10月30日

2010-10-30 12:41:53 | Weblog
鰯雲甕担がれてうごき出す       石田波郷

『春嵐』所収。昭和二十八年作。この句の前に、「甕五十馬車来て下ろす簾の外に」がある。この句では、家内から簾越しに外を見ていると、馬車がやってきて、五十の甕を下ろしていったというのだ。五十は正確に五十と読まなくてもよいだろう。レトリックであって五十ほどでもよいだろう。、たくさんの甕が簾越しに下ろされ、そこに置かれたというのだ。この句を受けて、「鰯雲甕担がれてうごき出す」となっている。簾の季節から鰯雲の季節に変わって、運ばれて来て動かぬものとなっていた甕が、また再び動かされて運び去られていった。「うごき出す」は、自分では動くはずのない甕に、命を与えてその存在感を誇示している。ものの移動に伴う存在の不可思議を思ってしまう。ついつい「アリババと盗賊」の話が念頭に浮かぶ。