自己紹介というのは難しいものである。
しゃべりすぎてもよくないし、印象に残らなすぎても上手くない。
ポイントはいくつかあるだろうが、とにかく笑いをとらなければ、
なんて思い詰めてしまうこともあるのではないだろうか。
かくいう私も、そんな一人である。
先日、50人の前で自己紹介をしなければならなくなった。
辞退しようと画策したのだが、そんなでは友達ができないと主催者に脅されたのだ。
仕方なく、知恵を絞って名スピーチをひねりだした。
あまりにひねったせいで、爆笑ポイントを4つ作ってしまった。
聞かされる方はうっとうしいこときわまりないだろうが、気にしてはいられない。
4つの大波で聴衆を取り込むのだ。
その日は、皆の前に立ち、マイクを持って語りかけるというスタイルで、
ホワイトボードに自分の名前を書きこんでから始めるのだという。
大講堂でも忘年会でもないのに、マイクなんて。
そんなことするのは、綾小路きみまろくらいではないか。
いきなり難関だが、ここで好印象を狙うハンターの私にグッドアイデアが降りてきた。
皆は名前を書いて、それきりマジックを置くが、
攻撃的な私は、その後も話のキーワードをボードに書き込むことにしたのだ。
いわゆる授業スタイル。これなら声の小ささも、滑舌の悪さもカバーできる上、より爆笑の合図が明確になるではないか。
突然ひらめいた力技であったが、本番での私はこれのおかげで自分のペースで色を出しつつ、スピーチを進めることに成功した。
ただし、まったく問題がなかったというわけではない。
そろそろフィナーレかというところで、それは起きた。
『小銭をかき集めているうちに、なんとか生活費を稼げるようになりまして~』という、
自虐的な貧乏話から一転、場をなごませる重要場面。
ホワイトボードに『生活費 ゲット!』と爆笑ポイントを書き込もうとしたときだった。
生活費の『費』が書けないのだ。
ここ一番でのド忘れである。しかも、”貝“の部分がわからなくなったとか、部首の上半分が難しいとかの些細な問題ではなく、字そのものが全く思い出せない。文字の雰囲気がぼんやりと浮かぶだけである。
こんなに難しい字が世の中にあったのだろうか。
壇上で自問自答したが一向に思い出す気配がない。仕方なく私は、“費”をそのままぐちゃぐちゃに塗りつぶし、よしとすることにした。文字は『生活●』 となった。
動揺しながら先を続けたが、さらに『ゲット!』と書き加えようとしたら、またおかしなことになった。
今度は『ゲート』と書いてしまったのだ。
なぜだかわからない。しかし、現実に手はそう書き込んでいる。
『生活● ゲート!』
しかも悪いことに、この表現を見ても、何がおかしいのかすぐにわからない、という事態に陥った。
書きたいことと違うなぁ、と思ってはいるのだが、字を睨んでいても『ゲット』が『ゲート』になっているのに気づくけないのだ。
一番前の席の人も「この人、何書いているんだろう」という顔をしている。
何呼吸かしてからようやく気づき、再び上から書き直す。だが、
『生活● ゲシト!』
『ツ』と『シ』を書き分けられない。悲劇はまだ終わっていなかったのだ。
もう私の身に何が起こってしまったのだろうか。
その時になって、私は自分の手がものすごく震えていることに気づいた。
そうか、緊張して手が震えているから、字がしっかり書けないんだ、とやっと理解した。
自分の手がこんなに震えるものだとは。
震える手を見ながら、この手ではもう『ゲット』と書き直す自信がなくなっていた。
仕方なく、マイクに向かって
『すみません、緊張しすぎてうまく書けないんですけど・・・』と告げ、
そのまま、よろしくお願いします、
と聴衆にぺこりと頭を下げ、自己紹介をしめてしまった。
とにかくダサいが、しょうがない。
すると、下げた頭の上を、すごくあったかく大きな拍手がかぶさってきた。
結局、ウケようと思って考えた大きな4つの波は、さざ波に終わり、たいして笑いもとれず、大オチである『生活費 ゲット!』も書けなかった。
これからはいろいろ考え直さなければならないと反省した。
すべての自己紹介が終わり、部屋を出ようとした際、一人のひとに声をかけられ、お茶に誘われた。私が先ほどの自己紹介に失敗したことを悔やんでいたら、その人は、『おもしろかったですよ』と言ってくれた。
