超空洞からの贈り物

様々なニュースや日常のレビューをメインに暗黒物質並に見つけ難い事を観測する、知識・興味・ムダ提供型共用ネタ帳です。

ホモ接合型の有機EL素子で3原色発光

2009年05月27日 18時34分02秒 | Weblog
現在、研究開発が進むヘテロ接合と異なるホモ接合型の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を東京大学と科学技術振興機構のチームが開発した。

低コストで作れ、電力消費量も小さくてすむディススプレーや照明器具の実現が期待できる成果、と研究チームは言っている。

科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)の研究総括を務める中村 栄一・東京大学大学院理学系研究科教授と、辻 勇人・同准教授、佐藤 佳晴・科学技術振興機構研究員らが開発した素子は、構造が簡単であるのが特徴。現在、開発の主流となっているヘテロ接合と呼ばれる有機EL材料が、異なる種類の有機多層薄膜を重ねた構造であるのに対し、ベンゾジフランにカルバゾールという原子団を結合させた非晶質材料薄膜をインジウムスズ酸化物(陽極)とアルミニウム金属(陰極)で挟んだ形をしている。

非晶質材料としては世界最高レベルの電荷移動度を示し、蛍光、リン光それぞれのEL発光と青・緑・赤の3原色EL発光に成功した。

~以下、詳細~

東京大学大学院理学系研究科化学専攻および科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)中村活性炭素クラスタープロジェクトの研究総括である中村栄一教授と東京大学の辻勇人准教授、中村活性炭素クラスタープロジェクトのグループリーダーである佐藤佳晴研究員らの研究グループは、2007年に亜鉛を用いた分子内環化を鍵反応として、酸素原子を含む縮環π電子共役系化合物である「ベンゾジフラン」を母核とする多様な誘導体の新しい合成法を開発するとともに、ベンゾジフラン誘導体の非晶質薄膜が高い正孔(正電荷)移動度を持つ新規p型半導体材料となることを発見・報告した。

今回、ベンゾジフランに「カルバゾール」という含窒素縮環π電子共役系原子団を結合させることで、非晶質材料としては世界最高レベルの電荷移動度(正孔: 3.7 x 10-3 cm2/Vs、電子:4.4 x 10-3 cm2/Vs.飛行時間法による値)を示す両極性材料(略称:CZBDF)を開発し、この材料を用いて「ホモ接合」と呼ばれる簡単な構造を持つ有機EL素子を作製し、蛍光およびリン光色素による青・緑・赤の三原色EL(エレクトロルミネッセンス)発光に成功した。

CZBDFは,発表者らが開発した亜鉛を用いた分子内環化反応に基づき合成した.この新規両極性材料CZBDFを用いて、ホモ接合型有機EL素子を真空蒸着法により作成した。
すなわち、ガラス基板上のインジウムスズ酸化物(ITO)透明電極を陽極とし、その上に順次、厚さ150~200ナノメートルの有機薄膜、アルミニウム金属(陰極)を真空蒸着により形成した。

この有機薄膜は、CZBDFを単一のマトリックス(ホスト)として、陽極から30ナノメートルの範囲は無機酸化剤(五酸化バナジウム)との共蒸着によるp型ドーピング、陰極から20ナノメートルの範囲は還元剤(金属セシウム)との共蒸着によるn型ドーピングが施されている。
これにより、電極からCZBDFへの電荷注入ならびに電荷輸送を容易にしている。また、酸化剤・還元剤がドープされていない中間層(厚さ50~100 nm)には、青色・緑色蛍光色素、または赤色リン光色素を各々ドープすることで、三原色発光を実現した。特に緑色蛍光素子は6万カンデラ/m2という高輝度において外部量子効率4.2%と、蛍光有機EL素子効率の理論限界(5%)に迫る効率を示した。

このような今回の成果は、新材料CZBDFがもつ以下の性質に依るものであると考えられる。すなわち、(1)高バランスかつ高移動度を持つ両極性であること、(2)HOMO/LUMOエネルギー差が十分大きい(3電子ボルト程度)ワイドギャップ材料であること、(3)発光色素に効果的に電荷を閉じこめることが可能なこと、である。

現在主流の有機EL素子は、5~6種類の異なる材料の有機薄膜を積層したヘテロ接合構造を持つのに対し、今回のような単純なホモ接合型有機EL素子により三原色発光ならびに高効率発光が実現できたことから、今後さらなる新しい材料の開発や素子構造の最適化検討により、低コスト・高効率有機ELディスプレイや照明の開発につながると期待される。
また、有機発光ダイオードと同様の多層構造をもつ有機薄膜太陽電池等への展開も期待され、有機半導体デバイスの構造のパラダイムシフトが加速するものと予想される。

最新の画像もっと見る