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花粉症を認めない母

2013-03-31 21:45:32 | 母について

普段はおおらかで、何事にもこだわらない性格の母だが、
時々よくわからないタイミングで、かたくなになることがある。

例えば、花粉症がそうだ。

春が近づいてくると、母は決まって、目をゴシゴシとこすり始める。
目は真っ赤だし、時期も時期なので、
それは花粉症ではないかと私が指摘すると、まず認めない。
何を言っているのだ、という顔をしながら否定する。
ホコリのせいでかゆいと言い張るのだ。

こんな時私も放っておけばいいのだが、
毎日毎日、目が真っ赤になっているのに、
ホコリはおかしいとわざわざ反論してしまう。

すると今度は、ついつい顔をカーペットに押し当てながら眠ってしまったため、
ホコリがダイレクトに目に入り
異常にかゆくなったのだと、独自の理論をおしてくる。

あまりに熱意を持って語るので、
こちらが折れるという繰り返しである。


なぜここまで母は自分が花粉症であることを認めないのか。
それは単純に、めんどくさいからである。

一度、自分が花粉症であると認めたが最後、
マスクを着けなければならないし、
場合によっては病院に行き、薬をもらってこなければならない。
さらに、同じく花粉症に苦しむ人と顔を合わせたら、
花粉症はつらいよトークをしなければならなくなる。

やらなければならないことが山積みになるのだ。
生活は激変する。
これまでのようにのんきに暮らしていられない。
だから、認めない。


ささやかな抵抗を続けていた母だったが、
ある日、目だけでなく、鼻にも症状が出始めた。
下を向いた途端、突然鼻水が出てきたのだ。

それは不運にも、私と話している最中の出来事だった。
あろうことかこれまで厳しく追及してきた私に現場を押さえられ、
もう観念したのか、それとも無意味な戦いに疲れ果てていたのか、
この時から母はマスクを着けはじめた。

あれほどかたくなに花粉症から目を背けていたのに…
なぜだか私の中に罪悪感が芽生え始めた。

これからの人生、母が花粉症患者として
生きていくことを想うと苦しくなってくる。

母のマスク姿を見る度に、意味もなく、
弁明の言葉をかけたりしてしまう。

「今年は去年より、花粉の量が3倍らしいよ。
 マスクをつけて正解だね」。

せいいっぱいの気持ちである。
なぐさめになっただろうか。

心配する私をよそに、母は平然と答えた。

自分は花粉症ではないのだけれど、
ほこりがすごくて鼻水まで出てきたからマスクをしているのだ。

・・・そうか。まだ母は花粉症ではなかったのか。

なぜここまでかたくななのかわからないが、
こんな時、私は気づくと「ふうん」という薄めのリアクションを返している。


さらに母は、近所の野良猫と仲良くしていることも、
認めていない。

我が家の近所には、
いつもどこからともなくやってくる三毛猫がいるのだが、
このコを見ると、母はよく声をかけたり、
頭をなでてやったりしている。
もともと猫好きなのだ。

三毛猫のほうも、人間が働いている姿を見るのが大好きで、
母が庭で花の手入れをしたり、草むしりをしていると、
急いで走ってきて、ブロック塀の上に座り込む。
そして眩しそうに目を細めながら、
母の仕事ぶりをのんびり眺めるのだ。母もそんな猫に声をかけたりする。

ようは二人(1人と1匹か?)はお友達なのだが、
なぜかこの猫との関係も秘密である。

オフィシャルなつきあいではない、ということなのだ。


だが猫からしたら、そんな設定はもちろん知らない。
母が玄関まで宅配便を受け取りに向かうと、
猫はいつものように様子を見に走ってくる。

宅配便の人とやりとりしている母の姿を見つけるやいなや、
三毛猫は高いブロックの上の方から、
母に向かって「ニャーッ!ニャーッ!」と、いつもの調子で声をかけ始める。

「ワタシ来たよ!来たよ!ニャー!ニャー!」というかんじか。

しかし、母は猫のほうには目もくれず、
宅配便さんと話を続ける。
もう完全に聞こえないふりである。

そうはいっても、明らかに猫は母に向かって鳴いているので、
宅配便さんの方が気遣って、
「猫ちゃん来ましたね」と、さりげなく話を振ってくれたりする。

これほど鳴かれたら、そりゃそうである。

しかし、ここまで状況がそろっていても母は「近所にいる猫ちゃんなんです」と、
気のないそぶりで答えるのだ。
私は知らないんですけどね、と他人のフリを貫くのである。

今朝だって親しそうに、この猫とおしゃべりしていたのだが、
もう、とにかく、秘密である。

なぜここまで猫との関係を認めないのか。このかたくなさは謎である。
もちろん、知らないふりをされていることさえも、
猫の方は気づかないので、
その間も一生懸命、母に向かって鳴き続けている。

ニャー!ニャー!


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