いい人もいるものだ。 友達できるかな。
しゃべりすぎてもよくないし、印象に残らなすぎても上手くない。
ポイントはいくつかあるだろうが、とにかく笑いをとらなければ、
なんて思い詰めてしまうこともあるのではないだろうか。
かくいう私も、そんな一人である。
先日、50人の前で自己紹介をしなければならなくなった。
辞退しようと画策したのだが、そんなでは友達ができないと主催者に脅されたのだ。
仕方なく、知恵を絞って名スピーチをひねりだした。
あまりにひねったせいで、爆笑ポイントを4つ作ってしまった。
聞かされる方はうっとうしいこときわまりないだろうが、気にしてはいられない。
4つの大波で聴衆を取り込むのだ。
その日は、皆の前に立ち、マイクを持って語りかけるというスタイルで、
ホワイトボードに自分の名前を書きこんでから始めるのだという。
大講堂でも忘年会でもないのに、マイクなんて。
そんなことするのは、綾小路きみまろくらいではないか。
いきなり難関だが、ここで好印象を狙うハンターの私にグッドアイデアが降りてきた。
皆は名前を書いて、それきりマジックを置くが、
攻撃的な私は、その後も話のキーワードをボードに書き込むことにしたのだ。
いわゆる授業スタイル。これなら声の小ささも、滑舌の悪さもカバーできる上、より爆笑の合図が明確になるではないか。
突然ひらめいた力技であったが、本番での私はこれのおかげで自分のペースで色を出しつつ、スピーチを進めることに成功した。
ただし、まったく問題がなかったというわけではない。
そろそろフィナーレかというところで、それは起きた。
『小銭をかき集めているうちに、なんとか生活費を稼げるようになりまして~』という、
自虐的な貧乏話から一転、場をなごませる重要場面。
ホワイトボードに『生活費 ゲット!』と爆笑ポイントを書き込もうとしたときだった。
生活費の『費』が書けないのだ。
ここ一番でのド忘れである。しかも、”貝“の部分がわからなくなったとか、部首の上半分が難しいとかの些細な問題ではなく、字そのものが全く思い出せない。文字の雰囲気がぼんやりと浮かぶだけである。
こんなに難しい字が世の中にあったのだろうか。
壇上で自問自答したが一向に思い出す気配がない。仕方なく私は、“費”をそのままぐちゃぐちゃに塗りつぶし、よしとすることにした。文字は『生活●』 となった。
動揺しながら先を続けたが、さらに『ゲット!』と書き加えようとしたら、またおかしなことになった。
今度は『ゲート』と書いてしまったのだ。
なぜだかわからない。しかし、現実に手はそう書き込んでいる。
『生活● ゲート!』
しかも悪いことに、この表現を見ても、何がおかしいのかすぐにわからない、という事態に陥った。
書きたいことと違うなぁ、と思ってはいるのだが、字を睨んでいても『ゲット』が『ゲート』になっているのに気づくけないのだ。
一番前の席の人も「この人、何書いているんだろう」という顔をしている。
何呼吸かしてからようやく気づき、再び上から書き直す。だが、
『生活● ゲシト!』
『ツ』と『シ』を書き分けられない。悲劇はまだ終わっていなかったのだ。
もう私の身に何が起こってしまったのだろうか。
その時になって、私は自分の手がものすごく震えていることに気づいた。
そうか、緊張して手が震えているから、字がしっかり書けないんだ、とやっと理解した。
自分の手がこんなに震えるものだとは。
震える手を見ながら、この手ではもう『ゲット』と書き直す自信がなくなっていた。
仕方なく、マイクに向かって
『すみません、緊張しすぎてうまく書けないんですけど・・・』と告げ、
そのまま、よろしくお願いします、
と聴衆にぺこりと頭を下げ、自己紹介をしめてしまった。
とにかくダサいが、しょうがない。
すると、下げた頭の上を、すごくあったかく大きな拍手がかぶさってきた。
結局、ウケようと思って考えた大きな4つの波は、さざ波に終わり、たいして笑いもとれず、大オチである『生活費 ゲット!』も書けなかった。
これからはいろいろ考え直さなければならないと反省した。
すべての自己紹介が終わり、部屋を出ようとした際、一人のひとに声をかけられ、お茶に誘われた。私が先ほどの自己紹介に失敗したことを悔やんでいたら、その人は、『おもしろかったですよ』と言ってくれた。
いい人もいるものだ。 友達できるかな。