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神奈川絵美の「えみごのみ」

極悪人のハズなのに


五月文楽 第二部は
女殺油地獄より徳庵堤の段、河内屋内の段、豊島屋油店の段
鳴響安宅新関より勧進帳の段
というワケで、歌舞伎でもお馴染みの演目。

女殺…は、放蕩息子の与兵衛が継父に嘘ついて金をせびるわ、
実母や妹にまで手を上げるわ、
挙句の果てに、何かと世話を焼いてくれた同業のおかみ、お吉を金銭沙汰で
殺してしまう…という、どうしようもない極悪人の話なのですが、

勘十郎さん(与兵衛の人形遣い)のソフトなお顔が目に入ると、
与兵衛がどんなにいきがっても、乱暴なふるまいをしても、
私にはどうしても悪人に見えなくなって、困ったこと!

この演目は、悪人の悪人ぶりを見るのではなく、
そんな息子でも突き放せない、両親の「情」の深さが見どころなのだと
気づかされました。

河内屋内の段は、与兵衛が家庭内暴力をふるい、たまりかねた両親が勘当する、
というのが大筋ですが、
私の大好きなますらおペア(呂勢大夫さんと鶴澤清治さん)で、
最初はあまり抑揚のない、静かな展開だったのに、
話が進むにつれどんどん場面が荒々しく動き、泣かせる浄瑠璃でした。

そして、一番の見どころである、油店の段で与兵衛とお吉が油にまみれ
すべりながら格闘する場面は、人間が演じる以上にダイナミック。
歌舞伎とは違って「床との摩擦感」がない分、
あっという間に舞台の右から左へ、左から右へすすすーと。
ともすると、非現実的なスピード感なのですが、
それでいてちゃんと(?)登場人物の荒い息遣いや必死な様子が
伝わってきて、手に汗にぎる一部始終でした。
勘十郎さんはやっぱりすごい! そして「足」役の人形遣いさんもすごい!


鳴響安宅…は、すみません本当に顰蹙ものだと思うのですが、
富樫役の大夫が千歳大夫さんで、
私は今まで、この方は「チャリ場」のある段しか聴いたことがなかったので
こんな真面目な役もおやりになるんだ!と…。
若干の違和感を拭えないまま最後まで観てしまいました。

ずらっと並んだ三味線、大夫が圧巻。
人形遣いでは、弁慶役の玉女さんがカッコよくて(これまた不謹慎ですみません)
弁慶の背後にもう一人弁慶がいるようにも…「W弁慶」で迫力ありました。

ただ、私自身は、
勧進帳は歌舞伎やお能の方が好きかなあ…と。
弁慶の舞なんかは、人形も見事ではありましたが、人間が演じる方が
なめらかさや重々しさが自然な感じで伝わってくるかなと思いました。
これは好みの問題ですね。

ともかくこれで、勧進帳は、
歌舞伎でもお能(梅若玄祥さん)でも、文楽でも観たことになります。
この演目がいかに人気かを物語っていると思います。


他にも書きたいことはあるのですが、この辺で……。
第一部も、楽しみです。

コメント一覧

神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは
ここでのやり取りを、気に留めてくださいまして
ありがとうございました
桶の蓋だったのですね! そうですよねー私も
比喩だとしても、黒い塊が油?とはちょっと
思えなかったので・・・。
勉強になりました

>レイトショーで「逮夜」までやりますよ
実は私・・・、7~8月大阪での案件が走るんです(笑)
これは観に行けという何かのお告げでしょうか
香子
昨日二部を拝見してきました。
絵美さんとブラックジャックさんのお話を拝見してて
どうだったかなとガン見してきました(笑)
お吉が投げてた黒いのは桶の蓋でした。
(丸く繋がってなく木片がいくつもあります)
油は桶を倒して流れ出たという様子です。
7月から8月頭にかけての大阪の文楽劇場では
レイトショーで「逮夜」までやりますよ(^.^)v
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは
再びのコメントをありがとうございます~。

私、Tomokoさんのこちらのコメントを拝読したとき
ピカソの「ゲルニカ」が頭に思い浮かびました。
断じて美化とは違うのですが、
観る人の心を捉え、魅了すらする「何か」が
近松にはあるのでしょうね。
それをあらわす演者さん、囃子方の力量も
問われますよね。
Tomoko
絵美さんへのコメントを送ったあと
まだこのテーマのことが心に留まっていて、
私も、ただ陰惨なだけでもそれはやっぱりダメで
(ウケたのは当時のいっときの熱だったかもしれませんが)
本当の芸の力によって昇華される「何か」がないと
こんなに力を持ったまま残るはずもないか・・・と
思っていたところでした。
近松は・・・うん、やっぱりスゴイですね!

