鷹守イサヤ💞上主沙夜のブログ

乙女ノベルとライト文芸を書いてる作家です。ご依頼はメッセージから。どちらのジャンルもwelcome!

みおつくし from『戦国花嫁~時空を翔ける恋~』

2016-11-21 | 番外編置き場
こちらは現代編で本編の続きの小話になっています。
現代で再会し、ラブラブなふたりですが……?



(――ここが、晃の通ってる大学……!)
 妙に胸がいっぱいになって、美緒は立ち尽くした。
「どうした?」
 足を止めて晃が振り返る。彼は前世では美緒の夫、藤波崇晃という名の武士だった。
「あ、ううん、なんでもない!」
 梅雨の晴れ間の土曜日。美緒は晃が通う大学を見学に来た。進路指導の教師には『よっぽど頑張らないと無理だね!』と笑顔で断言されてしまったが、それくらいで諦めてなるものか。しゃかりきになって勉強すれば、きっと何とかなるはず、だ。
 晃だって美緒が同じ大学に行きたいと言ったら喜んで、家庭教師をしようかと申し出てくれた。毎週逢えるだけでも嬉しいけれど、頑張って何がなんでも絶対合格せねば……!
 晃の案内で構内を見学しながら、美緒は晴れて合格して彼と一緒にキャンパスを歩く自分を夢想してにまにました。それに気付いて晃が苦笑する。
「ちゃんと勉強してるんだろうな?」
「してるよ! 絶対合格したいもん」
「来週模試だろう? がんばれよ」
「うんっ」
 力を込めて頷くと、晃は眩しそうに微笑んだ。その笑顔に戦国時代の崇晃が重なり、ふいに胸が締めつけられるように切なくなった。鼻の奥が痛くなって顔をゆがめると、晃が心配そうに覗き込んだ。
「どうした? 具合でも悪いのか」
 美緒は口許を押さえ、急いでぶんぶんと首を振った。
「……歩き回って疲れただろう。休憩しようか」
 穏やかに言い、晃は何気なく美緒の手を握って歩きだした。その温かさ、確かさに安堵しながらも、発作的な悲しみの噴出が止まらない。涼しい日陰に座り、平和そのもののキャンパスをぼんやり眺めた。自販機で飲み物を買った晃が戻ってくる。
 ペットボトルのお茶を飲みながら、晃と並んで景色を眺めた。そっと窺った彼の横顔がひどく孤高なものに見えてますます胸が痛くなる。美緒の視線に気付いた晃が、にこりと微笑んだ。美緒は赤くなって肩をすくめた。
「ごめんなさい。時々、妙に込み上げてきちゃって……」
「俺だってあるよ。楽しいとは言いがたい夢も見る」
 彼は静かな黒瞳でじっと美緒を見つめたかと思うと悪戯っぽく笑った。
「でも、美緒の夢は見ないな」
「えーっ!? 冷たっ……」
「美緒はここにいるから、いいんだ」
 力強く言い切り、晃は美緒の手をきゅっと握り締めた。
「……昔の記憶だろうと、夢は夢だ。現実じゃない。でも美緒は現実だ。こうしてここに……、俺の側にいてくれる」
 瞳を潤ませながら美緒は微笑んだ。
「今度は、ずっと一緒だね……。そうだ、叶わなかった約束も、果たしてもらわなきゃ」
「約束?」
「稲穂が実ったら見せてくれるって約束したでしょ? 忘れちゃった?」
 晃は懐かしそうに微笑んだ。
「そうだったな……。温泉にも連れていくはずだった」
「あたし、晃と一緒に綺麗なものをたくさん見たい。いつか蛍を見たよね。すごく綺麗だった……。覚えてる?」
「ああ……。春も秋も冬も、ずっと一緒にいたいって言ってくれたよな」
 美緒は濡れた睫毛を拭ってにっこりした。
「これからいろんなところ、ふたりで一緒に行こうね!」
「美緒が無事に合格したらな」
「うっ……、絶対合格してみせるからっ」
「よし。それじゃ俺は運転免許を取っておこう」
 ニッと笑った顔がふたたびかつての崇晃と重なる。今度は悲しみの代わりに、こうして一緒にいられる喜びが湧き上がった。改めて幸せを噛みしめていると、訝しげな声が美緒を呼んだ。
「あれ? 沢口さん?」
 クラスメートの男子がきょとんとした顔で立っている。焦る美緒の傍らで、晃が勢いよく立ち上がった。びっくりして振り向くと、晃は何故か愕然とした顔で、うろたえたように怒鳴った。
「な……、なんでおまえがここにいる……!?」
(えっ、知り合い?)
 面食らって交互にふたりを見ると、目を丸くしていた男子はにっこりと満面の笑顔になった。
「やぁ! お久しぶりです、崇晃殿! 実に四百年ぶり……、いや四三〇年ぶり、かな?」
「へっ……!?」
 しゃっくりみたいな声は美緒だ。クラスメートの彼は美緒に向かって今までにない親しげな笑みを浮かべた。
「崇晃殿と一緒におられるということは、当然私のことも思い出してくれましたよね?」
「え……。え……っ、えぇえ……!? ま、まさか……、弁丸様……っ!?」
 口をぱくぱくさせて指さしてしまう。彼はニコニコと頷いた。
「またお会いできて嬉しいですよ、姉上」
 クラスメートとはいえ、高三になって初めて同じクラスになった人物だ。まだほとんど喋ったこともない。それに、美緒の知っている弁丸は十二歳の少年だった。だが、こうして見れば確かに面影がある。彼は、かつての弁丸そのものの闊達な笑い声を上げた。
「いやぁ、いつ思い出してくれるかと気を揉みました。これからも仲良くしてくださいねっ」
 唖然とする美緒の傍らで、晃が苦り切った溜息をついた。



……というわけで、今後も何だかんだと騒がしそうな予感です(笑)。


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