
そんなイメージを持ったのだ。

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さて、帰り道。
買い物に立ち寄った横浜・高島屋で
中川一政の没後20年記念展が開催されているのを知って・・・。

この芸術家については、
あまり詳しくは知らないのだが、
実家には向田邦子の著書が何冊もあったし、
武者小路実篤の一筆が入った額絵(複製だと思うけれど)も飾られていたので、
その力強い、独特のタッチには浅からず馴染みがある。

つくづく感じ入ったのは、
70代、80代になっても精力的に創作活動をしていたことと、
油絵、随筆、書、陶芸etc. 手がけたものはすべて独学だということ。
絵葉書ではなかなか伝わらないけれど、
どの絵も号数が大きくて、筆遣いだけでなく息遣いまでもが
時を超えて、伝わってくるよう。

(とてもエネルギッシュな人だったんだな・・・)と思いながら、
私はこれらの絵が描かれた1970-80年代という時代そのものも、
エネルギーに満ちて、カラフルだったのではないだろうか、
そんなことを考えていた。

上の写真、右の向日葵は1977年に描かれたもの。
いったん売り場を離れて、名残惜しくなって、また引き返し、

1982年に描かれた向日葵の絵葉書も求めた。

向日葵の時代からずっと、同じ日本の一本の時間の綱を
四半世紀以上も
あるときは勇んで、あるときは怯え、あるときは有頂天で渡ってきたら、
空蝉にたどり着いた。
だけど結局それは、たったひと夏の出来事に過ぎなかった。
そして、同じだけの長さの綱は、きっともうこの先には残っていないのだ。



※カンディンスキー展図録/東京国立近代美術館(1987年)より

コメント一覧

神奈川絵美
はつきさんへ
こんにちは おお、そうなのですね
私も、19世紀末の未来派から1940年代のカンディンスキーの晩年までの西洋絵画はとても好きです。

クレーやカンディンスキーに関しては、高校時代に「クレー/カンディンスキー/ミロ展」という企画展を東京で観てから、両者とも好きで、
ヨーロッパを旅行した際、スイスやドイツの美術館を巡っては、
スライド写真を撮ったものでした(まだデジカメなどない時代・・・)。

ともに画家としては初期といってもいい、1910年代から親交があったようですから、
互いに影響を及ぼしあったのでしょうね。
はつき
カンディンスキーとクレー
http://blog.goo.ne.jp/asochan0930
カンディンスキーとクレー!
私も大好きです。20世紀初頭の絵画は総じて好きで、マティスとかピカソなどもかなり好きなのです。
クレー展に行ってきましたが、びっくりするほどカンディンスキーに似た絵があり、解説などには明確には示されていなかったものの、相互の影響を感じずにはいられませんでした。
神奈川絵美
すいれんさんへ
こんにちは わーそうなんですね。ビックリです。ホントすいれんさんとは興味を持つ方向性が似ていますねー

吉田美保子さんが荒川さんとお知り合いで、
私もご挨拶だけさせていただいたのですが、
柔らかい物腰で優しい方ですね。
神奈川絵美
Medalogさんへ
こんにちは 夏にこうしたモノトーンの扇子って、より涼しげに見えるような気がします

>欲しくないものは買いたくないので
そうですよね。
この展示会では、殆どの出展作家・工房が復興支援のためにオリジナル扇子を提供していて、
それぞれ個性があり、選ぶのにかなり迷っちゃいました
すいれん
http://www.tomoko-358.com
絵美さま
あら~、絵美さんとはいつもシンクロします~。荒川尚也さん、ある展示会で一目惚れして洋室にも合う香炉を買ったのはもう2,3年前だったかしら・・・。その後、個展のお知らせなども頂くのですが、京都だったりタイミングが合わなくて、伺ってませんが。 
Medalog
洒落た扇子ですね!
扇子というとどうしても和柄が多いですが、この扇子は夏着物にも洋服にも合いそうでいいですねえ。
復興支援と言っても欲しくないものは買いたくないので、このようにいろいろな方が支援のための活動をしてくださることで私たちも協力できる機会が増えて、いいことですね。
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは そうなんですよ~音楽との関係性はクレーもよく言われますけど、
私は両者とも、音楽的なものを感じます
(展覧会の絵のコスチュームを創ったりしていましたしね)。
ストラヴィンスキーを連想されるお気持ちも、わかります~
あれ、バウハウスで一緒にやってませんでしたっけ
(記憶が曖昧なので勘違いかも)。

すごく昔に書いた記事なのですが、
芹澤けい介とカンディンスキーについて書いたものがあります。
http://blog.goo.ne.jp/kanagawa_emi/d/20071031
著作集『点・線・面』を参考にしたのですが、
これを見ても音楽を意識していたことが垣間見えます・・・。

クレー展も始まりましたよね! 私も行こうかな・・・。

中川一政展、そうだったのですね・・・。
私は、じっくり観るのは初めてだったのですが、向田邦子の『あ、うん』の装丁を見て、
すごく望郷の念にとらわれました
Tomoko
http://okakara.exblog.jp/
こんにちは。
おお~カンディンスキーがお好きとは!私のイメージではカンディンスキーってすっごく音楽的なビジュアルに見えます。でもっていつもストラビンスキーが浮かぶんです。またはアブストラクトなジャズとか。あくまでも私個人の印象ですけどね。絵美さんの中ではどんなイメージかしら?(ちなみに私はクレーが好みです。近代美術館、行かなくっちゃ!)
中川一政、エネルギッシュですよね~!私、日本橋での開催を見に行って、作品をおおいに満喫したあと高島屋であの大震災に遭いました。ある意味、思い出深い展覧会です。
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