神奈川絵美
朋百香さんへ
こんにちは

>外国で同じテーマを演じてもこうはならないと
そうですよね。
少し前に、私のオペラ&ミュージカルの師匠Sさんと
話していたとき、西欧の古典は宗教観がベースにある
と聞いたことを思い出しました。
罪を犯せば罰があり、懺悔あり、再生あり・・・といった
ところでしょうか。
近松にはないですよね~(笑)

これは勝手な考察ですが、こと大衆芸能では、
少し「えぐい」くらいの方がウケがいいんだと思います。
きれいなだけで、ひっかかりがないと、
そう爆発的な人気には至らないというか。
観る側は、自分はあんなことできない!と思いながら
舞台の登場人物に、ちょっと自分のココロの闇を
重ねあわせていたりして(笑)
近松は、人間ってそういうものだということも
わかっていたのではないかなあ・・・。
朋百香
http://www.tomoko-358.com
絵美さま
成る程ね~。私もなぜ、こんな酷い話が何百年も
人気があって続くのか不思議でしたが、絵美さんと
tomokoさんのコメントを見て少しは納得です。
しかし、人の世の不条理は昔も今も変わらないん
ですねぇ。テクノロジーは進化しても、人の持つ
闇は変わらないという事でしょうか・・・。
そこを鋭くえぐる近松さんって、やっぱ凄いのかも。
しかも日本という風土が大きく関わってきますよね。
外国で同じテーマを演じてもこうはならないと思う。
殺人ですら芸としてみせる、この感性には感服する
ばかりです。
神奈川絵美
Tomokoさんへ
こんにちは
コメント拝読して、考えさせられました。

私、あまり伝芸詳しくないですが、近松は特に
救いのない筋が多いですよね。心中しちゃうとか。
観客が心から「だめじゃん!」と思う展開でも
そこに美学があるから、継がれているのでは
ないかなーと思ったりします。
(どうしようもない男を許してしまう女や家族の美学とか)
ただ、それは陰惨にしろ何にしろ、
筋だけで表現されるものではなく、
(文楽なら)人形の所作、三味線、大夫の芸の力
あってのこととは思います。

今、現実に起こっているさまざまな不条理は
確かに人間の欲望とかイデオロギーの対立とか
背景にあるものは普遍的ですよね。
そこに美学はありませんが・・・。
普遍的な負のテーマを「芸」にしたことが
近松の功績?なのかなー。
Tomoko
こんにちは。
初めてこの演し物を観て以来、いつかこの演目を本場国立文楽劇場で拝見したいと
いまだに、いまだに夢見ている私です。(夢のままに終わらせないようにしたいものです)

みなさんの感想を読んでいて、・・・ふと、
これはこの不条理を徹底して陰惨に描いてるからこそ
不朽の名作になったのでは?と思いました。
もしも改心するような与兵衛では、たぶん何百年も残る浄瑠璃にはならなかったのでは?・・・と。
(そういうお話なら他にいっぱいありますもんネ)
歴史に「たられば」はありませんが、
いまの世の中に溢れている悲惨な出来事や事件の不条理も
何百年前の人の世の不条理となんら変わらない、というところに普遍性を感じます。

神奈川絵美
K@ブラックジャックさんへ
こんにちは
歌舞伎の女殺・・・観に行ったことがあるのですね
歌舞伎ではふのりを使うんですってね。私は未見なので
いつか…と思います。

文楽では、お吉が油桶から油をまくところは
黒い固形物をいくつも放っていました。
(黒い固形物に意味づけはなくて、
油をまいていることの
文楽的な表現方法と思われます)

ヌルヌルするようなものは撒きません。お吉も
与兵衛も、人形遣いさんが巧みに操って、
するするすべって転んで、立ちあがろうとしても
なかなか立てず…といった一連の動きを表現します。
それはもう、見事の一言!
本当に人形が(自動で?)滑っているみたいに
つつつつーっとなめらかに動くんですよ。
K@ブラックジャック
何にも知らない私に教えて下さ
すいません。非常に程度の低い素朴な疑問です。

歌舞伎で女殺油地獄は見に行ったことがあるのですが、
最後本当に役者がヌルヌルになるじゃないですか。
文楽だと油はかけるふり?
それとも何かふける素材でヌルヌルがかかるのでしょうか。
神奈川絵美
すずらんさんへ
こんにちは
拙い感想文を読んでくださり、ありがとうございました

>足遣いだと
わかります! 書ききれなかったのですが、
例えば河内…の段で
寝っころがっていたのがぷいっと立って、
手ぬぐいを肩にかけたり、
家族を足蹴にしたり…。
あの足の動きと、あと「白さ」!人形だからということを
差し引いても、印象に残るものでした。
神奈川絵美
香子さんへ
こんにちは
ふふ、私には与兵衛は、腹の底でどう考えているのか
わからない人間に見えましたが、
今回かからなかった、後の段を観たら、もっと人物像が
深まるのかなあ。

おっ、一部ご一緒なのですねー嬉しい!
すずらん
女殺油地獄兵衛は
女殺油地獄の人形の見所は足遣いだと個人的に思ってます。
ほの暗い軒先の柱に寄りかかり佇む与兵衛の足の色っぽいこと!生仁左衛門さんにもひけをとらない男の色気です。
もちろん油まみれの修羅場のダイナミックな動きも足遣いさんあってこそです。
与兵衛は現代にもいそうな生活破綻者ですが、それを悪の華として昇華させているのが近松の凄いところですね。
香子
与兵衛はDVしながら義理の父親にガツンと叱って欲しいと
思ってたのかな…なんても思いますが。。。
や、でもあそこまで大きくなっちゃうと難しいかな。
(三つ子の魂百まで…って感じで)
一部はご一緒ですね、よろしくです~
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