イモリ科最大種のイベリアトゲイモリ(Pleurodeles waltl)は、防御のために鋭い肋骨(ろっこつ)の先端を体から突き出すことで知られている。この行動の仕組みはそれほど単純ではなく、かなり変わっていることが明らかになった。
外部の脅威に反応して突き出た肋骨の先端には、毒性の皮膚分泌物がコーティングされている。しかし、この奇妙な適応構造がどのような仕組みなのかはほとんど知られていなかった。従来の学説では、身を縮めて皮膚の専用の穴から肋骨の先端を突き出すという単純な仕組みだと考えられていた。
しかし、オーストリアにあるウィーン大学のエゴン・ハイス氏率いる研究チームにより、実際には肋骨を前方に回転させて、ヤリのように鋭い先端部を皮膚のイボから突き出していることが判明した。
ロンドンにあるオープン・ユニバーシティの生物学者ティム・ハリディ氏は今回の研究を受けて、「この現象は昔から知られていたものだが、肋骨の動きを詳細に調査した研究は初めてだ」と話している。
骨突起がトゲのような機能を持っている動物は数多く存在する。しかし、胸郭を構成する肋骨を“秘密兵器”として振り回すことができるのは、イベリアトゲイモリと近縁のイモリ数種だけに限られるという。
イモリがどのように防御行動を取っているのか明らかにするため、ハイス氏の研究チームは、生きているイモリに綿のボールで触れる実験を行った。捕食動物の攻撃を真似たもので、イモリが防御姿勢に入るまで続けられた。
X線撮影とCTスキャンで解析した結果、肋骨を回転させて体外に“トゲ”を突き出していることが判明した。また、皮膚にトゲ専用の穴がないこともわかった。つまりイベリアトゲイモリは、トゲを突き出すたびに自分の体に穴を開けていたのだ。
体を傷付けることで生じる危険性よりも防御上の利点の方が上回るという判断なのだろう。イベリアトゲイモリは傷を急速に回復させることができるという。「イモリをはじめとした両生類は、驚くべき皮膚の再生能力を備えている」とハイス氏は話す。
イベリアトゲイモリはそれぞれの肋骨の外側部がコラーゲン線維に包まれている。コラーゲンはタンパク質の一種で、人間の体内でも日焼けした肌の修復などに使われている。研究チームは、豊富に存在する肋骨のコラーゲンが傷の回復を促進しているのではないかと推論している。さらに、イベリアトゲイモリは免疫系が非常に強力なので、傷口が化膿(かのう)せずに済む。
前出のハリディ氏は次のように話す。「傷ができてもそれほど悪化せず、負担も少ないようだ。自宅のオフィスの水槽でイベリアトゲイモリを数匹飼っていて、つまみ上げるとちょっとチクっとするけど、イモリの方はまったく気にもしていないようだ」。
今回の研究により、防御用の奇妙な適応構造がどのように進化したのかを解明する手掛かりも得られた。
イベリアトゲイモリの長い肋骨は背骨に接合している。接合部は二またの柔軟な関節になっており、肋骨を前方に振り動かせるようになっている。ほかのイモリにも同じような接合部を持つものがあり、脅威に直面したときは肋骨で囲まれた胸郭を大きく広げる。見かけ上の体の大きさが増すため、捕食動物の攻撃を思いとどまらせる効果があるとされる。
「このように単純に“胸を張って”威嚇していたのが、しだいに飛び出しナイフのようなイベリアトゲイモリの肋骨へと進化していった可能性がある」と、研究チームのハイス氏は話す。「体を大きく見せようと進化していくうちに肋骨がどんどん長く伸びる。皮膚が限界まで広がり、ある時点で肋骨が皮膚を突き破る。こうして突き出た肋骨の先端を武器として利用するようになったのだろう」。
「Journal of Zoology」誌オンライン版より
外部の脅威に反応して突き出た肋骨の先端には、毒性の皮膚分泌物がコーティングされている。しかし、この奇妙な適応構造がどのような仕組みなのかはほとんど知られていなかった。従来の学説では、身を縮めて皮膚の専用の穴から肋骨の先端を突き出すという単純な仕組みだと考えられていた。
しかし、オーストリアにあるウィーン大学のエゴン・ハイス氏率いる研究チームにより、実際には肋骨を前方に回転させて、ヤリのように鋭い先端部を皮膚のイボから突き出していることが判明した。
ロンドンにあるオープン・ユニバーシティの生物学者ティム・ハリディ氏は今回の研究を受けて、「この現象は昔から知られていたものだが、肋骨の動きを詳細に調査した研究は初めてだ」と話している。
骨突起がトゲのような機能を持っている動物は数多く存在する。しかし、胸郭を構成する肋骨を“秘密兵器”として振り回すことができるのは、イベリアトゲイモリと近縁のイモリ数種だけに限られるという。
イモリがどのように防御行動を取っているのか明らかにするため、ハイス氏の研究チームは、生きているイモリに綿のボールで触れる実験を行った。捕食動物の攻撃を真似たもので、イモリが防御姿勢に入るまで続けられた。
X線撮影とCTスキャンで解析した結果、肋骨を回転させて体外に“トゲ”を突き出していることが判明した。また、皮膚にトゲ専用の穴がないこともわかった。つまりイベリアトゲイモリは、トゲを突き出すたびに自分の体に穴を開けていたのだ。
体を傷付けることで生じる危険性よりも防御上の利点の方が上回るという判断なのだろう。イベリアトゲイモリは傷を急速に回復させることができるという。「イモリをはじめとした両生類は、驚くべき皮膚の再生能力を備えている」とハイス氏は話す。
イベリアトゲイモリはそれぞれの肋骨の外側部がコラーゲン線維に包まれている。コラーゲンはタンパク質の一種で、人間の体内でも日焼けした肌の修復などに使われている。研究チームは、豊富に存在する肋骨のコラーゲンが傷の回復を促進しているのではないかと推論している。さらに、イベリアトゲイモリは免疫系が非常に強力なので、傷口が化膿(かのう)せずに済む。
前出のハリディ氏は次のように話す。「傷ができてもそれほど悪化せず、負担も少ないようだ。自宅のオフィスの水槽でイベリアトゲイモリを数匹飼っていて、つまみ上げるとちょっとチクっとするけど、イモリの方はまったく気にもしていないようだ」。
今回の研究により、防御用の奇妙な適応構造がどのように進化したのかを解明する手掛かりも得られた。
イベリアトゲイモリの長い肋骨は背骨に接合している。接合部は二またの柔軟な関節になっており、肋骨を前方に振り動かせるようになっている。ほかのイモリにも同じような接合部を持つものがあり、脅威に直面したときは肋骨で囲まれた胸郭を大きく広げる。見かけ上の体の大きさが増すため、捕食動物の攻撃を思いとどまらせる効果があるとされる。
「このように単純に“胸を張って”威嚇していたのが、しだいに飛び出しナイフのようなイベリアトゲイモリの肋骨へと進化していった可能性がある」と、研究チームのハイス氏は話す。「体を大きく見せようと進化していくうちに肋骨がどんどん長く伸びる。皮膚が限界まで広がり、ある時点で肋骨が皮膚を突き破る。こうして突き出た肋骨の先端を武器として利用するようになったのだろう」。
「Journal of Zoology」誌オンライン版より