その場しのぎ

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塗装屋さんに外壁を塗り替えてもらいました

2013-04-10 16:03:11 | 私とその周辺について

我が家の壁にはヒビが入っている。
それも、遠目からはっきりわかる亀裂である。

財政難から長年放置していたのだが、
ついにこの壁を、塗り替えることになった。
一大イベントにはりきった父が、
昔から馴染みの業者に頼んでくれるという。


足場を組むことから始まり、壁を洗浄し、
ペンキを塗って乾かして……
もろもろで、作業は2週間ほどかかるという。

我が家で、こんな大規模なリフォームは初めてである。
足場を組むなんて、金持ちのやることだと思っていた。
我が家は貧しいのに、一体どうしてしまったのか。
これではプチセレブ気取りではないか。
これからどんな生活が始まるのか。


などと、初のセレブ体験にワクワクしていたのだが、
作業が始まってすぐ、そう甘いことばかりではないと気づいてしまった。

家の外側の壁を塗るということは、
職人さんがいつも壁のそばにいるということである。
つまり、家の中からは、彼らの声が丸聞こえなのだ。

もちろん窓や雨戸を締めきって作業してもらっているので、
相手の姿は見えない。
お互いどこにいるのかわからないのに、
相手の声だけが聞こえる状態になる。
これがもう、想像以上にしんどい。

さらに、普段はあまり接点のない方たちと接するので、
勝手がわからず、戸惑うことも多い。

作業が始まった日、母は職人さんたちにお菓子を差し入れた。
休憩時間に食べてもらえるようにと、
この日のために、お気に入りのせんべいを用意していたのだ。
食いしん坊の母が、
味と食べやすさを吟味して選んだ渾身のおやつである。

せんべいを渡し終わると、そのまま母はパートへ出掛けて行った。

そこで職人さんたちは、家にはもう誰もいないと思ったようだ。
父親は朝から仕事に向かい、次に母も出かけて行った。
平日の昼間だから、当然である。

だが、我が家の場合は違った。
家にはまだ私がいたのである。

そんなことなど知らない職人さんたちは、
先ほどとはうってかわってリラックスした雰囲気で話し始めた。
笑いあう声も聞こえる。和やかである。

一見無口に見えたが、
意外としゃべり好きなのだなぁとこっそり関心していると、
やがて、話題は母が差し入れたせんべいの話になった。

年配のおじさんの声が聞こえてくる。

「 せんべいか~。

  ……食わねぇな。

  帰って、かあちゃんにあげよう 」


誰が悪いわけではないが、
私は聞きたくもない本音を唐突に聞かされることになった。

しかも内容が内容だけに、少々イラッとする。
よ~考えてみると、ムキーッとしてくる。

「人の好意を何様じゃあおもうとるんじゃ!」
と叫びたくなってくる。
どうにかぎゃふんと言わせてやろうと、
不自然な物音を立てて
「私、いるよ! 」アピールをしようかと企んだのだが、
それはそれで、弱気に襲われてできない。(←いつものことだけど・・・)


その夜、私は正直に、
せんべいが職人さんに喜ばれていないことを母に伝えた。
何も知らずに翌日も同じものを出して、
母が笑われるのはどうしても阻止したい。

「もう明日から何も出さなくて良いのではないか」と提案する。
言い方は工夫して、
「こういう仕事の人は、
 様々な現場でいつも差し入れをもらっているし、
 好みもあるから、必要ないんじゃないか」
と前向きな予想も述べてみる。

かなり思い切って打ち明けたつもりだったが、
母の反応は、ぐぅぅ…というものだった。( ←なんだそれ? )


次の日、母は職人さんに
「出かけてきますね。よろしくお願いします」とだけ声をかけ、家を出た。
差し入れは一旦ストップである。

この日、またしても私は家にいた。(←出かけろよ……!)
すると、職人さんたちは、さて今日も誰もいなくなったと解釈したのか、
またしてもすぐに饒舌になってきた。
そして今度は予想外の声が聞こえてきた。

「なんだ、今日は差し入れ何もないのか」 


……せんべいが欲しいのか欲しくないのか、好きなのか嫌いなのか、

一体どっちなのだあぁぁぁーーー!? 

あぁー! 


アーオぉー!  



とにかく、気まずい毎日なのである。


さらに面倒なことに、私は自分の部屋では、
出窓にぴったりくっつくようにベッドを置いているため、
寝ていると、まさに頭のすぐ斜め後ろから声が聞こえてくるのだ。

壁を一枚隔てているのだが、
まるで耳の真後ろに人が立っていて
しゃべっているような近さである。
会話の内容もはっきり聞こえる。
おそるべし、至近距離。

そのせいで、ここ最近、私は彼らの話し声で起きている。
職人さんが早く現場に到着するため、
地味に私も一緒に早起きしてしまっているのだ。

こんな生活、おかしい。

せめて、聞こえてくる会話の内容が爽やかだったらいいが、
当然そんなこともなく、(←失礼だな)
うなされながら起床する毎日なのだ。
・・・・・・つらい。

さらに、私が目を覚ました後も、
2人の職人さんは普通に会話を続ける。

私がすぐそばにいることを知らないから当然なのだが、
その日は、現場の裏事情までも聞こえてきてしまった。

職人さんたちはチーム制で動いているらしく、
彼らには我が家の他に、もうひとつ請け負っている現場があるという。
だが、そちらの作業が大幅に遅れているという。

その現場には“ヤマちゃん(仮)”なる人物が一人で行かされているようだ。
しかし、そもそも、納期までに到底終わりそうもない作業量なのだという。

「棟梁も、なんでヤマちゃんひとりであそこ行かせたんだろうね、
 間に合わないよ」などと二人は作業をしながらも、心配している。

現場の人選は棟梁が行うのか、
と私もぼんやり納得していたときだ。
職人さんの携帯が鳴った。

どうやら、今話題に上っていた、
ヤマちゃんの現場に応援に行って欲しいとの依頼のようである。

「わかりました。じゃあ今から、奥さんのとこ行って、
 “風が強いので”って言ってきますから」
と彼は答えている。

電話が切られてすぐ、我が家のインターホンが鳴った。


・・・・・・ん? まさか。


職人さんが母と話している。
「風が強いんで、ペンキ飛ばされちゃいますから、
 今日の作業はこれでストップします。また明日来ますね」。

それから数分後、本当に彼らは我が家を引き上げて、どこかへ行ってしまった。

ブーンという車の遠ざかる音が聞こえる。


・・・・・・。


私は母のもとへ行き、聞いてしまった内容をそのまま伝えた。
呼び出しの電話が入ったこと、
ヤマちゃんなる人物の現場が遅れており、そこへ応援に向かったこと。

すると母は

「知ってる。全部聞こえてたもの」

と言った。


・・・・・・2階のみならず、
我が家のどの場所にいてもこの会話は聞こえていたようだ。

全員に手の内を読まれたうえで、他の現場に行くなんなんて……

職人さんよ、我が家も作業が遅れているんですけど。


あっけなく、我が家は見捨てられてしまった。

というか、他の現場が遅れているなら、
風が強いから、なんて小芝居はせず、
正直にそういってくれればこっちだって怒らないのに。

……いや、怒ったかもしれない

……いやいや、全然怒らない!

……うーん、怒るわ。めちゃくちゃ怒るわ!


それはそうと、
ヤマちゃんの現場が無事終わったのか、
気になるところである。

ヤマちゃんがんばれ!


……っていうか、ヤマちゃんて誰だ??


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