急行の速度に入れば枯れふかし 西垣 脩
西垣脩は大阪の船場に生まれ、旧制松山高校時代は「星丘」に参加し、川本臥風に俳句の指導を受けている。俳人としてだけでなく、現代詩人としての活躍も目覚しかったが、五十九歳の若さで急逝した。川本臥風の大学での最後の教え子となった私は、そんないきさつもあって、氏の不在をしみじみ淋しく思う。もう前のことになるが、この句に出会った私は、郷里を離れ松山に暮らす私の心情そのままの句という思いがし、ひたすら驚いたのを思い出す。清冽な句風で知られる氏のあたたかなさびしさが胸を満たす。市街地の駅を出た急行が本来のスピードになるころは、車窓の景色もますます枯れを深めている。内に向かう精神は深くあたたかい。目に映るのは、茎折れ、ところどころに空を映す蓮田、風にさらされた田、すすきや千千の草草の枯れ、寒さを纏う山々。それらは細やかにことさらに鮮明である。こうしたすばらしい日本人の心を世界の人々に知ってほしいと願い「水煙」のホームページに氏の句を載せている。