自由が丘のショッピングセンターで一人、ぷらぷらしていたら
スマホがぶるぶる。
「あー姉ちゃん?」
「おう、明けましておめでとう」
今年もよろしく、なんて姉弟で挨拶を交わした後
「今さあ、実家にきてるんだけど、大型TVと電動自転車
もってっていい? 姉ちゃん使う?」
「ああ、使わないからいいよ。(私は車がないので)すぐもっていくとか
そういうこともできないし」
「じゃもらってくね。あとさー、電動じゃない方の自転車も、使わないならもらっていきたいんだけど」
-家にあるの、ぼろぼろでさー
そう言われちゃ、OKしないわけにもいかない。
実は弟はもっと前、9月の一周忌のときに
少なくとも大型TVはいのいちばんに
「オレ、欲しい!」と宣言しておいて、
後から「…姉ちゃん、使わないよね?」と承諾をとるという、
第二子ならではの"ちゃっかりさ”を発揮。
内心、自転車は私が…と思っていなくはなかったけれど、
悲しいかな、すぐ引き取れる段取りもつかないので、
結局2台あった自転車は2台とも弟のものに。
「じゃあさあ」 電話の切り際に私。
「皿、もってっていい?」
「ああ、いいよいいよ! うちはぜんぜん、要らないし」
「あ、じゃ、明日私、実家に帰るから、皿もらってくね」
……
このとき弟の頭の中には十中八九、
ダイニングの食器戸棚に眠っている、普段使い用の皿が浮かんでいたでしょう。
ところがどっこい。
私が東京の、自分の家に引き取ってきたのは……

人間国宝 濱田庄司の皿。
いくつかある、父が祖父から譲り受けた美術品の一つ。
後で知ったら、弟は怒るかな。
でもまあ、私は絶対に売らないし、
いずれ私が亡くなれば弟か、甥っ子のものになるのだから、まあいいや。
前にもちょっと書きましたが、この皿には父との思い出があって
……というのも、某銀行の専務だった祖父が、この皿を
ハマショーから直接、5000円くらいで買ったらしい(本当かなあ)。
一応"たしなみ”で多少の美術品を蒐集してはいたけれど、芸術的な価値は
まったくわからない人だったとか。
この皿を前に、そんな話に花が咲いて
ああ、頑固で厳格、仕事一筋だった祖父らしいねえ、ははは、なんて
笑いとばして
皿にも、居間にもやわらかい日が射していた、あれは2023年3月、
父が突然この世を去る半年前のことでした。
さて、連れて帰ってきたはいいものの、
うっかり壊したなんてことになってはたいへんだし、
ハマショーの母校である東京科学大に展示委託を相談するとか
そういう手もあるかも知れないけれど、
今のところ、クローゼットの奥に大事にしまっています。
そんなこんなで、実家じまいはまだまだ、先が長そうです。